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本編
幻の昭和の味!エビのコスモポリタン
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「おはようございます! 最近、寒いですねえ」
「おはよう、そろそろ本格的に冬の支度をしなきゃな」
実家の方では灯油ストーブやこたつを出したという話である。うちのアパートは空調がしっかりしているので備え付けのエアコンで十分だが、体には気をつけたいところだ。
「あ、今日もエビを解凍してるんですね。何を作ってくれるんですか?」
「昭和の幻の味、コスモポリタンだ!」
「コ、コスモポリタン?! どういう料理なんですか?」
俺ですら、今年になってようやく存在を知ったパスタである。同じ名前でもバリエーションはあるようだが、共通しているのはメインの具にエビを使うことのようだ。
「おそらくはナポリタンと同じようにフランス料理が元になっていると思う」
「でもコスモポリタンって、国際派とかそういう意味ですよね?」
「名前の由来はよくわからないんだよな。ナポリタンに語尾を合わせたのかも知れない」
会話をしながら、俺は具材を用意する。にんにく1かけ、玉ねぎ半個、ベーコンは小パック1つ分といったところだ。
「あ、お湯沸かしてもらえるか?」
「はーい。パスタはいつもの1.4ミリのスパゲッティですね」
その間に、俺は材料をカットする。にんにくはみじん切り、玉ねぎは縦に薄切り、ベーコンは細切りにしていく。
*
「……で、結局コスモポリタンってどういうパスタなんですか?」
「まあ順番に説明するから。……玉ねぎに色がついてきたな、そろそろエビを入れるか」
エビに限らず、海産物は火が通り過ぎると硬くなるので後から入れる。
「コスモポリタン。店によって色々な作り方があるみたいだけど、本来はアメリケーヌソースで仕立てるみたいだな」
「アメリケーヌって確か、エビのクリームソースみたいなやつでしたっけ」
なぜアメリカの名前を冠するソースがエビのクリームなのか、由来は諸説あるようだ。ともかく伝統的なフレンチの味であるらしい。
「そうそう、本来はエビのガラをじっくり煮込んで裏ごししたりするみたいだな」
「なんとなく廃れた理由がわかってきました。今みたいにむきエビが普及すると、店でエビガラが出ることもなくなりますからね」
「だな。昔は廃物利用みたいなのも兼ねてエビガラのソースを作っていたのかも知れない」
アラ汁を出す寿司屋は信頼できる、という話を聞いたことがある。活用できるアラがあるのは、素材を丸ごと仕入れているからこそだろう。
「なんにせよ、結構な手間がかかるソースには違いないですね。ケチャップで代用できるナポリタンみたいにはいきませんよね」
「確かに、昔はそうだったろうな。だが、今は違う!」
満を持して、俺は今回の料理の肝であるビスクの粉末を戸棚から取り出した。カップスープシリーズの一つで、本来ならそのまま溶かして飲むためのものだ。
「ビスク! 確かに、これもフレンチのエビクリームですね!」
「スープにするかソースにするかの違いはあるが、基本的なところは共通しているみたいだからな。手頃な代用品としてはちょうどいいだろう」
3袋入って200円少々で買える。ケチャップよりは割高だが、パスタソースとしては妥当だろう。
「スープを溶かすためにパスタの茹で汁を入れていく。とりあえずスープ2人前に対して1カップ、200mlくらい入れて様子を見てみるか」
「本来の作り方だと1人前に150mlだから、それよりも濃い目ですね」
「そういうこと。よくかき混ぜながら混ぜていくんだ」
具材を炒めたフライパンの中に、茹で汁と粉末スープを入れる。フライパンの中が鮮やかなオレンジ色に染まり、良い香りが漂ってくる。
「さて、パスタもそろそろ茹で上がる頃合いだな」
湯切りしたパスタをフライパンに入れる。ここからソースを絡めながら煮詰めていく。汁気が足りないと思ったので、少々お湯を足す。
「なんだかすっごく美味しそうですよ!」
「今回は材料も奮発したからな。まずいわけがない」
いい頃合いになったので、それぞれの皿に取り分ける。
「スパゲッティ・コスモポリタン、完成!」
「絶対美味しいやつですよねこれ」
「粉チーズとタバスコあるからな。好きなだけかけてくれ」
「では、いただきます!」
*
「私、ビスクってスープとしては飲んだことがあるんですけど、やっぱり具が入ってると全然違いますね」
美味そうに食べながら後輩がつぶやく。
「そうだな。エビの風味が濃厚だし、すごく日本人好みの味だと思う。何かのきっかけで流行るかも知れないぞ」
「エビだけじゃなくて、ベーコンが入ってるのもまたいいですよね。洋食でいえば、クラムチャウダーも貝とベーコンの組み合わせですし」
日本料理では魚介と肉類を組み合わせることは普通しないと思うのだが、西洋料理や中国料理では一般的なようである。
「そのあたりもコスモポリタン、つまり国の枠にとらわれない国際人ということなのかもな」
*
「ごちそうさまでした! 今日も美味しかったし、新しい味を知ることができて満足です。私も作ってみよっと」
「今回はむきエビを使ったけど、ソースの時点で完成されてるから具にはそれほどこだわらなくてもいいかもな」
手間を省くのなら、ワンパン調理で味付けはスープの素のみというパターンもありだろう。しかし、コスモポリタンという伝統的な名前を紹介するのであれば、最低限の具は欲しかったのだ。
「でも、具だくさんだとテンション上がりますよね。他に入れるとしたらどんな具がいいですかね?」
「そうだなあ。ピーマンを入れると彩りもいいし、マッシュルームとかのきのこ類を入れると香りが出るだろうな」
「そう考えるとナポリタンに似てますね。洋食の基本具材って感じですかね」
店舗を経営する立場からすると、日持ちする上に使い回しのしやすい具材というのは重宝するはずだ。
「肉も魚介も野菜も、好きなものを入れてみていいと思うぞ」
「エビだけじゃなくてシーフードミックスを入れてみたり!」
「いいな!」
こうして、俺たちの料理の世界は広がっていく。世界にはまだまだ知らないパスタ料理があるはずだ。
「おはよう、そろそろ本格的に冬の支度をしなきゃな」
実家の方では灯油ストーブやこたつを出したという話である。うちのアパートは空調がしっかりしているので備え付けのエアコンで十分だが、体には気をつけたいところだ。
「あ、今日もエビを解凍してるんですね。何を作ってくれるんですか?」
「昭和の幻の味、コスモポリタンだ!」
「コ、コスモポリタン?! どういう料理なんですか?」
俺ですら、今年になってようやく存在を知ったパスタである。同じ名前でもバリエーションはあるようだが、共通しているのはメインの具にエビを使うことのようだ。
「おそらくはナポリタンと同じようにフランス料理が元になっていると思う」
「でもコスモポリタンって、国際派とかそういう意味ですよね?」
「名前の由来はよくわからないんだよな。ナポリタンに語尾を合わせたのかも知れない」
会話をしながら、俺は具材を用意する。にんにく1かけ、玉ねぎ半個、ベーコンは小パック1つ分といったところだ。
「あ、お湯沸かしてもらえるか?」
「はーい。パスタはいつもの1.4ミリのスパゲッティですね」
その間に、俺は材料をカットする。にんにくはみじん切り、玉ねぎは縦に薄切り、ベーコンは細切りにしていく。
*
「……で、結局コスモポリタンってどういうパスタなんですか?」
「まあ順番に説明するから。……玉ねぎに色がついてきたな、そろそろエビを入れるか」
エビに限らず、海産物は火が通り過ぎると硬くなるので後から入れる。
「コスモポリタン。店によって色々な作り方があるみたいだけど、本来はアメリケーヌソースで仕立てるみたいだな」
「アメリケーヌって確か、エビのクリームソースみたいなやつでしたっけ」
なぜアメリカの名前を冠するソースがエビのクリームなのか、由来は諸説あるようだ。ともかく伝統的なフレンチの味であるらしい。
「そうそう、本来はエビのガラをじっくり煮込んで裏ごししたりするみたいだな」
「なんとなく廃れた理由がわかってきました。今みたいにむきエビが普及すると、店でエビガラが出ることもなくなりますからね」
「だな。昔は廃物利用みたいなのも兼ねてエビガラのソースを作っていたのかも知れない」
アラ汁を出す寿司屋は信頼できる、という話を聞いたことがある。活用できるアラがあるのは、素材を丸ごと仕入れているからこそだろう。
「なんにせよ、結構な手間がかかるソースには違いないですね。ケチャップで代用できるナポリタンみたいにはいきませんよね」
「確かに、昔はそうだったろうな。だが、今は違う!」
満を持して、俺は今回の料理の肝であるビスクの粉末を戸棚から取り出した。カップスープシリーズの一つで、本来ならそのまま溶かして飲むためのものだ。
「ビスク! 確かに、これもフレンチのエビクリームですね!」
「スープにするかソースにするかの違いはあるが、基本的なところは共通しているみたいだからな。手頃な代用品としてはちょうどいいだろう」
3袋入って200円少々で買える。ケチャップよりは割高だが、パスタソースとしては妥当だろう。
「スープを溶かすためにパスタの茹で汁を入れていく。とりあえずスープ2人前に対して1カップ、200mlくらい入れて様子を見てみるか」
「本来の作り方だと1人前に150mlだから、それよりも濃い目ですね」
「そういうこと。よくかき混ぜながら混ぜていくんだ」
具材を炒めたフライパンの中に、茹で汁と粉末スープを入れる。フライパンの中が鮮やかなオレンジ色に染まり、良い香りが漂ってくる。
「さて、パスタもそろそろ茹で上がる頃合いだな」
湯切りしたパスタをフライパンに入れる。ここからソースを絡めながら煮詰めていく。汁気が足りないと思ったので、少々お湯を足す。
「なんだかすっごく美味しそうですよ!」
「今回は材料も奮発したからな。まずいわけがない」
いい頃合いになったので、それぞれの皿に取り分ける。
「スパゲッティ・コスモポリタン、完成!」
「絶対美味しいやつですよねこれ」
「粉チーズとタバスコあるからな。好きなだけかけてくれ」
「では、いただきます!」
*
「私、ビスクってスープとしては飲んだことがあるんですけど、やっぱり具が入ってると全然違いますね」
美味そうに食べながら後輩がつぶやく。
「そうだな。エビの風味が濃厚だし、すごく日本人好みの味だと思う。何かのきっかけで流行るかも知れないぞ」
「エビだけじゃなくて、ベーコンが入ってるのもまたいいですよね。洋食でいえば、クラムチャウダーも貝とベーコンの組み合わせですし」
日本料理では魚介と肉類を組み合わせることは普通しないと思うのだが、西洋料理や中国料理では一般的なようである。
「そのあたりもコスモポリタン、つまり国の枠にとらわれない国際人ということなのかもな」
*
「ごちそうさまでした! 今日も美味しかったし、新しい味を知ることができて満足です。私も作ってみよっと」
「今回はむきエビを使ったけど、ソースの時点で完成されてるから具にはそれほどこだわらなくてもいいかもな」
手間を省くのなら、ワンパン調理で味付けはスープの素のみというパターンもありだろう。しかし、コスモポリタンという伝統的な名前を紹介するのであれば、最低限の具は欲しかったのだ。
「でも、具だくさんだとテンション上がりますよね。他に入れるとしたらどんな具がいいですかね?」
「そうだなあ。ピーマンを入れると彩りもいいし、マッシュルームとかのきのこ類を入れると香りが出るだろうな」
「そう考えるとナポリタンに似てますね。洋食の基本具材って感じですかね」
店舗を経営する立場からすると、日持ちする上に使い回しのしやすい具材というのは重宝するはずだ。
「肉も魚介も野菜も、好きなものを入れてみていいと思うぞ」
「エビだけじゃなくてシーフードミックスを入れてみたり!」
「いいな!」
こうして、俺たちの料理の世界は広がっていく。世界にはまだまだ知らないパスタ料理があるはずだ。
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