1 / 10
0:この世の限り。
しおりを挟む
さて、どこから話そうか。
僕はかれこれ10年ものあいだ、ペンを右手に迷っている。
『物語は人物の数だけ形を変える』とは、僕が大好きな小説の言葉なのだけれど……書き手になって初めて『その通り』と理解した。物語には軸となる人物が必要だ。
それは、吾が輩は猫であるのように『語り部』自身ということもあるし、ホームズとワトソンのように、影に徹する語り部をまばゆく照らす『相棒』である場合もある。不思議のくにのアリスや、オズの魔法使いのドロシーのような『無知なる被害者』もまた主人公として機能するし、夢野久作の死後の恋のごとく『すべてを知るもの』を主人公兼語り部に据えれば、終息する物語は完璧な予定調和を演出できるだろう。
しかし、これだけ分かっていても、僕は選択できなかった。僕の知る筋書きには、主人公に『なるべき』人が、あまりにもたくさんいるもので。
さて、誰から書くべきか。
この10年、この悩みが消えることは無かったし、きっと僕はまた迷うのだろうと分かっている。
物語が終わっても。いくつクライマックスを書き上げても。
これが紙面上で活字になるときが来たとしても、僕は迷いながらペンを動かすし、ヒステリーみたいに過去の作品を削除したい衝動に駆られるのだ。
でも、そんな一進一退だったこの10年で、ひとつ学んだことがある。
それは、物語は必ずしも『一番最初』から始めなくちゃいけないわけじゃあないってことだ。
必要なのは、分かりやすさ。物語に適した『台風の目』になる存在。
つまり、そう。僕は最初から、いちばん良く知る彼女の話からすれば良かったんだ。
何も、少年だけがヒーローっていう絶対のルールがあるわけじゃあないんだから。
読者は、女の子が主人公だからといって、甘酸っぱい素敵な恋や、青い春の刹那にある淡い煌めきを期待するのかもしれない。
でも、彼女に限っては、そんなものは無いと断言しておこう。
彼女にあるのは、稲妻のような直感と行動力、炉に躍る絶えない火のような好奇心と、研ぎ澄まされた刃金の意志。高い高い荒れ果てた山肌に、ひっそりと君臨する孤高の紫の花のような可憐さに、闇の中でも目を凝らそうとする勇気と気高さ。
彼女の物語のテーマとなるのは、努力・根性・悪運・屁理屈。
それこそがエリカ・クロックフォード。僕が臆面も無く言える『一番さいこうのひと』。
僕にとって彼女は、生まれ変わっても出会いたい最高の相棒で、最高の魔術師。
僕が定めた3人の主人公のうち、エリカほど、この物語に深く根付いた人はいない。
なんで今まで、彼女の話をするのを躊躇っていたのかって?
それはね。
彼女の話をするためには、まず、僕と彼女の出会いの物語からしなければならない。そのためには、僕という人が何者かを明確にしなければ、読者は非常に混乱することだろう。初っ端に自分のことをネタバレするのが恥ずかしかった……それだけなんだ。情けないことに。
でも、よくよく考えれば、そんなのはいずれ書かなきゃいけないこと。遅いか早いかの違いだけ。10年目で、ようやく僕は気が付いたのだ。
だから少しだけ、一介の語り部である、僕自身の話に目を傾けてほしい。いま初めて僕は、この過去であり未来でもある奇妙な体験を『物語』に仕立てようと思う。
その物語の主人公の名前は『佐藤幸一』。
最初の舞台は1999年7月31日。
それは、僕の14才の誕生日。
日本にある、ありふれたどこかの街で起こった異変イレギュラー。
僕の世界に『ありえないこと』が無くなった、革新的な日のことだった。
僕はかれこれ10年ものあいだ、ペンを右手に迷っている。
『物語は人物の数だけ形を変える』とは、僕が大好きな小説の言葉なのだけれど……書き手になって初めて『その通り』と理解した。物語には軸となる人物が必要だ。
それは、吾が輩は猫であるのように『語り部』自身ということもあるし、ホームズとワトソンのように、影に徹する語り部をまばゆく照らす『相棒』である場合もある。不思議のくにのアリスや、オズの魔法使いのドロシーのような『無知なる被害者』もまた主人公として機能するし、夢野久作の死後の恋のごとく『すべてを知るもの』を主人公兼語り部に据えれば、終息する物語は完璧な予定調和を演出できるだろう。
しかし、これだけ分かっていても、僕は選択できなかった。僕の知る筋書きには、主人公に『なるべき』人が、あまりにもたくさんいるもので。
さて、誰から書くべきか。
この10年、この悩みが消えることは無かったし、きっと僕はまた迷うのだろうと分かっている。
物語が終わっても。いくつクライマックスを書き上げても。
これが紙面上で活字になるときが来たとしても、僕は迷いながらペンを動かすし、ヒステリーみたいに過去の作品を削除したい衝動に駆られるのだ。
でも、そんな一進一退だったこの10年で、ひとつ学んだことがある。
それは、物語は必ずしも『一番最初』から始めなくちゃいけないわけじゃあないってことだ。
必要なのは、分かりやすさ。物語に適した『台風の目』になる存在。
つまり、そう。僕は最初から、いちばん良く知る彼女の話からすれば良かったんだ。
何も、少年だけがヒーローっていう絶対のルールがあるわけじゃあないんだから。
読者は、女の子が主人公だからといって、甘酸っぱい素敵な恋や、青い春の刹那にある淡い煌めきを期待するのかもしれない。
でも、彼女に限っては、そんなものは無いと断言しておこう。
彼女にあるのは、稲妻のような直感と行動力、炉に躍る絶えない火のような好奇心と、研ぎ澄まされた刃金の意志。高い高い荒れ果てた山肌に、ひっそりと君臨する孤高の紫の花のような可憐さに、闇の中でも目を凝らそうとする勇気と気高さ。
彼女の物語のテーマとなるのは、努力・根性・悪運・屁理屈。
それこそがエリカ・クロックフォード。僕が臆面も無く言える『一番さいこうのひと』。
僕にとって彼女は、生まれ変わっても出会いたい最高の相棒で、最高の魔術師。
僕が定めた3人の主人公のうち、エリカほど、この物語に深く根付いた人はいない。
なんで今まで、彼女の話をするのを躊躇っていたのかって?
それはね。
彼女の話をするためには、まず、僕と彼女の出会いの物語からしなければならない。そのためには、僕という人が何者かを明確にしなければ、読者は非常に混乱することだろう。初っ端に自分のことをネタバレするのが恥ずかしかった……それだけなんだ。情けないことに。
でも、よくよく考えれば、そんなのはいずれ書かなきゃいけないこと。遅いか早いかの違いだけ。10年目で、ようやく僕は気が付いたのだ。
だから少しだけ、一介の語り部である、僕自身の話に目を傾けてほしい。いま初めて僕は、この過去であり未来でもある奇妙な体験を『物語』に仕立てようと思う。
その物語の主人公の名前は『佐藤幸一』。
最初の舞台は1999年7月31日。
それは、僕の14才の誕生日。
日本にある、ありふれたどこかの街で起こった異変イレギュラー。
僕の世界に『ありえないこと』が無くなった、革新的な日のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった
あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。
戦闘能力ゼロ、初期レベル1。
冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、
新人向けの雑用クエストしか回ってこない。
しかしそのスキルは、
ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する”
という、とんでもない能力だった。
生き残るために始めた地味な探索が、
やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。
これは、
戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。
同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる