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0:この世の限り。
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さて、どこから話そうか。
僕はかれこれ10年ものあいだ、ペンを右手に迷っている。
『物語は人物の数だけ形を変える』とは、僕が大好きな小説の言葉なのだけれど……書き手になって初めて『その通り』と理解した。物語には軸となる人物が必要だ。
それは、吾が輩は猫であるのように『語り部』自身ということもあるし、ホームズとワトソンのように、影に徹する語り部をまばゆく照らす『相棒』である場合もある。不思議のくにのアリスや、オズの魔法使いのドロシーのような『無知なる被害者』もまた主人公として機能するし、夢野久作の死後の恋のごとく『すべてを知るもの』を主人公兼語り部に据えれば、終息する物語は完璧な予定調和を演出できるだろう。
しかし、これだけ分かっていても、僕は選択できなかった。僕の知る筋書きには、主人公に『なるべき』人が、あまりにもたくさんいるもので。
さて、誰から書くべきか。
この10年、この悩みが消えることは無かったし、きっと僕はまた迷うのだろうと分かっている。
物語が終わっても。いくつクライマックスを書き上げても。
これが紙面上で活字になるときが来たとしても、僕は迷いながらペンを動かすし、ヒステリーみたいに過去の作品を削除したい衝動に駆られるのだ。
でも、そんな一進一退だったこの10年で、ひとつ学んだことがある。
それは、物語は必ずしも『一番最初』から始めなくちゃいけないわけじゃあないってことだ。
必要なのは、分かりやすさ。物語に適した『台風の目』になる存在。
つまり、そう。僕は最初から、いちばん良く知る彼女の話からすれば良かったんだ。
何も、少年だけがヒーローっていう絶対のルールがあるわけじゃあないんだから。
読者は、女の子が主人公だからといって、甘酸っぱい素敵な恋や、青い春の刹那にある淡い煌めきを期待するのかもしれない。
でも、彼女に限っては、そんなものは無いと断言しておこう。
彼女にあるのは、稲妻のような直感と行動力、炉に躍る絶えない火のような好奇心と、研ぎ澄まされた刃金の意志。高い高い荒れ果てた山肌に、ひっそりと君臨する孤高の紫の花のような可憐さに、闇の中でも目を凝らそうとする勇気と気高さ。
彼女の物語のテーマとなるのは、努力・根性・悪運・屁理屈。
それこそがエリカ・クロックフォード。僕が臆面も無く言える『一番さいこうのひと』。
僕にとって彼女は、生まれ変わっても出会いたい最高の相棒で、最高の魔術師。
僕が定めた3人の主人公のうち、エリカほど、この物語に深く根付いた人はいない。
なんで今まで、彼女の話をするのを躊躇っていたのかって?
それはね。
彼女の話をするためには、まず、僕と彼女の出会いの物語からしなければならない。そのためには、僕という人が何者かを明確にしなければ、読者は非常に混乱することだろう。初っ端に自分のことをネタバレするのが恥ずかしかった……それだけなんだ。情けないことに。
でも、よくよく考えれば、そんなのはいずれ書かなきゃいけないこと。遅いか早いかの違いだけ。10年目で、ようやく僕は気が付いたのだ。
だから少しだけ、一介の語り部である、僕自身の話に目を傾けてほしい。いま初めて僕は、この過去であり未来でもある奇妙な体験を『物語』に仕立てようと思う。
その物語の主人公の名前は『佐藤幸一』。
最初の舞台は1999年7月31日。
それは、僕の14才の誕生日。
日本にある、ありふれたどこかの街で起こった異変イレギュラー。
僕の世界に『ありえないこと』が無くなった、革新的な日のことだった。
僕はかれこれ10年ものあいだ、ペンを右手に迷っている。
『物語は人物の数だけ形を変える』とは、僕が大好きな小説の言葉なのだけれど……書き手になって初めて『その通り』と理解した。物語には軸となる人物が必要だ。
それは、吾が輩は猫であるのように『語り部』自身ということもあるし、ホームズとワトソンのように、影に徹する語り部をまばゆく照らす『相棒』である場合もある。不思議のくにのアリスや、オズの魔法使いのドロシーのような『無知なる被害者』もまた主人公として機能するし、夢野久作の死後の恋のごとく『すべてを知るもの』を主人公兼語り部に据えれば、終息する物語は完璧な予定調和を演出できるだろう。
しかし、これだけ分かっていても、僕は選択できなかった。僕の知る筋書きには、主人公に『なるべき』人が、あまりにもたくさんいるもので。
さて、誰から書くべきか。
この10年、この悩みが消えることは無かったし、きっと僕はまた迷うのだろうと分かっている。
物語が終わっても。いくつクライマックスを書き上げても。
これが紙面上で活字になるときが来たとしても、僕は迷いながらペンを動かすし、ヒステリーみたいに過去の作品を削除したい衝動に駆られるのだ。
でも、そんな一進一退だったこの10年で、ひとつ学んだことがある。
それは、物語は必ずしも『一番最初』から始めなくちゃいけないわけじゃあないってことだ。
必要なのは、分かりやすさ。物語に適した『台風の目』になる存在。
つまり、そう。僕は最初から、いちばん良く知る彼女の話からすれば良かったんだ。
何も、少年だけがヒーローっていう絶対のルールがあるわけじゃあないんだから。
読者は、女の子が主人公だからといって、甘酸っぱい素敵な恋や、青い春の刹那にある淡い煌めきを期待するのかもしれない。
でも、彼女に限っては、そんなものは無いと断言しておこう。
彼女にあるのは、稲妻のような直感と行動力、炉に躍る絶えない火のような好奇心と、研ぎ澄まされた刃金の意志。高い高い荒れ果てた山肌に、ひっそりと君臨する孤高の紫の花のような可憐さに、闇の中でも目を凝らそうとする勇気と気高さ。
彼女の物語のテーマとなるのは、努力・根性・悪運・屁理屈。
それこそがエリカ・クロックフォード。僕が臆面も無く言える『一番さいこうのひと』。
僕にとって彼女は、生まれ変わっても出会いたい最高の相棒で、最高の魔術師。
僕が定めた3人の主人公のうち、エリカほど、この物語に深く根付いた人はいない。
なんで今まで、彼女の話をするのを躊躇っていたのかって?
それはね。
彼女の話をするためには、まず、僕と彼女の出会いの物語からしなければならない。そのためには、僕という人が何者かを明確にしなければ、読者は非常に混乱することだろう。初っ端に自分のことをネタバレするのが恥ずかしかった……それだけなんだ。情けないことに。
でも、よくよく考えれば、そんなのはいずれ書かなきゃいけないこと。遅いか早いかの違いだけ。10年目で、ようやく僕は気が付いたのだ。
だから少しだけ、一介の語り部である、僕自身の話に目を傾けてほしい。いま初めて僕は、この過去であり未来でもある奇妙な体験を『物語』に仕立てようと思う。
その物語の主人公の名前は『佐藤幸一』。
最初の舞台は1999年7月31日。
それは、僕の14才の誕生日。
日本にある、ありふれたどこかの街で起こった異変イレギュラー。
僕の世界に『ありえないこと』が無くなった、革新的な日のことだった。
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