群雄割拠した異世界では訳アリな人物で溢れていた

霧矢風月

文字の大きさ
29 / 110

第29話 開店準備

しおりを挟む
「ごめん、二人には嫌な思いをさせた」

 開口一番、シェーナは二人に頭を下げた。
 店の責任者として二人を守らないといけない立場なのに、カリューに捻じ伏せられてしまった。リィーシャが仲裁に入る形で無事に済んだが、そうでなければ今頃どうなっていたか想像もしたくない。
 キシャナはシェーナの手を握ると、慰めの言葉をかける。

「シェーナが謝ることじゃないよ。それに私は慣れているから……」
「駄目だ! もうキシャナには辛い思いを絶対にさせない!」

 ダークエルフであることに、周囲はキシャナを冷遇してきた。
 彼女を陥れるような輩は追い払うし、それがリンスル聖王国の神官戦士だろうが関係ない。
 ルトルスはシェーナが防具屋で用意したプレートメイルに着替えると大剣を背負う。

「昨日、シェーナが話していた『闇核ダークコア』を取りに行くよ。二人は料理の用意をしていてくれ」
「やはり私も同行するよ。ルトルスの足を引っ張らないように頑張る」
「シェーナは店のリーダーだ。私は料理が得意とは言えないし、力仕事は私の担当だ。魔物討伐は一人で十分だから気持ちだけ受け取っておくよ」

 ルトルスには昨日、店の経営について一通り説明すると『闇核ダークコア』の採取を買って出てくれた。
 実力は承知しているが、やはり一人で向かわせるのは忍びない。
 商業ギルドの冒険者を募って魔物討伐を勧めたが、即席のパーティーだと連携もままならないし、単独の方が性に合っているからと断られた。
 ルトルスの背中を見送ると、シェーナは彼女を呼び止める。

「ルトルスには私やキシャナがいる。待っていてくれる人がいることを忘れないでくれ」
「……ありがとう。期待して待っていてくれ」

 ルトルスは笑顔で応えると、暗黒騎士と決別するために漆黒の鎧を脱ぎ捨てて、新たな一歩を踏み出す。

「彼女も頑張っているし、私もしっかりしないとね!」

 キシャナは明るい足取りで台所にある食材のチェックを始めると、足りない食材があるので商業ギルド『森の聖弓』の窓口へ向かうことにする。
 商業ギルドによって取り扱っている依頼は大きく違っている。
 商業ギルド『女神の剣』はギルド長を勇者が務めており、主に魔物討伐の依頼が多く舞い込んでくることで有名だ。『古の古文書』はギルド長をハシェル国の魔道協会理事長が代々務めており、主に魔法に関するアイテムの入手や古代遺跡の探索等の依頼が多い。『森の聖弓』はギルド長をリィーシャが務めており、主に他種族からの様々な依頼を受け付けている。
 『女神の剣』や『古の古文書』に比べると小規模なギルドだが、『森の聖弓』には穀物や家畜を育てているエルフの生産者から直接仕入れたりもできるので、料理店を営むシェーナ達には小売業者を通さないで安く仕入れたりできる利点がある。
 気掛かりなのは、キシャナがダークエルフであることだ。

「その心配はないよ。『森の聖弓』所属のエルフはリィーシャさんに賛同している人達で形成されているのがほとんどだよ。だからシェーナが考えているようなことは何もないよ」

 すぐに試作で必要な食材は商業地区の商人から揃えていたが、料理店の営業が始まったら基本的に『森の聖弓』を経由して食材を確保するルートをキシャナは開拓していた。

「シェーナは留守番を頼むよ」
「気を付けて行って来いよ。俺は料理レシピに目を通しているからな」

 店に一人になったシェーナは料理レシピを取り出すと、頼もしい二人に恥ずかしくない働きをしようと一層の努力と気合を入れて臨んでいく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...