群雄割拠した異世界では訳アリな人物で溢れていた

霧矢風月

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第30話 シェーナとサリーニャ

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 料理レシピの手順を確認すると、帳簿に目を通して料理の試作で仕入れた食材の領収書や請求書の束を計算していく。
 料理を提供するのは勿論だが、無駄な費用を削って利益を出していくのは大切なことだ。
 前世のアイデアをヒントに、ポイントカードの配布も考えた。
 ハーブティーを注文した客を対象に、一回の注文に一ポイントを付与する。十ポイントためたら、ハーブティーを一杯無料にする。異世界でハーブティーを提供する店は少ないし、キシャナの作るハーブティーは群を抜いて美味しい。無料と銘打って固定客を確保できればいいが、キシャナは純粋に味で勝負したいと言うのでポイントカードは保留にしている。
 帳簿と格闘していると、眠たそうな声がシェーナの耳に届いた。

「おはよう。朝食はもらえるかしら?」
「ああ、サリーニャか。仕度するから適当に席へ座っててよ」

 目にクマができているサリーニャは徹夜で錬金術の作業をしていたようだ。
 昨日、冷蔵庫のテスト稼働をすると言っていたから彼女を労うためにも美味しい料理を作ろうと思う。
 シェーナは台所にある食材を見渡そうとするが、背後からサリーニャが抱き付く。

「……私は君が欲しい」
「ちょっと、冗談はやめてくれよ」
「冗談じゃないよ。私が転生したきっかけは話していないだろ?」

 そういえば、サリーニャが転生したことに疑問は抱いていなかった。
 前世で飛行機の搭乗前に出席の確認をしていた。
 そこで樫山円は欠席だったので事故には遭遇していないと思っていた。

「私は遅刻して、ギリギリで例の飛行機に乗ったんだよ。それが運の尽きだね。前世で生活水準が高い生活をすると、異世界の暮らしは我慢ならなかったよ。スマホやネットもないし、生活が一変したのはショックだった。でも、最近はそうでもないよ。料理の美味しい店を見つけることができたし、こうして好きな人と一緒にいられるからね」

 気が付いたらエルフに転生して、独学で錬金術を学んで今に至る訳だが、同じ境遇の人間が現れてからサリーニャは変化していった。

「サリーニャ……いや、樫山さん!? 俺も本当は君の事が……」

 シェーナは意を決して、前世の初恋相手だったことを打ち明けようと思う。
 それが今では叶わない恋でも――。

「君のような純粋な心の持ち主である女騎士は珍しいから好きだよ。それで相談なんだが、今度は違うバージョンで声の録音をさせてくれないか? 錬金術の効率と同人誌の創作にも意欲が湧くからさ」

 サリーニャは録音機器をチラつかせながら、シェーナの耳元で囁く。

「……はいはい、朝食の仕度をするから席に座って下さいよ」

 深い溜息と落胆をするシェーナはサリーニャを黙らせると、打ち明けることは当分と言うか永久にないかもしれないと思った。
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