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第109話 エルフの里 夜空の下で
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視察に来るとは聞いていたが、こんなにも早く姿を現すとは思わなかった。
「私はシェーナ……」
「シェーナ・ウラバルト。ハシェル国の元第三近衛隊隊長さんだろ? 齢十八歳で隊長に就任するとは素晴らしい経歴の持ち主だ」
シェーナは簡単に自己紹介をしようと思った矢先に、ハラルドはシェーナの経歴を述べた。
「そちらはガフェーナのディアン枢機卿の直属配下のルトルス・ライヤー副団長に姉のカルラ・ライヤー団長。姉のカルラは死亡したと噂が流れていましたが、どうやら勘違いのようでしたね」
「……よくご存じで」
「視察する国の情報は把握しておくのが鉄則でしてね。私はリンスルの神官戦士カリューのように、シェーナさん達を断罪するつもりはありませんよ。あくまでロスロから視察に訪れただけですからね」
ハラルドはプライデンの内情を把握しているようで、視察には先行して単独で訪れたようだ。
他国の文化や風習に興味があるようで、特に食文化については目がない様子だ。
「プライデンの料理は美味しいですね。この野菜スープも野菜の甘味が口に溶け込んで素晴らしい」
「我々もプライデンの城塞都市で料理店を営んでおります。明日までエルフの里に滞在する予定ですので、明後日に我々と馬車で城塞都市までご一緒しませんか?」
「そうさせてもらいます。たまたま視察で立ち寄ったエルフの里に勇者一行のリィーシャ殿と出会えて、シェーナさんの事を聞いた時は運が良かった。直行で城塞都市に向かっていたら、待ちぼうけに合うところでしたよ」
どうやら歴史資料館と別れた後、リィーシャはハラルドに会ったらしい。
シェーナはハラルドにご同行を願って、すんなり受け入れてもらえた。
人当たりの良い女性に見えるが、聖騎士と名乗っているのに違和感があった。
鎧は外して部屋に置いてあるのかもしれないが、剣をどこにも差していない。
ハラルドはシェーナ達に一人ずつ握手を交わしていく。
「そんなに警戒なさらず、仲良くやりましょう!」
シェーナの心を見透かしているように、ハラルドは夕食を終えて笑顔で外へ出て行った。
まるで台風が過ぎ去ったみたいにシェーナ達の心に残る人物だった。
キシャナは冷めたスープを口にして、ハラルドの人なりを分析する。
「悪い人じゃなさそうだな。別にルトルスを目の敵にしている様子もなかったし、しばらく様子を見て預かろうじゃないか」
「何かあったら、リィーシャさんと相談するよ。とりあえず、俺達も食事を済ませてしまおう」
シェーナは話を締め括ると、テーブルの食事を平らげて、それぞれ自室に戻った。
部屋にあるベッドにグラナは潜ると、しばらくして寝息を立てる。
キシャナは温泉に行く仕度を整えると、シェーナも誘ってみる。
「グラナは先に寝てしまったな。私は温泉にもう一度浸かりに行くけど、シェーナはどうする?」
「俺はいいや。多分、キシャナが戻ってくる頃には俺もベッドで寝ているから、部屋の戸締りは最後に頼むよ」
「そうか。温泉のついでに私もお土産を見て来るよ」
「ああ、行っておいで」
シェーナはキシャナを見送ると、小窓を開けて夜空を眺める。
前世や異世界転生してから、夜空を眺める機会は滅多になかった。
雲一つない星空は地上を照らして幻想的だ。
「綺麗な女性と夜空は神秘的で絵になるな」
シェーナは声の主に振り返ると、グラナがベッドから起き上がっていた。
「ああ、起こしてすまない。寒かったか?」
「いや、大丈夫だ。少し喉が渇いてね」
グラナは竹筒の水を飲むと、シェーナの傍に寄って軽く肩を叩く。
「心配しなくてもいい。シェーナ達は今まで通りの生活が送れる」
「……元魔王って言うのは何でもお見通しなのだな」
「先程のロスロの聖騎士を見て確信に変わった。あれは剣神ペトラに匹敵するかもしれない」
「どういうことだ?」
「一万年前にペトラが異大陸の連中を撃退したのは知っているだろ? 今では二重人格のお人好し女神と荒々しい性格の剣神が住み分けているが、剣の腕は健在だ」
シェーナは南エリアのトーナメント大会で暴れたペトラを思い出すと、たしかに並の剣士では歯が立たなかった。リィーシャが機転を利かせて騒動を鎮静化させてくれたが、本気で暴れていたらどうなっていた事だろうか。
「あのハラルドって聖騎士にそんな実力があるのか?」
「少なくとも、私はそう判断した。多分、リィーシャやペトラ自身も間近で会って、そう感じている筈だよ」
グラナがそこまで言い切るのなら、おそらく本当なのだろう。
グラナは話を切り替えて、店の仕事についてシェーナに相談を持ち掛ける。
「それより、今度私にも料理を本格的に教えてくれ。正直言うと、皿洗いだけでは飽きてきた」
「そうだな……弁当でも作ってみるか」
「弁当?」
「ああ、リィーシャさんが支援する孤児院の子供達に弁当を届けようかなって考えていたんだ」
「面白そうだな。どんな弁当を作るんだ?」
「前世の子供にも人気だったキャラ弁を作ろうかな」
シェーナはキャラ弁についてグラナに説明すると、興味を示してくれた。
子供に分かり易いキャラクターと言えば、身近にいる動物の犬や猫が定番だ。
「俺もキャラ弁は初めて作るから、キシャナと相談して創作に移ろうかと思ってたんだ。手伝ってくれるか?」
「勿論さ。シェーナには金貨一枚で沢山の同人誌を買うことができたからな」
「えっ? まさか……買ったのは一冊だけじゃなかったのか!」
「いや、本当はあの一冊だけにしようかと思ったら、掘り出し物を色々と見つけてね。金貨一枚を全部使い切った」
金貨一枚を太っ腹に渡したシェーナにも非はあるが、ペトラを含めて、グラナにはお金の使い道について話しておこうとシェーナは思った。
「私はシェーナ……」
「シェーナ・ウラバルト。ハシェル国の元第三近衛隊隊長さんだろ? 齢十八歳で隊長に就任するとは素晴らしい経歴の持ち主だ」
シェーナは簡単に自己紹介をしようと思った矢先に、ハラルドはシェーナの経歴を述べた。
「そちらはガフェーナのディアン枢機卿の直属配下のルトルス・ライヤー副団長に姉のカルラ・ライヤー団長。姉のカルラは死亡したと噂が流れていましたが、どうやら勘違いのようでしたね」
「……よくご存じで」
「視察する国の情報は把握しておくのが鉄則でしてね。私はリンスルの神官戦士カリューのように、シェーナさん達を断罪するつもりはありませんよ。あくまでロスロから視察に訪れただけですからね」
ハラルドはプライデンの内情を把握しているようで、視察には先行して単独で訪れたようだ。
他国の文化や風習に興味があるようで、特に食文化については目がない様子だ。
「プライデンの料理は美味しいですね。この野菜スープも野菜の甘味が口に溶け込んで素晴らしい」
「我々もプライデンの城塞都市で料理店を営んでおります。明日までエルフの里に滞在する予定ですので、明後日に我々と馬車で城塞都市までご一緒しませんか?」
「そうさせてもらいます。たまたま視察で立ち寄ったエルフの里に勇者一行のリィーシャ殿と出会えて、シェーナさんの事を聞いた時は運が良かった。直行で城塞都市に向かっていたら、待ちぼうけに合うところでしたよ」
どうやら歴史資料館と別れた後、リィーシャはハラルドに会ったらしい。
シェーナはハラルドにご同行を願って、すんなり受け入れてもらえた。
人当たりの良い女性に見えるが、聖騎士と名乗っているのに違和感があった。
鎧は外して部屋に置いてあるのかもしれないが、剣をどこにも差していない。
ハラルドはシェーナ達に一人ずつ握手を交わしていく。
「そんなに警戒なさらず、仲良くやりましょう!」
シェーナの心を見透かしているように、ハラルドは夕食を終えて笑顔で外へ出て行った。
まるで台風が過ぎ去ったみたいにシェーナ達の心に残る人物だった。
キシャナは冷めたスープを口にして、ハラルドの人なりを分析する。
「悪い人じゃなさそうだな。別にルトルスを目の敵にしている様子もなかったし、しばらく様子を見て預かろうじゃないか」
「何かあったら、リィーシャさんと相談するよ。とりあえず、俺達も食事を済ませてしまおう」
シェーナは話を締め括ると、テーブルの食事を平らげて、それぞれ自室に戻った。
部屋にあるベッドにグラナは潜ると、しばらくして寝息を立てる。
キシャナは温泉に行く仕度を整えると、シェーナも誘ってみる。
「グラナは先に寝てしまったな。私は温泉にもう一度浸かりに行くけど、シェーナはどうする?」
「俺はいいや。多分、キシャナが戻ってくる頃には俺もベッドで寝ているから、部屋の戸締りは最後に頼むよ」
「そうか。温泉のついでに私もお土産を見て来るよ」
「ああ、行っておいで」
シェーナはキシャナを見送ると、小窓を開けて夜空を眺める。
前世や異世界転生してから、夜空を眺める機会は滅多になかった。
雲一つない星空は地上を照らして幻想的だ。
「綺麗な女性と夜空は神秘的で絵になるな」
シェーナは声の主に振り返ると、グラナがベッドから起き上がっていた。
「ああ、起こしてすまない。寒かったか?」
「いや、大丈夫だ。少し喉が渇いてね」
グラナは竹筒の水を飲むと、シェーナの傍に寄って軽く肩を叩く。
「心配しなくてもいい。シェーナ達は今まで通りの生活が送れる」
「……元魔王って言うのは何でもお見通しなのだな」
「先程のロスロの聖騎士を見て確信に変わった。あれは剣神ペトラに匹敵するかもしれない」
「どういうことだ?」
「一万年前にペトラが異大陸の連中を撃退したのは知っているだろ? 今では二重人格のお人好し女神と荒々しい性格の剣神が住み分けているが、剣の腕は健在だ」
シェーナは南エリアのトーナメント大会で暴れたペトラを思い出すと、たしかに並の剣士では歯が立たなかった。リィーシャが機転を利かせて騒動を鎮静化させてくれたが、本気で暴れていたらどうなっていた事だろうか。
「あのハラルドって聖騎士にそんな実力があるのか?」
「少なくとも、私はそう判断した。多分、リィーシャやペトラ自身も間近で会って、そう感じている筈だよ」
グラナがそこまで言い切るのなら、おそらく本当なのだろう。
グラナは話を切り替えて、店の仕事についてシェーナに相談を持ち掛ける。
「それより、今度私にも料理を本格的に教えてくれ。正直言うと、皿洗いだけでは飽きてきた」
「そうだな……弁当でも作ってみるか」
「弁当?」
「ああ、リィーシャさんが支援する孤児院の子供達に弁当を届けようかなって考えていたんだ」
「面白そうだな。どんな弁当を作るんだ?」
「前世の子供にも人気だったキャラ弁を作ろうかな」
シェーナはキャラ弁についてグラナに説明すると、興味を示してくれた。
子供に分かり易いキャラクターと言えば、身近にいる動物の犬や猫が定番だ。
「俺もキャラ弁は初めて作るから、キシャナと相談して創作に移ろうかと思ってたんだ。手伝ってくれるか?」
「勿論さ。シェーナには金貨一枚で沢山の同人誌を買うことができたからな」
「えっ? まさか……買ったのは一冊だけじゃなかったのか!」
「いや、本当はあの一冊だけにしようかと思ったら、掘り出し物を色々と見つけてね。金貨一枚を全部使い切った」
金貨一枚を太っ腹に渡したシェーナにも非はあるが、ペトラを含めて、グラナにはお金の使い道について話しておこうとシェーナは思った。
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