怠惰令嬢の玉の輿計画 昼寝してたら侯爵様と面倒なことになりました

糸掛 理真

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第二話 嫌われたまま婚約者候補になりました

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 プリップル・フォン・ラウゼンは、暇だった。

 侯爵家から戻って三日。
 音沙汰は、ない。

「まあ、そうよね」

 あれだけ正直に「金目当てです」と言ったのだ。即刻お断りされてもおかしくない。むしろ、まだ返事が来ないことのほうが不思議だった。

 ベッドに寝転び、天井を見つめる。

「……また別の金持ち探すかぁ」

 そう思った、ちょうどそのとき。

 ノックの音とともに、父の声がした。

「プリップル! クラウゼヴィッツ侯爵家から、招待状だ!」

 彼女は勢いよく起き上がった。

「……え?」

 ◇

 再び訪れた侯爵家は、相変わらず無駄がなかった。装飾は最小限、調度品は実用性重視。住んでいる人間の性格が、そのまま家になったようだ。

「座ってくれ」

 アデルバートは、前回よりもさらに事務的な態度だった。

「率直に言う。君との縁談は、現時点では保留だ」

「はあ」

「だが、完全に断る理由もない」

 プリップルは首をかしげた。

「嫌いなんですよね、私のこと」

「嫌いだ」

 即答だった。

「だが――」

 アデルバートは書類を一枚、机の上に置いた。

「他の令嬢たちは、余計なことをする」

「余計なこと?」

「感情的になる。期待する。要求する。俺の時間を奪う」

 プリップルは納得したように頷いた。

「なるほど」

「君は違う」

「そうですね」

「否定しないのか」

「事実なので」

 また沈黙。

 アデルバートは、わずかに眉間を押さえた。

「……君は、何を望んでいる?」

「生活費と寝床と、たまに美味しいご飯です」

「愛情は?」

「できればナシで」

「……正気か?」

「はい」

 アデルバートは、しばらくプリップルを見つめていた。観察するような目だ。まるで未知の生物を見るかのように。

「君は、自分が“選ばれる側”だと思っているのか?」

「いいえ」

 プリップルは即答した。

「選ばれなくてもいいです。ただ、選ばれたらラッキーだなって」

 アデルバートの手が、ぴたりと止まった。
 これまで出会った令嬢は、皆必死だった。選ばれようと、好かれようと、評価されようと。

 だが、この女は違う。

 欲望はあるが、執着がない。

「……しばらく、様子を見る」

「はい」

「婚約者候補という形で、屋敷に出入りしてもらう」

「え、面倒なことは」

「何もしなくていい」

「……最高ですね」

 思わず本音が出た。

 アデルバートは小さくため息をついた。

「勘違いするな。君を評価しているわけではない」

「わかってます」

「期待もしていない」

「助かります」

 なぜか、また会話が噛み合わない。

 ◇

 その日の午後。
 プリップルは、侯爵家の庭で日向ぼっこをしていた。

「静か……」

 最高だった。
 そこへ、ばたばたと足音が近づく。

「おお! 噂の令嬢!」

 現れたのは、明るい声の青年だった。

「俺はコンティ! 侯爵様の友人!」

「プリップルです」

「君、すごいな! あのアデルバートに嫌われたまま屋敷にいるなんて!」

「よく言われます」

「普通、泣くぞ?」

「疲れるので」

 コンティは大笑いした。

「面白いな君! これは荒れるぞ!」

「荒れるんですか?」

「アデルバート、絶対自覚してないけどさ」

「?」

「“何もしない女”が一番苦手なんだよ」

 プリップルは、庭の木陰で目を閉じた。

(玉の輿生活、意外と順調かも)

 その頃、執務室では。
 アデルバートが、同じ書類を三度目、読み返していた。

「……集中できない」

 彼は、それを“問題”として認識し始めていた。
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