「こんにちは」は夜だと思う

あっちゅまん

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第3話 『魔界』

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 街中を魔物が徘徊している光景が見える。

 渋谷の観光名所で有名な『ハチ公』の銅像の周りも阿鼻叫喚の状況だ。

 人々は逃げ惑うばかりだ。

 大都会が一瞬にして大混乱の様相を呈していた。



 「フーリン! これはまずい。どこか隠れる場所はないか!?」

 「ああ。駅のトイレとかどうだ?」

 「そうだな。とりあえず身を隠そう。」



 僕は大急ぎで駅のトイレに駆け込んだ。


 「とりあえず、落ち着こう。ヤツラになんとかばれないように移動して逃げなきゃ!」

 「ああ、そうだ。あの警官のコスプレ衣装、あっただろ? とりあえずそれを着てみるのはどうだ? 紛れられるかも知れない。」

 「なるほど! そうだな。ヤツラもさすがに警官には怯むかも知れないな。」



 僕は持ってきた警官のコスプレをして、外に出た。

 なんだか、黒い霧のようなものが街中を渦巻いているのが見える。

 その黒いもやの中に人が取り込まれると……。

 その人が狂乱状態になっていくのがわかる。



 「フーリン! あの霧だ! あれに触れちゃダメだ!」

 「おっけー! 理解したぜ!」


 頭に二本の角を生やし、眼はぎょろりとし、口から牙をちらつかせ、全身が黒く染まった身体でしっぽが生えた悪魔の姿になった者たちがこちらに近づいてくる。

 「食い足りねぇ……!」

 「もっと血が飲みてぇなぁ……!」

 「今日は殺戮パーティーだぜ!」



 先が三股になった鉾を振りかざし、暴れているその悪魔たちの周りを怪しげな格好をした集団が取り囲み拝んでいる。

 悪魔集会……サバトのようだ。

 その向こうには巨体でのしのし歩く牛の化け物、ミノタウロスが暴れている。

 ありとあらゆる異界の魔物がこの世に解き放たれたというのか……。

 僕はその悪魔たちから一目散に逃げた。



 「あ! 明児がFakeBookのフェイチャを更新したぞ! 近くにいるらしい。早く合流しなきゃ!」

 「おお! あいつと合流できればちょっとは事情がわかるかも知れないな。」


 普段は車が走ってるはずの渋谷の大通りは、今や化け物たちが我が物顔で徘徊している。

 僕はその光景を見ながら、目立たないように隅っこの方を歩いてセンター街へ移動した。

 悪魔たちは他のエモノを捕らえたようだ。

 哀れなその犠牲者の身体を悪魔たちはみなで上に担ぎ上げ、なにかダンスでもするかのように踊り狂っている。



 「危なかった……。ヤツラの知能はそう高くないようだ。」

 「そうだな。行動が支離滅裂な感じがする。このままうまく逃げられるかも知れない。」

 フーリンが笑みをこぼれさせた。



 ライオンの姿をした巨大な魔獣がその背中にさらに派手な鳥の顔をした悪魔たちを乗せ、のっしのっしと歩いている。

 その横をうまく身を隠しながら、すり抜けることができた。

 頭が腐った野菜のようにただれた明らかな橙色の悪魔が僕の方をちらっと見た。



 ニヤリと笑った。


 「小僧……。貴様……。ニンゲンだな?」

 「ニンゲンは喰らうのみ!」



 「ヤバい! フーリン! 見つかった!」

 「ああ。逃げるぞ!」


 僕は後ろを振り返らず、魔物の大群の中を走って逃げた。

 後ろからなにか追いかけてくる気配がしている。

 だが、振り返っちゃいけない。

 そんな気がしていた。



 なんとか追手を巻いたようだ。

 とりあえず、建物の影に身を潜めた。


 「明児も大丈夫なのか?」

 「ああ。このままじゃあ危ないな。」



 少し離れたところで一息をついた。

 FakeBookを開いてみると、なんと、さっきの方向に明児がいるらしいことがわかったんだ。


 「おいおい! 明児。あの魔物の大群の中にいるのか……?」

 「ヤツラに捕まったのかも知れない。」

 「しかし、玲威。あの中に戻るのは危険すぎるぜ?」

 「でも……。友達を見捨てることはできない! 明児を助けないと!」

 「あーあ。知らないぞ。まあ、いい。俺はおまえの味方だ。」

 「ありがと。」



 とりあえず、なにか武器を……。

 そう考えた僕は、荷物の中に登山用のサバイバルナイフを持ってきたことを思い出した。

 明児と逢って、よければ登山にでも行こうと思っていたからだ。

 今となってはとてもそんな状況ではないんだけどね。



 悪魔同士が取っ組み合い、互いに傷つけ合っている。

 凶暴なヤツラだ、

 お互いの血を欲しているのか。

 人間である僕なんかはヤツラにとってエサにしか見えないだろう。



 「行くぞ! フーリン!」

 「いいぜ! 相棒!」


 僕の合図で、もと来た大通りへ向かう。

 口から汚い汚物を巻き散らかしているメスの化け物が隅にうずくまっている。

 それに群がっていくまた別の悪魔が僕をちらりと見て言う。



 「なんだ!? てめぇ? 俺様に文句でもあんのか?」

 ギョロギョロとした目玉がどこを見ているのかわからない。


 「あはは……。僕は向こうでエモノを探してくるから、好きにしてください!」

 とっさに悪魔に合わせて適当にとぼけた。


 「おお! ならいいぜ。俺様のエモノを横取りしようだなんて真似すんじゃあないぞ!?」

 「はい。わかりましたよ。」



 なんとかやりすごせたようだ。

 危険な悪魔を横目に僕はそっと前に歩き出した。



 「あ! あれ! 明児じゃあないか!?」

 僕は魔物の群れで、ひときわ目立つ凶暴そうな悪魔の近くにいるあわれな人間を見つけた。


 やはり、明児だ。

 良かった。まだ無事のようだ。


 しかし、その凶悪な悪魔に付き従っているように見える。

 その凶悪な悪魔は周りの悪魔どもを従えて、車を破壊していた。

 とてつもないパワーだ。

 やはり悪魔どもは超常的なチカラを持っているらしい。



 「明児ぃ!!」


 僕は思わず叫んだ。

 最初は周囲のうるさい音にかき消され、聞こえないようだった。

 だが、僕は何度も呼びかけ続けた。



 「明児ぃいいいいっ!!」

 ひときわ大きく声をかけたその瞬間、明児が僕のほうを振り向いた。

 気がついたようだ。



 僕は懐かしさと明児が無事だったことが嬉しくて、急いで駆け寄る。

 周りの魔物がギロリと睨みつけてきたが、意に返すヒマは無かった。


 「明児! 元気そうでなによりだ! 良かった! もう会えなくなるかと思ったよ!」

 僕は声をかける。



 明児(めいじ)……。

 ああ。僕の幼い頃からの親友。

 新油野明児(しんゆのめいじ)。彼に会うために東京に来たんだ。

 やっと出会えた。

 そんな感動の気持ちが胸をいっぱいにする。



 「明児! 会いたかったよ。久しぶり!」

 もう一度声をかける。



 明児は僕の方をじっと見て、首をかしげた。

 なんだか様子がおかしい気がする。



 「なんだ? てめぇ……。誰だよ!?」



 明児がそう答えた。

 どういうことだ?

 明児は記憶喪失にでもなったのか?



 「僕だよ! 玩場玲威(がんばれい)だよ! 中学までずっと一緒だったじゃあないか!? 忘れるなんてあり得ないだろ!?」

 僕は必死で叫んだ。

 本当に忘れてしまったというのか……!?



 「ああ……? 思い出したぜ! てめぇは『がんばれ』かよ!? はっはっは。懐かしいなぁ。……俺がまともな人間なら感動で震えちまうところだったな?」


 そう言いながら、笑った明児の口には、二本の牙がにょっきりと生えていたんだ……。

 悪魔に魅入られたのか!?

 こんなことが……!




~続く~

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