化け物殺人事件 〜フランケンシュタインの化け物はプロメテウスに火を与えられたのか?〜

あっちゅまん

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第3話 『到着~arrival~』

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 「着きましたわよ!」

 ヘレナさんが声をあげる。

 
 何もない大海原の真ん中にポツンとある島に、その研究所は建っていた。

 私たちを乗せた小型飛行機は、その島に向かって高度を下げ、旋回しながら、その島唯一の飛行場に着陸したのでした。

 狭い飛行場でしたが、完璧な操縦で、まったくズレること無く島に降り立ったのです。




 「到着いたしマシタ! シートベルトを外して注意してお下りくださいマセ。」

 A・Iの機内アナウンスが流れ、やっと私たちは5時間半ぶりの大地に降り立つことができた。



 「あそこに見えるのが……、『フランケンシュタイン研究所』ですわ!」

 ヘレナさんがそう言って指差した方には、立派な建物がそびえ立っていた。

 ただし、非常に殺風景な感じです。



 「……んん? あれがかの有名な『フランケンシュタイン研究所』か……。そして、こちらに向かってくるのは……、研究所の所長ってわけか。」

 「ええ? コンジ先生。どうして向かってきている人が所長さんだってわかるのですか?」

 「ふむ。ジョシュア……。君、いいかい? 簡単なことじゃあないか。こちらにおわす少女を誰だか忘れたのかい?」

 「あ……! ヘレナさん!? そっか! 会長さんのお孫さん……でしたね。」

 「それに、この研究所の経営会社RUR社の社長だぞ? 所長が迎えに来ないでどうするんだよ。」

 「なるほどですね。コンジ先生。さすが! おみそれしました……。」

 「まあ、いい。それより、僕の荷物……、忘れないでくれたまえよ?」



 そのおそらくは研究所の所長と思わしき人物が乗ってきたクルマは、やはり自動運転のようです。

 未来的なデザインの流線型のボディの曲線が緩やかでなめらかなシルエットのオートバスが近づいてきました。


 「Welcome to the Frankenstein laboratory!」

 そう音声案内が聞こえ、ドアが開く。



 ヒュィー……ン……

 静かな音で開いたドアから、メガネをかけた笑顔の男性が降りてきた。


 「ようこそ。我が『フランケンシュタイン研究所』へ。ヘレナ……。お久しぶりですなぁ……。」

 その男性がまず話しかけたのは、やはり、ヘレナさんだった。



 「お久しぶりね。ハリー所長。ああ、みなさん。こちらは、この『フランケンシュタイン研究所』の責任者で所長のハリー・ドミンですわ。」

 「みなさん。初めまして。ハリー・ドミンです。ささ、立ち話もなんですから、オートバスにお乗りください。」


 なんと、バスの中には美しい超美人な女性が……、1、2……、3人も乗っていたのです!






 「オオ! トレビアァーン! Quelles belles belles femmes(ケル ベル ベル ファァム 訳:なんと美しい女性たちだ)!!」 

 そう声を上げたのはムラサメ刑事だった。



 「ムラサメ刑事……。彼女たちはたしかに美しいが、アンドロイドであることは明白だよ?」

 コンジ先生がムラサメ刑事にそう告げた。


 「なんですって!? ど……。どこから見ても人間の女性にしか見えない……! しかも、こんなにも美しい……。」

 ムラサメ刑事がびっくりしている。



 「おお……。君は……?」

 ハリー所長がコンジ先生の発言を聞き、コンジ先生に興味を持ったようです。


 「えぇ……。こちらの方は、かの『黄金探偵』、コンジ・キノノウ様でいらっしゃるわ!」

 あ! ヘレナさんに先を越されてしまった……。

 助手の名折れだわ!



 「はい。こちらは名探偵、『黄金探偵』コンジ・キノノウです。私はその助手のジョシュア・ジョシバーナです。よろしくお願いします。」

 「ふぅむ……。『黄金探偵』か……。こんな辺鄙な島に引きこもっている私でさえ、その名は知っている。かの名探偵が、我が研究所にはるばるお越しとは……、歓迎するよ!」

 「ふん……。そんなことより、謎を早く解きたいものだ。研究所に案内してくれたまえ……。」

 「おお。そうですな。だけど、その前に、差し支えなければ、うちの自慢のアンドロイド……『Milky Way6G』たちを即座にアンドロイドと見破ったその根拠をお聞かせいただきたい。なにせ、今までに、こんなに早くアンドロイドだと看破されたのは初めてだからな……。この自慢の『Milky Way6G』はまだ世界にも発表していない最新モデルだからな……。」

 ハリー所長は、意外と負けず嫌いなのかもしれない。



 「そうね。ワタシたちも知りたいですわ。ねえ? エウプロシュネー、タレイア?」

 「そうね。アグライアー。ワタシも知りたいですわ。どうして、おわかりになられたのですか? キノノウ様。」

 「今まで、ワタシたち『三美神』シリーズの姿を見て、初見でアンドロイドだと見抜かれたのはお客様が初めてですわ。」


 三人(?)の女性アンドロイドが口々に声を発する。

 どうやら、名前はそれぞれアグライアー、エウプロシュネー、タレイアと言うようです。

 だけど、それより驚いたのが、人間と同じような反応で疑問をコンジ先生にぶつけてきたことです……。

 これが、アンドロイドだと言うの!?



 「ほぉ……。自律型オペレーションシステムを組み込んであるのか……。なるほどな。リアルな感情表現も膨大な演算のなせる技か……。よし! いいだろう! 簡単なことだよ。僕たちが『彼女たち』を見た時の、ハリー所長、ヘレナさん、あなた方の視線が異様に僕たちに注がれていたからさ? ただ単に、美女を自慢したい……というのはまず却下される。なぜなら、ここがかの『フランケンシュタイン研究所』だからだ。そして、R.U.R.社のトップである彼女の眼が物語っていたよ……。」

 コンジ先生がまた奇妙な、手を前だか後だか、わからないポーズで語ってみせるのでした。



 「さすがね! 黄金探偵さん。でも、彼女たちだけでは、人間と区別がつかなかった……。つまりは、そういうことでしょう?」

 おお……。ヘレナさんも負けてはいない!



 「いや。僕にはわかりましたね。ただ、より、あなた方の反応でわかりやすかった……ということです。まあ、種明かしをすると、僕は彼女たち『三美神シリーズ』のプロトタイプ型の『パリスの審判モデル』を知っていたからね。」

 「なるほど……。キノノウさんはロボットのモデルについて造詣が深いようですな……。」

 「そうね。その知識……。さすがは黄金探偵……、いや、ムッシュ・コンジ。これは頼りになりそうね? ハリー所長?」

 「まったくですな。では、さっそく、研究所を案内しましょう。みなさん、オートバスにお乗りください。」



 いつものことながら、コンジ先生のその知識はいったい、いつ、どこで吸収しているのかしら?

 さすがはコンジ先生です……。私の……。

 あ、いえ……。コホン……。



 研究所へ移動する間の、わずかな時間。

 車内ではコンジ先生のうんちくが披露されていました……とさ。



 「いいかい? ジョシュア。そもそも『三美神(The Three Graces)』とは、ギリシア神話とローマ神話に登場する美と優雅を象徴する三人の女神のことで、ラファエロ・サンティの作品やサンドロ・ボッティチェッリの「春」にも描かれていることで有名だな。それぞれ魅力(charm)、美貌(beauty)、創造力(creativity)を司っていて、一般的には、ヘーシオドスの挙げるカリス(美と優雅を司る女神たち)のアグライアー、エウプロシュネー、タレイアとされているわけだ。『彼女たち』の名前はそこから来ているのだな。」

 「「「そのとおりでございます。キノノウ様。」」」

 『三美神』たちが肯定する。



 「……で、『パリスの審判(パリスのしんぱん)』は、ギリシア神話の一挿話で、トロイア戦争の発端とされる事件で、イリオス(トロイア)王プリアモスの息子パリス(アレクサンドロス)が、神々の女王ヘーラー・知恵の女神アテーナー・愛と美の女神アプロディーテーという天界での三美神のうちで誰が最も美しいかを判定させられたという逸話のことさ。そちらのモデルもたいそう美しい女性がモデルになっていたんだよ? ……って、おい! 聞いているのか? ジョシュア!」

 「はいはい。聞いていますよ。アンドロイドであったとしても、その美人さんたちに、おもてなしされるってことで、さぞ、嬉しいことでしょうね!?」

 「……何を言ってるんだよ? この美しい工芸品のアートがわからないかなぁ……。君ってホントに……。」



 ええ、ええ。わかっていますよ。

 コンジ先生が女性として見てるのではないってことくらい……。

 でも……。



 あんまり、美しい、美しい……って、褒め称えなくてもいいんじゃあありませんか?

 そんな、私は、ちょっと、何やら胸騒ぎがしているのでした。

 いよいよ、研究所が近づいてきていたから……でしょうかね?




 ~続く~


※イメージ画像
 ・アイスランドのヴェストマン諸島のヘイマエイ島の右上辺りにある小さな島「エリデイ島」
 ・東京モーターショー 自動運転




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