34 / 62
第4日目
第29話 到着4日目・昼その6
しおりを挟むシープさんと私が自分の部屋の扉から、階段の間のほうをずっと夜通し監視していたことで、私たち誰もが昨夜の犯行を行い得ないという不可思議な状況になってしまった。
「私たちは部屋に戻らせてもらいますわ! 誰も彼も信用できませんもの!」
「ええ! お母様。行きましょう!」
そんな重苦しい雰囲気の中、いたたまれなくなったのか、ママハッハさんが強く宣言して、アネノさんと共にダイニングルームを出て行った。
シープさんが付き添いで一緒に出ていく。
ビジューさんは何事か考えているようです。
部屋の隅で座ってじっとしています。
ジニアスさんとスエノさんは一緒に同じく出ていきました。
二人でなにか相談したいとのことでした。
アレクサンダー神父はやはり祈祷をして、神に人狼を見つけてもらうと言い、『左翼の塔』に向かいました。
本当に神父さんって人狼を退治するためにやってきたのかしら?
はなはだ疑問です。
メッシュさんは去った方たちの食事の後片付けを始めています。
シュジイ医師はなにか思うところがあるのか、食事をゆっくりとされていて、まだ残っています。
「キノノウくん。君の意見を聞こう!」
ジェニー警視が人がいなくなったのを見計らってコンジ先生に声をかけてきた。
コンジ先生も黙って頷いた。
「そうですね。昨夜の状況で怪しむべき人物として、可能性は誰にでもありますが、僕は今2名の人物が気になっています。まあ、最も気になるのは一人ですが……。」
「ほお? 私もそうなんだよ。奇遇だな。」
「え? 私はまったくわかりません!」
「ああ。ジョシュア。君も合理的に考えれば分かるだろう?」
「えぇ……。あ! 誰か空をびゅーんと飛んできて、窓から入ったとか!? それで、コンジ先生、窓の外を見てらっしゃったんだわ!」
「お……おぅ……。ジョシュア。君のその発想力はたくましい。そのことだけは褒めるべきだな。」
「ええい。ジョシュアくん。いいかね? 人狼は空を飛ぶこともできんし、3階まで何もないところを登ったりもできんよ。それにさっき館の外の壁を確認したけど、何も傷などついてなかった。ヤモリかカエルみたいに張り付いて登ったりせん限り、壁を伝って上に上がったりはしてないだろう。」
私が次に言おうとしていた蜘蛛男みたいに壁を登った主張も先にしっかり否定されちゃいました。
それなら、誰に出来たと言うのかしら?
おふたりとも何か考えがあるようですが……。
「一人目は……。」
「ああ。スエノさんだね?」
「ええ。その通りです。ジェニー警視。」
え……? スエノさんって一番嫌疑から外れたって言ってませんでしたっけ……?
どういうことでしょう?
「スエノさん……って昨夜は『右翼の塔』の地下室に閉じ込められてたんですよね? それがどうしてなんですか?」
私はわけが分からな過ぎて思わず大きな声で尋ねました。
「いいかい? 『右翼の塔』も『左翼の塔』も同じ造りになっていて、ちょうどパパデスさんの部屋の裏側に当たる箇所に扉があるんだよ。」
「それね。もし、どこかにマスターキーを隠し持っていたなら、パパデスさんの部屋には『右翼の塔』から入ることが出来たって言うわけね。」
「なるほど……。そうかぁ……。でも、それもなくないです? マスターキーをどこに隠し持っていたっていうの?」
「ああ。まあね。その問題はあるけど。例えば、何かの中に隠していて、ジニアスさんに持ってきてもらっていたとか……ね?」
ハッ……!
それはたしかにあり得るかもしれない。
ジニアスさんが体良く利用されていたとしたら……?
それとは知らずにジニアスさんが、地下室のスエノさんにマスターキーを渡していた?
いや。待って!
パパデスさんをその牙の餌食にしたとして、もしスエノさんが人狼なら、先にイーロウさんを襲っているはずだから、その行動に矛盾が生じるわ。
「でもそれはイーロウさん殺害の謎に説明が付きませんよ?」
「ほお? ジョシュアもわかってるじゃあないか。そのとおりだよ。殺害の順番は、イーロウさん、そしてパパデスさんの順だからね。それにスエノさんが人狼だったなら、イーロウさん殺害はやはり謎になってしまう。」
「そうだな。キノノウくんの言うとおりか。私も最初、スエノさんを疑ったんだがな。」
「じゃあ、いったい誰がこの連続殺人を行えたと言うんですか? 誰も不可能だったんじゃあないですか?」
「いや。それが一人だけ、その機会があったと思われる人物がいる。」
「え!? 誰ですか? 早く教えて下さいよ!」
ここでコンジ先生が声を低めて言った。
「シープさんだよ。」
「は……? どういうことですか?」
「うん。考えてごらん? ジョシュア。君もだけどさ。昨夜ずっと見張りを頼んでいたよね?」
「ええ。そうですよ。眠いの我慢しながらちゃあんと見張りを頑張りましたよ! もちろんシープさんも辛くても頑張ったんだと思いますよ。」
「ああ。そうだろうな。だけど、昨夜、パパデスさんの部屋に行けたのは、あそこにいるシュジイ医師だけだと言うことになったよね?」
あ、たしかに、そういう話が出ていたわ。
でも、それなら、イーロウさんの件が不可能になるということだった……。
「キノノウくんの言う通りだな。だが、そうなると同時にイーロウさんの件ではシュジイ医師は嫌疑が外れることになるな。」
「そ……、それが謎なんじゃあないですか!?」
「だけど、そのシープさんの証言が嘘だったら? そうするとどうだい?」
「え……? シープさんの証言が嘘……、そんな……。」
もし、シープさんの証言が嘘であったら?
いったい何のためにそんな嘘をつくのか……。
誰かをかばっている?
いや……。シープさんが人狼だったら?
そう!
シープさんが人狼だったなら、最初からこの連続殺人は不可能でも何でもなくなるわ。
イーロウさんの部屋には誰もが忍び込めた状況だった。
もちろん、シープさん自身も。
そして、シープさん自身が人狼なら、誰も『右翼の塔』側の3階の階段の間を通らなかったという証言はなくなり、その証言をしている張本人が堂々とパパデスさんの部屋に行き、惨劇を行い、その後、何食わぬ顔をして朝まで見張っていたふりをしたということになる……。
何もかも辻褄が合うわ。
私はコンジ先生とジェニー警視の顔を見上げた。
二人とも私の考えと同じことにすでに辿り着いていたんだわ。
「だが、早計に決めつけるわけには行かない……。」
「なぜです? これほどまでに怪しい状況じゃあないですか?」
「うー……ん。それもなんか違和感があるんだよ。」
「あれ? キノノウくんはシープさんで決まりと考えていると思ったけど、何かひっかかるのかい?」
「それはですね。シープさんが怪しい状況っていうのは、他ならぬシープさんの証言によってそういう状況になっているんですよ?」
コンジ先生が思わぬ指摘をした。
たしかに、言われてみるとそうだ。
シープさんがもし人狼なのであれば、ここで嘘をついて、つい眠ってしまって見張りが出来なかったと言っても良かったですよね。
わざわざ、しっかり見張っていたと嘘をついたことになる。
どうせ嘘の証言をするのなら、自分自身が疑われないようにすればいいのだから……。
「そこが僕は引っかかっていてね。それに……。他にシープさんの監視の目をくぐり抜けた方法があれば、全員に容疑は広がるのだから……。」
「なるほど。キノノウくん。それで何か監視の目をすり抜けられる手段に目星がついているのかい?」
「うーん。まだ、考察中ですがね。」
さすがはコンジ先生です。
慎重ですね。
しかし、シープさんが俄然、怪しく思えてしまうのは、この不安を早く拭いたいという焦りからなのでしょうか……。
ゴォオオオオ……ォオオオ……
吹雪が舞う音がやけに耳にへばりつくのでしたー。
~続く~
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

