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2章 Rixy
8 合わないピント
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「...」
あれからどのくらい時間が経っただろうか。物凄く長い時間が経ったような気がしているが、本当は数分しか経っていないのかもしれない。
「もう、大丈夫かな...」
と、シオリが小さめの声で言い、ずっと固定していた両足を少しだけ動かす。ボクもそれを見て、ようやく地面にしゃがむことができた。
「お、おうえーーーっっ...」
ボクはずっと口の中に溜まっていた嘔吐物を、一気に地面に吐き出した。膝の震えが止まらず、上手くしゃがんだままバランスを保つことができない。
ボクがひとまず呼吸を安定させると、後ろから肩を叩かれる。
「ゲロってる直後に悪いんだけど、早くここ離れないとヤバいんだよ。取れるもん取って、さっさと行こう」
そう言ってシオリは地面に生えているネムリバナを乱暴に引き抜き始めた。どうやら、心を落ち着かせる時間は無いらしい。
「ロンさん、大丈夫ですか!? 肩を持ちましょうか?」
とトモキチがボクに言う。
「いや、気にしないで...」
とボクは言った側から、立ち上がりざまに強烈な目眩に襲われ、その場で立つことができなくなってしまった。
「トモキチ、ロンを担いでやって」
とシオリが言った。トモキチはこくりと頷くと、ボクを背中に担ぎ上げた。
「あいつの息を間近で吸うと、平衡感覚だの、幻覚幻聴だの、とにかく精神に異常をきたすらしいんだ。治るまでは、大人しくトモキチのお世話になって」
シオリの言われるままに、ボクはぐったりとトモキチにもたれかかる。
「悪いね、トモキチ。少しの間だけ、お願いするね...」
「気にしないでください、ロンさん。力になれることがあれば、なんでも言ってください!」
「うん...ありがとう...」
シオリは早歩きで先頭を歩き、トモキチとカメオはそれについて行く。うまく視界のピントが合わず、どこを見てもぼやけて見える。
「あれの名前、“トモグイ”っていうの?」
「...まあ、そういう事だね。私だって、あんなデカいのは初めて見たけど」
シオリはボクに顔を向けず答える。
「言うまでも無いと思うけど、あいつは人喰いなんだよ。人が発する音だけを聞き分けて、一口で喰らう」
「...」
ボク達は、“トモグイ”には見つかっていなかったのだろうか?あれだけ近づかれていたが...
「きっと、あいつに生えてたネムリバナの数だけの人間が、あいつに喰われて、体内に取り込まれたんだね。何十...もしかしたら、何百はあったかもしれない」
ボクの頭の中に、トモグイの腹にびっしりと生えていたネムリバナのイメージが、不意に現れた。当分、ネムリバナを見たくはない。
「ねえシオリ」
はっきりとしない意識の中で、ボクはシオリに話しかける。
「ん、何?」
「トモグイがボク達に何か喋ってるような気がしたんだけど...ボクとシオリの名前に、よくわからない言葉も喋ってた。あれって、なんだったの?」
シオリはここで初めてボクの方を見る。
「あいつは、人の言葉を反復することがあるんだよ。多分、言葉で人間を反応させて、居場所を探そうっていう魂胆だと思う。おうむ返ししてるだけだから、あいつの言葉にはなんの意味もない。気にしない方がいいよ」
「う、うん」
ボクの耳の中に、再びあの声が再生される。込み上げる吐き気を振り払うため、ボクはこれ以上この生物の事を考えないようにした。
あれからどのくらい時間が経っただろうか。物凄く長い時間が経ったような気がしているが、本当は数分しか経っていないのかもしれない。
「もう、大丈夫かな...」
と、シオリが小さめの声で言い、ずっと固定していた両足を少しだけ動かす。ボクもそれを見て、ようやく地面にしゃがむことができた。
「お、おうえーーーっっ...」
ボクはずっと口の中に溜まっていた嘔吐物を、一気に地面に吐き出した。膝の震えが止まらず、上手くしゃがんだままバランスを保つことができない。
ボクがひとまず呼吸を安定させると、後ろから肩を叩かれる。
「ゲロってる直後に悪いんだけど、早くここ離れないとヤバいんだよ。取れるもん取って、さっさと行こう」
そう言ってシオリは地面に生えているネムリバナを乱暴に引き抜き始めた。どうやら、心を落ち着かせる時間は無いらしい。
「ロンさん、大丈夫ですか!? 肩を持ちましょうか?」
とトモキチがボクに言う。
「いや、気にしないで...」
とボクは言った側から、立ち上がりざまに強烈な目眩に襲われ、その場で立つことができなくなってしまった。
「トモキチ、ロンを担いでやって」
とシオリが言った。トモキチはこくりと頷くと、ボクを背中に担ぎ上げた。
「あいつの息を間近で吸うと、平衡感覚だの、幻覚幻聴だの、とにかく精神に異常をきたすらしいんだ。治るまでは、大人しくトモキチのお世話になって」
シオリの言われるままに、ボクはぐったりとトモキチにもたれかかる。
「悪いね、トモキチ。少しの間だけ、お願いするね...」
「気にしないでください、ロンさん。力になれることがあれば、なんでも言ってください!」
「うん...ありがとう...」
シオリは早歩きで先頭を歩き、トモキチとカメオはそれについて行く。うまく視界のピントが合わず、どこを見てもぼやけて見える。
「あれの名前、“トモグイ”っていうの?」
「...まあ、そういう事だね。私だって、あんなデカいのは初めて見たけど」
シオリはボクに顔を向けず答える。
「言うまでも無いと思うけど、あいつは人喰いなんだよ。人が発する音だけを聞き分けて、一口で喰らう」
「...」
ボク達は、“トモグイ”には見つかっていなかったのだろうか?あれだけ近づかれていたが...
「きっと、あいつに生えてたネムリバナの数だけの人間が、あいつに喰われて、体内に取り込まれたんだね。何十...もしかしたら、何百はあったかもしれない」
ボクの頭の中に、トモグイの腹にびっしりと生えていたネムリバナのイメージが、不意に現れた。当分、ネムリバナを見たくはない。
「ねえシオリ」
はっきりとしない意識の中で、ボクはシオリに話しかける。
「ん、何?」
「トモグイがボク達に何か喋ってるような気がしたんだけど...ボクとシオリの名前に、よくわからない言葉も喋ってた。あれって、なんだったの?」
シオリはここで初めてボクの方を見る。
「あいつは、人の言葉を反復することがあるんだよ。多分、言葉で人間を反応させて、居場所を探そうっていう魂胆だと思う。おうむ返ししてるだけだから、あいつの言葉にはなんの意味もない。気にしない方がいいよ」
「う、うん」
ボクの耳の中に、再びあの声が再生される。込み上げる吐き気を振り払うため、ボクはこれ以上この生物の事を考えないようにした。
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