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2章 Rixy
9 瞳孔
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ボクの体調は、落ち着くどころか悪化し始めていた。ずっとトモキチに背負われているだけなのに、吐き気と眠気が押し寄せてくる。ほとんどボクは目をつぶっているばかりで、前を見る元気はない。気分の悪さには波があり、それが頂点に達すると、思わず眉間に力を入れて俯いてしまう。
突然、まぶたの裏が赤くなり、頰に熱を感じた。日光がボクの体に当たっているのだ。
ボクはゆっくりと目を開けて正面を見た。ボクの視界いっぱいに、水色の空と、そのはるか下には深い緑が一面に広がっている。
トモグイからずっと逃げている間に、ボク達はいつのまにか随分と高い所まで登っていたようだ。目の前には、はるか下まで急斜面が続いている。
「まいったな、どうやって降りよっか」
と、シオリが言った。
「街はこの下にあるの?」
「うーん、多分ね。なんせ、川下にあるとのことだから」
目の前の崖を降りるのは、少なくとも今のボクには無理だった。仮に体調に問題がなかったとしても、かなり危険だろう。ここからは木々に隠れて見えないが、この斜面は下に行くとさらに急になって、あるいは垂直になっているかもしれない。
「シオリさん、あっちから行けば、もしかしたら安全かもしれません」
と、トモキチは右を指差す。回り道にはなるが、こちらの道から降りていった方がいいだろう。
「ああ、うん...」
と、シオリがこっちを見ていう。
「...シオリ?」
ボクはその時初めて気づいた。シオリの目は半開きで、明らかに顔色が悪い。足取りは何処と無くフラついていて、安定感がない。
「もしかしてさっき、シオリもトモグイの息を吸ったの?」
「んー...そうっぽいわ。まあ、喰われなっただけ良かったよ」
そう言って、シオリが前を振り返った瞬間だった。シオリの足元のわずかな傾斜が、ボロボロと崩れ始めた。シオリの足は、地面もろとも引きずりこまれていく。
「......!」
シオリは手をついて地面にしがみついたが、それでもシオリの体はどんどん崖際に吸い込まれていく。
「シオリっ...!」
ボクはトモキチの背から体を伸ばしてシオリの手を取ろうとする。しかし、思うように体は動かず、ボクの体は地面に叩きつけられる。
ゴゴゴゴ、という重い音と同時に、足元がガタガタと大きく揺れだした。
(足場が、崩れてる...!)
「しおりさん!」
トモキチが飛び込むようにしてシオリの手を掴み取る。しかし、ボク達の足場は既に泥の波となり、シオリを上に引き上げることができない。
「むぐっ...」
ボクは何かに足を掴まれたように、ズルズルと崖に滑っていく。顔に大量の土が付き、目を開けることすら出来なくなる。口の中はじゃりじゃりになり、地鳴りの音で何も聞こえない。
朦朧とする意識の中、ボクはただ、体が加速していくのを感じた。膝が地面に擦れ、焼けるように熱い。肩が宙に浮いた時、初めてボクは、奈落へ落ちるという感覚を、理解したのだ。
突然、まぶたの裏が赤くなり、頰に熱を感じた。日光がボクの体に当たっているのだ。
ボクはゆっくりと目を開けて正面を見た。ボクの視界いっぱいに、水色の空と、そのはるか下には深い緑が一面に広がっている。
トモグイからずっと逃げている間に、ボク達はいつのまにか随分と高い所まで登っていたようだ。目の前には、はるか下まで急斜面が続いている。
「まいったな、どうやって降りよっか」
と、シオリが言った。
「街はこの下にあるの?」
「うーん、多分ね。なんせ、川下にあるとのことだから」
目の前の崖を降りるのは、少なくとも今のボクには無理だった。仮に体調に問題がなかったとしても、かなり危険だろう。ここからは木々に隠れて見えないが、この斜面は下に行くとさらに急になって、あるいは垂直になっているかもしれない。
「シオリさん、あっちから行けば、もしかしたら安全かもしれません」
と、トモキチは右を指差す。回り道にはなるが、こちらの道から降りていった方がいいだろう。
「ああ、うん...」
と、シオリがこっちを見ていう。
「...シオリ?」
ボクはその時初めて気づいた。シオリの目は半開きで、明らかに顔色が悪い。足取りは何処と無くフラついていて、安定感がない。
「もしかしてさっき、シオリもトモグイの息を吸ったの?」
「んー...そうっぽいわ。まあ、喰われなっただけ良かったよ」
そう言って、シオリが前を振り返った瞬間だった。シオリの足元のわずかな傾斜が、ボロボロと崩れ始めた。シオリの足は、地面もろとも引きずりこまれていく。
「......!」
シオリは手をついて地面にしがみついたが、それでもシオリの体はどんどん崖際に吸い込まれていく。
「シオリっ...!」
ボクはトモキチの背から体を伸ばしてシオリの手を取ろうとする。しかし、思うように体は動かず、ボクの体は地面に叩きつけられる。
ゴゴゴゴ、という重い音と同時に、足元がガタガタと大きく揺れだした。
(足場が、崩れてる...!)
「しおりさん!」
トモキチが飛び込むようにしてシオリの手を掴み取る。しかし、ボク達の足場は既に泥の波となり、シオリを上に引き上げることができない。
「むぐっ...」
ボクは何かに足を掴まれたように、ズルズルと崖に滑っていく。顔に大量の土が付き、目を開けることすら出来なくなる。口の中はじゃりじゃりになり、地鳴りの音で何も聞こえない。
朦朧とする意識の中、ボクはただ、体が加速していくのを感じた。膝が地面に擦れ、焼けるように熱い。肩が宙に浮いた時、初めてボクは、奈落へ落ちるという感覚を、理解したのだ。
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