ときおりしおり

俺んぢ

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3章 オレンジ色の街

1 モノクロ

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「...」

 ボクはボーっとした意識の中、まぶたを開けた。

 頭がズキズキと痛む。体を動かそうとすると、頭だけじゃなく、腕や腰、全身が割れるように痛い。

 仰向けになったボクの目に写ったのは、灰色の天井だった。どうやら、屋内にいるらしい。日は登っているようで、部屋の中には明るい光が降り注いでいる。

 ボク達は、崖から転げ落ちたはずだった。あの後、どうなったのだろう?少なくとも、ボクはその先を覚えていない。シオリは無事だろうか?トモキチも、カメオも心配だ。

「アー、ンー?」

 聞き覚えのある声と同時に、ボクの視界いっぱいに深い緑色が広がる。

「カメオ!」

 カメオがボクの鼻をつつく。どうしてカメオが一緒にいるのか分からないが、ひとまずボクは無事を喜んだ。

 しかし、ここは一体何処なのだろう?コンクリートのような壁に、縦に長い大きな窓がいくつもある。左のほうには、上へ登るための階段も見える。床は明るい色のフローリングだ。

「おい」

 野太い声が聞こえる。今度は聞き覚えののない声だ。ボクに言ってるのだろうか?

「おい、起きてるなら何か言え」

 明らかにボクに向けて言っている。

「はい」

 とボクは答えた。

 ボクは体をゆっくりと起こして、声の聞こえる方へ視線を向ける。

 男は、横長の椅子に座っていた。椅子はテーブルを挟むように二つあり、灰色のコンクリートで、四角をただ繋げただけのような不恰好なデザインだった。

「座れよ」

 と彼が言ったので、ボクは彼の反対側の椅子に腰を下ろした。椅子の座り心地はお世辞にも良いとはいえず、背をもたれないようにボクは座った。

 男は、坊主頭で、太い眉毛をしている。目の窪みは深く、睨みつけるような目つきでボクの目を見ている。見かけは20代といったところで、身長は170cmとちょっとくらいだろうか?

「...」

 男は何も言わず、表情一つ変えない。

「えっと」

 耐えきれず、ボクの方から話し始めた。

「ボクと一緒に居た、女の子を知りませんか?」

「ああ...」

 彼は、目線を後ろのほうにやる。

「そいつなら、あっちの部屋で寝てる。ひどい怪我をしてるが、死ぬことはないだろう。あと、ヘンテコなロボットも回収してある」

”ひどい怪我”というのが気になるが、とにかく命に別状がないようで、ボクは安心した。ヘンテコなロボットというのはトモキチの事だろう。

「えっと、ボク達をここまで運んで、寝るところまで用意してもらって...ありがとうございます」

 彼は視線を落とす。

「ああ...いや、お前達を運んだのは俺じゃない。この爬虫類が女を、ロボットがお前を背負ってきたんだ」

 カメオは部屋の隅で、腹を床にくっつけて目を閉じている。おそらく眠っているのだろう。

「その、ボクを運んだロボットは今何処にいますか」

「ああ、あれならな...」

 彼はイスから立ち上がり、二階へと登っていった。しばらくすると、ガチャリ、ガチャリという金属のぶつかり合う音が聞こえ、また階段を下る音が聞こえてくる。

「ほらよ」

彼は手に持っていた金属をテーブルに放り投げた。金属は大きな音を立ててテーブルの上を滑り転がる。

金属は、細長い形をしていて、なかから赤いコードがいくつもむき出しになっていた。

「あのロボットなら、うちの前でバラバラにぶっ壊れてたぞ。まず動くことはないだろうな」

と、彼は言った。ボクの目の前にあるのは、紛れもなくトモキチの腕だった。

「そ、そんな...」

 いくらロボットとは言え、ボクはトモキチを仲間として認識していた。トモキチの頼みも、ボクとシオリが果たすと約束していたのだ。そんなにあっさりと”壊れた”などと言われても納得できない。

「おい、よく聞け」

 と、彼が言う。

「俺は機械について知識がある。おそらく、このロボットも時間さえあれば直せるだろう」

「ほ、ほんとですか!?」

「最後まで聞け」

ボクはそう言われて、一度落ち着く。

「ただしだ」

 と、低い声でゆっくりと彼は言う。

「そっちの部屋で寝てる女が目覚め次第、さっさとここから出て行くんだ。あのロボットを作ったのは誰だか知らないが、基盤がダメージを受けていない。あれは上手くできている。修理にはそう時間はかからないだろう...3日後には終わらせる。ただしそれまでは戻ってくるな」

「...はい」

 話が終わると、彼はそそくさと立ち上がって、背を向けてしまう。

「ああ、あとな」

 彼はそう言って、目線だけをこちらに向ける。

「用が無いなら俺に話しかけるな。その女にも伝えておけ」
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