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3章 オレンジ色の街
4 その日から
しおりを挟む「おお、これはナマケヒラトカゲかい?」
ヒラガと名乗る男は部屋の隅で眠っているカメオを指差しながら言う。
「うん、そうだよ。よく知ってんね」
と、シオリは言う。
ボク達はさっきのイスにまた座ったが、レースケは何も言わずに席を立って、別の部屋へと行ってしまった。ヒラガが、ここで待っていればいいと言っていたので、ボクとシオリとヒラガさんはここでレースケが戻ってくるのを待っている。
「君達見ない顔だけど、最近街に来たの? それとも旅人さん?」
と、ヒラガはボクに言う。
「えっと、ボク達は旅人ってことになると思います」
とボクが答えると、間髪入れずにシオリが顔を乗り出した。
「え!? それじゃあ、ヒラガってもしかして街に住んでるの!?」
「ああ、うん。そうだよ」
ようやく、街のありかが見つかった。ボク達はちゃんと街に向かって歩いていたのだ。
「私達、街を探してずっと歩いてきてたの。お願いなんだけど、街まで案内してくんない!?」
とシオリ言うと、ヒラガは笑顔で答える。
「勿論、勿論だよ。なんなら、僕の家にしばらく泊まっていくかい?」
「マ、マジで!?」
ヒラガは、困ったように笑う。
「うん、歓迎するよ。実は、ずっと一人で暮らしてるから、話し相手がいなくて退屈していたんだ」
「ヒ...ヒラガぁ...お前...」
シオリが泣きそうな、情けない声で言う。実際、ヒラガの好意は今のボク達には感謝しきれないほどありがたかった。
「きっと君達も、レースケに追い出されてた所なんだろ?」
「え、どうしてわかるんですか?」
「あはは。レースケは自分の家に人を入れることをひどく嫌うんだよ。僕も、いつも追い出されてる」
「ヒラガさんは、レースケさんの友人なんじゃないんですか?」
「うーん、多分そうだと思うよ」
ヒラガは柔らかい笑顔をボク達に見せてはいるが、どこか儚げだ。
「レースケも、元々は街に住んでいたんだ。僕とレースケともう一人女の子がいて、いつも3人組で仲良く遊んでたんだ。でもある日、事故でその女の子が亡くなったんだ。遠い昔の話だけどね。レースケが街を出て行ったのは丁度その頃で、その後色んなことが変わった。人とあんまり話さなくなったのも、その日からなんだ」
シオリは頬杖をつきながら、ヒラガの話を聞いている。
「まああれだ、あんまり嫌わないでやってくれ」
とヒラガは言った。シオリは少し時間を開けてから、下を向いたまま黙って2回頷いた。
ガチャリ、と奥の方でドアの開く音がした。トントンという足音と共に、香ばしい匂いが鼻元にやってくる。
「...」
レースケは何も言わないまま、両手に持っていた皿をテーブルに置き、ヒラガの隣に座った。皿の上には、こんがりと焼かれた細身の魚が3つ重ねて置かれていた。
「俺はいらない。お前らで分けて食え」
ボクは目を凝らした。なにしろ、何十日もしょっぱいものや肉類を食べていなかったのだ。こんな所で食べることができるとは夢にも思わなかった。
「あの...」
ボクはキョロキョロと周りを見渡す。
「いただきます」
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