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Act 13
Sacrifice
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「花嫁、こっちを向いて。恥ずかしがっても無駄だよ。その美しい薄紅色の唇と繋がると、僕は、心を決めているのだから。口の中に、僕の侵入を許す事になるが、凌轢される訳ではない。愛する者同士の想いを深める儀として、口づけに臨んでほしい。ほら、こっちを向いて。アリス、今、君を喰おうとしているのは、無辜の民を傷つけるような魔王ではない。この僕だ」
「あ……あはぁ……胸の先を……はあ、はあ……優しい手つきで、胸の先を弄られると……気持ちいい……エリオットに愛されてるって感じてしまって……はあ、はあ……そっちを向きたくない訳じゃなくて……息が荒くなってしまったから、枕に顔をつけたかっただけ……私も、エリオットと唇を重ねたい……はあ、あはっ! ……あなたの舌の温かさを、口の中に感じたい……私の舌を絡めさせて。あなたの温かさを感じさせて……はあ、はあ……胸の先を舐めてもらうのも……気持ちいいよ……はあ、はあ……私、エリオットのお嫁さんになったのだから……こうやって、ベッドの上で愛を育む時間、大切にしたい……キスして……エリオットのキスがほしい。私のすべてが、あなたのものになっていると実感できるようなキスがほしい……はあ、はあ……あなたのすべてを手に入れられたという、幸せを噛み締められるようなキスがほしい……あ……ん……んんんんっ」
「……口づけの数を重ねても、事ごとに、アリスのやわらかさに癒やされてしまうよ。舌や唇の触れ心地だけじゃない。亢進をおぼえるほどの高ぶりに、心悸が速くなる君の事、愛おしい。変化した脈に乱されていくんだ。鼓動に応じて揺れる身の内で生じた熱が、行き場を失い、肌を温めてしまう。そのような時に、咥内を満たすつばきが濃厚でないはずがない。
口から涎が滴ってしまう事など気にしない様子で、舌を回して愛を伝えてくれる様は、実に麗しい。唇や喉を動かす事で、湿った音を、もっと耳に入れたいと考えていると、僕を刺激する働きかけの為様、嬉しかった。僕も、もっともっと、君の口と繋がっていたかったよ。だが、許してくれ。見たかったんだ。君の顔。手足すらも、紅に染まってしまうのではないかと思うほど、艶めかしい姿を見せてくれた後、赤みがさす頬を晒してくれる。それを眺めたかった。君が、逃げないように腕を回したままね」
「うん。キスは、二人が近くにいる事が許されてるって感じられるから好き。でも、エリオットの黒い髪に、自分の手が触れている様子が見られるのは今。二人だけで過ごす時間が許されているから、私もエリオットも、何も着ていない姿でいられる。愛されているんだって感じさせてくれるから、あなたの前だけなら、服を脱ぐ事を恐れずにいられるわ。胸の膨らみのすべてを見られてもいいし、おなかの下の方を眺められても――二人の結びつきがいっそう強まる為に、絆を繋ぐ訳があるというのなら、私の大切なところを、その青い瞳に映してほしい。
大丈夫。エリオットが魔王でも、私は、逃げないから」
「ありがとう。僕が魔王であっても、花嫁になると言ってくれた時の事、とてもとても長い時間が経ったとしても、忘れないよ。アリス、足の付け根を触るね。しかし、空いている方の腕は、もう少し、君の身を抱き寄せるのに使っていたい」
「あっ! 腿をゆっくり撫でられると……あは……こ、声が、出てしまう……あ、あ、あ、ああっ! はあ、あは……わ、私、もう濡れていたのかしら……エリオットの指が、大切なところで、動いている……滑らかに、動いてい……る……あは、あは……はあ、はあ……触って……そのまま、触って……愛する人の手に、触れられていたい……あは、はあ」
「僕も……愛する君に、触れていたい……毎夜の眠りすら嫌だと感じる……お喋りが途切れてしまうから……睡の安らぎに包まれて、君が、穏やかな顔をしていると分かっていても、僕の手を握り返してくれなくなってしまうから……愛する君に、触れていてほしい。このしとりとした滴り、もっとあふれさせてほしい。僕の動きに応じて、尽きぬ雫が流れになってしまうほど濡れてほしい……その奥で繋がる時、僕も君も、やわらかい心地になりたい……愛する二人が一つになる為、触れて交わる……触れていたい……触れていてほしい……だから……」
「はあ、はあ……あ、あ、あ、ああ……エ、エリオット……私の中に、入ってきて、大丈夫……あなたをちょうだい……愛するあなたが、ほしい……あっ!」
「……す、すまない……君を愛する気持ちを抑えられなくなってしまい……足を、強引に開いてしまった……腕を動かす際、爪が触れないようにしたつもりだが……大丈夫かい?」
「大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう。腕を動かす時、私の頭が枕から落ちないよう、首を支えるみたいに、軽く撫でてくれたの嬉しかった。髪に手を添える時ですら、優しさをあふれさせてくれるあなたが好き。エリオット、私の身体を大切に扱いながら、足に触れてくれてありがとう。大丈夫よ。入ってきて……私の中で、動いて……あ……あ、あ、ああ、あああっ!」
「アリス……僕の花嫁……必ず、君を幸せにするから……もう、絶対に……どこにも行こうとしないで……ずっと、僕のそばにいて……ずっと、そばにいて……僕が、魔王であっても……そばにいてほしい」
「あ、あ、あ、あ、あっ! う……うん……エリオットが、魔王でも、愛してる……私は、エリオットを愛しているから……ずっと、そばにいるから……あ、あ、あは……あ、あん……大丈夫……嬉しいから、声をあげてしまっただけ……幸せだから、表情を歪めてしまっただけ……動いて、大丈夫……愛しているから、私の中に、あなたがいても大丈夫……あ……あ、あ、あ、あんっ! ……そ、そそいでも……だいじょうぶ……あなたのすべてを、うけとりたい……あ、あ、あ、あああああ!」
「……ありがとう。アリス、ありがとう……魔王であっても、僕を愛してくれて……ありがとう……君の中に、僕のすべてを受け取ってくれて、ありがとう」
「エリオット……泣いているの? ……うん。今、私の中に、エリオットを受け取ったわよ。愛の力を注いでもらって、嬉しかった。だから、泣かないで。悲しそうな顔をしないで……」
「幸せ過ぎて、泣けてきただけだ……心配させてすまない……君に、余韻を楽しませてやるべきこの一時に涙を流してしまって、すまなかった……もう少し、入れていていい? 愛する君に、触れていたい。抱きしめさせて。たくさん、君を感じたい」
「涙を流してしまうほど、私との時間を楽しんでくれたのなら、とても嬉しいわ。エリオットの身体、温かい。これからも、ずっと、この温かさをちょうだい。私、あなたのお嫁さんになれてよかった」
「僕の花嫁は、幸せになるしかない運命だ。その定めを、受け入れてほしい」
「はーい。受け入れます。ただし、エリオットがにっこりしてくれたらね。ふふ……きゃあ! 強く抱きしめないで……ああ……まだ、入ったまま……少し、恥ずかしくなってきた……えっと……えっと……そ、そういえば、新しい図書館のお仕事が決まってよかった! エリオットが、おつとめの条件のお話を聞いている間に、館内をぶらぶらしてみたけど、面白そうな本をいっぱい見つけたわ。あんなにたくさんの物語を、これから読めると思うと、ずっとずっと幸せでいるしかないわよ! エリオットを好きになって、愛し合って、お嫁さんになったから、私は、幸せになるしかない運命から逃れる事はできません!」
「……司書のお嫁さんになったと喜ぶ君も、絶対に幸せにするよ。だが、僕自身が、君を幸せにしたい」
「はーい。司書のお仕事をしていない時でも、どんなエリオットでも愛しているから、絶対に幸せにしてください。言っているでしょ。エリオットが魔王でも、私は、あなたを愛しているって」
「アリス、君を幸せにしているのは、魔王の力だったね。ふ……ふふふ。そうだったね」
「うん。魔王のエリオットのお嫁さんになれたから、幸せになったの。小さい頃から、物語の主人公になってみたかった。だから、あれは、私の憧れを形にしたようなプロポーズだった。最高の求婚の儀で花嫁になった私は、幸せに決まっているわ」
「『魔の力』を、『聖なる力』に変えてしまう物語か――そんな、おとぎ話の本があって、君が主人公だったら読んでみたいかい?」
「エリオットが、本当は魔王だったという物語の本なら、読み進めてみたいかな。新しい図書館で、そんな本を見つけたの? ああ……でも、私がこれからどうやって幸せになっていくか分かってしまうから、そんな本は読んじゃダメかしら……くすっ。冗談です。エリオットが渡してくれる本なら、どれでも読みたい」
「アリスがこれからどう幸せになっていくかは、本には描かれていない。物語の続きは、僕と君が共に過ごす事で書き添えられていくんだ――僕が用意した本には、聖女さまが、本当は魔王である愛する人と共に生きていく事を願うお話までしか描かれていないよ」
「わぁ! そんな本があるの! その本を読んでみたい。エリオットにプロポーズされた時みたいなお話が本当にあるのね。私、本当に物語の主人公になれたのかしら? ふふ。エリオットだけの聖女さまになれたし」
「……僕は、その本に描かれていないお話も知っているけどね。魔王の『魔の力』を、優しさで包み込んでしまうほどの『聖なる力』を宿していた聖女さまの物語。あれは、まさに、魔を絶つ聖。真の聖女さまのおとぎ話――それは、本には描かれていないんだ」
「そうなの? じゃあ、そのお話を聞かせて。エリオットの口から聞かせてほしいな」
「分かった。だが、今度でいいかな? 身体を重ねた余韻を、もう少し楽しみたい。君とお喋りできて、君に触れる事ができて、君が僕を受け入れてくれている、そのすべてが現に繋がった事を実感したい。これからも、ずっと君と共にいられる幸せを噛み締めたい。僕だけの聖女さま、愛してる」
「はーい。私だけの魔王さま、これからも私を愛してください。あなたのもとで、私を幸せにしてね」
* * * * *
「アリス……?」
「あ……あ……あ……ああっ! む、胸が……ああ……だ、だめ……私の心が、『魔の力』を受け入れたら……胸が裂けてしまう……そうしたら、『聖なる力』が……はあ、はあ……と、止まって……愛しては、だめ……魔王を、愛しては、だめ……『魔の力』に、すべてを委ねては、だめ……はあ、はあ……あ……ああ」
「アリスっ! アリスっ! どうしたんだ……あ……胸に……『魔の力』が……ア、アリスっ! アリスっ!」
「……はあ、はあ……エリオット……魔力を通して、伝わったのね……私のすべてが、魔の者に変わろうとしていて……『魔の力』が、胸を……はあ、はあ……あ……ああ……エリオットを愛する気持ちが、強過ぎて、止められなくて……『魔の力』が……胸を貫いてでも、私を魔の者にしようとしてくる……人としての生命が――聖女としての生命が、胸を突かれる事で果てたら、『聖なる力』が放たれるから……はあ、はあ……逃げて……エリオット、逃げて……私のそばにいないで……放たれた『聖なる力』で、あなたが傷ついてしまうかもしれない……だから、私のそばにいないで……あなたを愛する気持ちを、止める事ができない私を許して……」
「……な、何を許せと言うんだっ! 嫌だ。できない……君を置いて、どこかには行けない!」
「ごめんなさい、エリオット……」
「アリス、何をするつもりだ……? ア、アリスの内の『魔の力』よ……魔王の命に従い、止まれ! 止まれっ! 止まれ……止まれ……」
「む、むりよ……はあ、はあ……も、もう……胸から、『魔の力』を抜く事は、できない……私が、魔王を愛してしまったから……ごめんなさい……エリオットとずっと一緒にいたかった……はあ、はあ……私に、まだ、『聖なる力』を使う資格があるなら、お願い……エリオットを助ける為に、力を貸して……世界の為ではなく、たった一人の愛する人を助けたいと考えてしまう……そんな心を持つ、自分勝手な私が、本当の悪魔と呼ばれる存在なの……エリオットは、世界の為だけに生きる定めのもとに生まれた聖女を救おうとした……だから、魔王だけど、悪魔と呼ばれる存在ではないの……」
「何を……や……やめ……やめ……やめろっ! 僕を……僕を、今すぐ滅ぼすんだっ! 『聖なる力』が、僅かでも残っているというのなら……魔王の滅を強く願えっ! 僕の滅を……願ってくれ……頼む……やめて……やめて、アリス……お願い……君は、これから幸せになるのだから……」
「……うん……これから幸せになる……エリオットに抱きしめてもらって、手を握ってもらって……最期の時を迎えられるなんて、私の人生は、最高に幸せなのよ……ありがとう……幸せの意味を教えてくれて……だから、私を幸せにしてくれた人を愛したまま終わりたい……ありがとう……あなたは、魔王だけど、必要な人だわ……私にとって必要な人……オスブ・イツパー・カ」
「……アリス? アリス? アリスっ! アリスっ! ……み、自らを滅ぼす為に……身の内に、『聖なる力』を放ったというのか……自分だけが、悪魔だからと……己だけを滅ぼす為に、『聖なる力』を使ったのかっ! アリスっ! アリスっ! アリスっ!」
「も、もう……『聖なる力』は、残っていないから……大丈夫……エリオット、あなたを傷つける力は、消えたから、大丈夫よ……はあ、はあ……エリオットを傷つける力が、私の中から消えて、嬉しいわ……ずっと、エリオットと一緒にいたいのは、本当……ほんとうよ……ほん……と……う……まおうのエリオットのそばに、わたしがいられる……エリオットが、ほんとうは……まおうで……わたしが、はなよめ……で……そんな……ものがたりが……いい……な……」
「アリス……アリス……アリス……どうして、こんな事を……君が消えてしまったら……魔王も消えてしまうよ……僕も消えてしまうよ……聖女さま、君が放った『聖なる力』が、魔王を消し去るんだ……目を開いて……起きて……魔王が消える様を見るんだ……世界を救った聖女に、君がなるその時は、今なのだから……返事をして……聖女さま……君は、本当に、魔王を滅ぼす為に生まれてきたんだ……もう宿命を果たしたのだから……この後は、ずっと、幸せに……幸せになって……君が、幸せを感じていない現に価値はないよ……だから、だから……起きて……こんなところで眠ってしまわないで……アリス……アリス……」
* * * * *
「……起きて……こんなところで眠ってしまわないで……アリス……アリス……」
「んん……あ……エリオット……? 私、こんなところで眠ってしまったのね。天気がよかったから、お庭の椅子に座って本を読んでいたの。うとうとしてしまったみたい。主人公が、微睡みの魔法を使われて危険だったからかしら……あっ! この本っ! 私が持っているこの本の中のお話ね! 面白くて、夢中でページをめくってしまって……きゃあ! エ、エリオット? 急に、抱きついてこないで……驚いたわ」
「驚かせた事は謝るよ。だが、今、君の身を抱きしめている事に異を唱えないでほしい。僕は……君が目ざめるのを、待っていたのだから……この僕を待たせたのだから……抱きしめさせてくれ……」
「そうね。エリオット、ごめんなさい。恋人を待たせるなんて、悪い事をしたのは私だわ。うん。このまま抱きしめていて。それで許してもらえるのだったら、抱きしめて……あ……ん」
「……よかった。唇の味も、やわらかさも、僕の知っているアリスだ。よかった。よかった……本当に、眠りからさめてくれてよかった……指一本一本の触れ心地も、まさに君だ。僕の愛する人が、目の前にいてくれる現が繋がっていてよかった……」
「私が眠っている間に、恐ろしい魔物が現れたの? 本に描かれているのは、微睡む人の夢を食べてしまう魔王。襲われた人は、夢ごと食べられて、ずっと目をさまさない。うとうとしていただけなのに、深い眠りから戻ってこられなくなる……あ。ごめん。本のお話をたくさんしてしまって……初めて読むお話じゃないから、ページの向こうの事は知っているの。恋人から贈られていたお守りの力で、目ざめの時を迎えて助かるの。魔王の目の前で眠ってしまう前に、恋人と結ばれる未来に辿り着きたいと強く願ったから、円満な終幕になるのよ。二人の愛の力が、奇跡を起こす物語。だから、何度でも夢中で読んでしまう。エリオットが私を心配してくれる様子が、主人公の恋人のそれに似ていて、ついお話をしてしまったわ」
「ねえ、アリス……」
「どうしたの? エリオット」
「――正体が、魔王であったとしても、君は、僕のお嫁さんになってくれる? ……あ。仮にという意味で……その、あの……」
「いいわよ。魔王であったとしても、エリオットのお嫁さんになってあげる」
「……アリス」
「くすっ。エリオット、本当にどうしたの? いつもなら、楽しいお喋りを繋げて、私を和ませてくれるのに――でも、嬉しいな。深刻そうな表情をしているのは、真剣にプロポーズをしようと考えているからなんでしょ?」
「……真剣だよ。僕は、アリスを永遠に愛すると決めたから。こんな僕の様子を見て、嫌いになってしまったかな……自信に満ちあふれている様で、求婚の言葉を贈れず、すまない」
「私、物語の主人公みたいなプロポーズをされるのが、子供の頃からの夢だったの。正体が魔王かもしれない人のお嫁さんになってほしいって言われるなんて、夢見た以上の求婚の儀かも……ふふ。最高のプロポーズをありがとう!」
「もしも……僕と身体を重ね続けて、魔王の花嫁になってしまったら、どうする?」
「うーん。そうね。そうしたら、魔王のエリオットにお願いして、お空の恵み――たくさんのお水が必要なところに、雨をお届けしようかな。風が流れると、作物がよく育つから、魔王の力を使ってもらおうかな。あっ! 焼かれた野だから、おいしいものばかりがとれる畑というのがあると、本で読んだ事があるの。魔王のエリオットが、炎の魔法で悪さをしようと言い出したら、それはおいしい食材の大地を作る為にしなさい、と言ってあげようかな……くすっ。なんか、楽しそうね。なってしまおうかしら、魔王の花嫁に。世界を救う為に生贄になるんだけど、魔王にあれこれ言えるなんて、物語の主人公みたいじゃない……って、この本は、魔王と人間がずっと一緒に暮らしていける事になるの!
魔王が、その力を大いに振るうのに、人間は幸せになるのよ! 素敵なエンディングだと思わない? 本当は魔王のエリオットと結ばれるのだから、きっと、私も、物語のような素敵な人生を送れるわ」
「――ここは、物語の中でも、夢の中でもない、真の現。しかし、君の為に用意された本に描かれた世界だ。アリスの願いが現となったその世界に、魔王はいてもよいと言ってくれるのかい?」
「魔王がエリオットならいいわ。愛する人が魔王なら、私は、その花嫁になる。悪さをしないように、ずっとそばにいないといけないでしょ? エリオットとずっと一緒にいられるのなら、魔王の花嫁にしてちょうだい――あら? 寝ている間に、蜘蛛さんが遊びにきたのかしら。左手の薬指に、糸が絡んでいる……あ……エ、エリオット……急に、強く引っ張らないで……あ……うん。あなたの温かい心地が好き。このまま強く抱いていて」
「君の身をたぐり寄せ、強く抱いているのは、ただの人間の男ではなく、魔王かもしれない。だが、『魔の力』は、『聖なる力』に優しく包まれているから、悪さはしない」
「エリオットが、『魔の力』を持っているとしたら、それは、私を幸せにする為の力だったんじゃない? だって、私、今、本当に幸せだから」
「アリス、君は、今でも『聖なる力』を持っているよ。ううん。今持っているのが、真の『聖なる力』。このまま、魔王の僕を、ずっと包み込んでいて。君は、これからも、僕だけの聖女さまだ」
「はい。花嫁として、そして、エリオットだけの聖女さまとして、ずっとそばにいさせてね。二人の為の未来に向かいましょう。広くて美しい空で、翼をはためかせるの。どんな色や形の翼でもいい。ただ、二人が自由な心で愛し合える歓びを感じられるような羽ばたきにしたい。エリオット、私を幸せにしてね」
「あ……あはぁ……胸の先を……はあ、はあ……優しい手つきで、胸の先を弄られると……気持ちいい……エリオットに愛されてるって感じてしまって……はあ、はあ……そっちを向きたくない訳じゃなくて……息が荒くなってしまったから、枕に顔をつけたかっただけ……私も、エリオットと唇を重ねたい……はあ、あはっ! ……あなたの舌の温かさを、口の中に感じたい……私の舌を絡めさせて。あなたの温かさを感じさせて……はあ、はあ……胸の先を舐めてもらうのも……気持ちいいよ……はあ、はあ……私、エリオットのお嫁さんになったのだから……こうやって、ベッドの上で愛を育む時間、大切にしたい……キスして……エリオットのキスがほしい。私のすべてが、あなたのものになっていると実感できるようなキスがほしい……はあ、はあ……あなたのすべてを手に入れられたという、幸せを噛み締められるようなキスがほしい……あ……ん……んんんんっ」
「……口づけの数を重ねても、事ごとに、アリスのやわらかさに癒やされてしまうよ。舌や唇の触れ心地だけじゃない。亢進をおぼえるほどの高ぶりに、心悸が速くなる君の事、愛おしい。変化した脈に乱されていくんだ。鼓動に応じて揺れる身の内で生じた熱が、行き場を失い、肌を温めてしまう。そのような時に、咥内を満たすつばきが濃厚でないはずがない。
口から涎が滴ってしまう事など気にしない様子で、舌を回して愛を伝えてくれる様は、実に麗しい。唇や喉を動かす事で、湿った音を、もっと耳に入れたいと考えていると、僕を刺激する働きかけの為様、嬉しかった。僕も、もっともっと、君の口と繋がっていたかったよ。だが、許してくれ。見たかったんだ。君の顔。手足すらも、紅に染まってしまうのではないかと思うほど、艶めかしい姿を見せてくれた後、赤みがさす頬を晒してくれる。それを眺めたかった。君が、逃げないように腕を回したままね」
「うん。キスは、二人が近くにいる事が許されてるって感じられるから好き。でも、エリオットの黒い髪に、自分の手が触れている様子が見られるのは今。二人だけで過ごす時間が許されているから、私もエリオットも、何も着ていない姿でいられる。愛されているんだって感じさせてくれるから、あなたの前だけなら、服を脱ぐ事を恐れずにいられるわ。胸の膨らみのすべてを見られてもいいし、おなかの下の方を眺められても――二人の結びつきがいっそう強まる為に、絆を繋ぐ訳があるというのなら、私の大切なところを、その青い瞳に映してほしい。
大丈夫。エリオットが魔王でも、私は、逃げないから」
「ありがとう。僕が魔王であっても、花嫁になると言ってくれた時の事、とてもとても長い時間が経ったとしても、忘れないよ。アリス、足の付け根を触るね。しかし、空いている方の腕は、もう少し、君の身を抱き寄せるのに使っていたい」
「あっ! 腿をゆっくり撫でられると……あは……こ、声が、出てしまう……あ、あ、あ、ああっ! はあ、あは……わ、私、もう濡れていたのかしら……エリオットの指が、大切なところで、動いている……滑らかに、動いてい……る……あは、あは……はあ、はあ……触って……そのまま、触って……愛する人の手に、触れられていたい……あは、はあ」
「僕も……愛する君に、触れていたい……毎夜の眠りすら嫌だと感じる……お喋りが途切れてしまうから……睡の安らぎに包まれて、君が、穏やかな顔をしていると分かっていても、僕の手を握り返してくれなくなってしまうから……愛する君に、触れていてほしい。このしとりとした滴り、もっとあふれさせてほしい。僕の動きに応じて、尽きぬ雫が流れになってしまうほど濡れてほしい……その奥で繋がる時、僕も君も、やわらかい心地になりたい……愛する二人が一つになる為、触れて交わる……触れていたい……触れていてほしい……だから……」
「はあ、はあ……あ、あ、あ、ああ……エ、エリオット……私の中に、入ってきて、大丈夫……あなたをちょうだい……愛するあなたが、ほしい……あっ!」
「……す、すまない……君を愛する気持ちを抑えられなくなってしまい……足を、強引に開いてしまった……腕を動かす際、爪が触れないようにしたつもりだが……大丈夫かい?」
「大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう。腕を動かす時、私の頭が枕から落ちないよう、首を支えるみたいに、軽く撫でてくれたの嬉しかった。髪に手を添える時ですら、優しさをあふれさせてくれるあなたが好き。エリオット、私の身体を大切に扱いながら、足に触れてくれてありがとう。大丈夫よ。入ってきて……私の中で、動いて……あ……あ、あ、ああ、あああっ!」
「アリス……僕の花嫁……必ず、君を幸せにするから……もう、絶対に……どこにも行こうとしないで……ずっと、僕のそばにいて……ずっと、そばにいて……僕が、魔王であっても……そばにいてほしい」
「あ、あ、あ、あ、あっ! う……うん……エリオットが、魔王でも、愛してる……私は、エリオットを愛しているから……ずっと、そばにいるから……あ、あ、あは……あ、あん……大丈夫……嬉しいから、声をあげてしまっただけ……幸せだから、表情を歪めてしまっただけ……動いて、大丈夫……愛しているから、私の中に、あなたがいても大丈夫……あ……あ、あ、あ、あんっ! ……そ、そそいでも……だいじょうぶ……あなたのすべてを、うけとりたい……あ、あ、あ、あああああ!」
「……ありがとう。アリス、ありがとう……魔王であっても、僕を愛してくれて……ありがとう……君の中に、僕のすべてを受け取ってくれて、ありがとう」
「エリオット……泣いているの? ……うん。今、私の中に、エリオットを受け取ったわよ。愛の力を注いでもらって、嬉しかった。だから、泣かないで。悲しそうな顔をしないで……」
「幸せ過ぎて、泣けてきただけだ……心配させてすまない……君に、余韻を楽しませてやるべきこの一時に涙を流してしまって、すまなかった……もう少し、入れていていい? 愛する君に、触れていたい。抱きしめさせて。たくさん、君を感じたい」
「涙を流してしまうほど、私との時間を楽しんでくれたのなら、とても嬉しいわ。エリオットの身体、温かい。これからも、ずっと、この温かさをちょうだい。私、あなたのお嫁さんになれてよかった」
「僕の花嫁は、幸せになるしかない運命だ。その定めを、受け入れてほしい」
「はーい。受け入れます。ただし、エリオットがにっこりしてくれたらね。ふふ……きゃあ! 強く抱きしめないで……ああ……まだ、入ったまま……少し、恥ずかしくなってきた……えっと……えっと……そ、そういえば、新しい図書館のお仕事が決まってよかった! エリオットが、おつとめの条件のお話を聞いている間に、館内をぶらぶらしてみたけど、面白そうな本をいっぱい見つけたわ。あんなにたくさんの物語を、これから読めると思うと、ずっとずっと幸せでいるしかないわよ! エリオットを好きになって、愛し合って、お嫁さんになったから、私は、幸せになるしかない運命から逃れる事はできません!」
「……司書のお嫁さんになったと喜ぶ君も、絶対に幸せにするよ。だが、僕自身が、君を幸せにしたい」
「はーい。司書のお仕事をしていない時でも、どんなエリオットでも愛しているから、絶対に幸せにしてください。言っているでしょ。エリオットが魔王でも、私は、あなたを愛しているって」
「アリス、君を幸せにしているのは、魔王の力だったね。ふ……ふふふ。そうだったね」
「うん。魔王のエリオットのお嫁さんになれたから、幸せになったの。小さい頃から、物語の主人公になってみたかった。だから、あれは、私の憧れを形にしたようなプロポーズだった。最高の求婚の儀で花嫁になった私は、幸せに決まっているわ」
「『魔の力』を、『聖なる力』に変えてしまう物語か――そんな、おとぎ話の本があって、君が主人公だったら読んでみたいかい?」
「エリオットが、本当は魔王だったという物語の本なら、読み進めてみたいかな。新しい図書館で、そんな本を見つけたの? ああ……でも、私がこれからどうやって幸せになっていくか分かってしまうから、そんな本は読んじゃダメかしら……くすっ。冗談です。エリオットが渡してくれる本なら、どれでも読みたい」
「アリスがこれからどう幸せになっていくかは、本には描かれていない。物語の続きは、僕と君が共に過ごす事で書き添えられていくんだ――僕が用意した本には、聖女さまが、本当は魔王である愛する人と共に生きていく事を願うお話までしか描かれていないよ」
「わぁ! そんな本があるの! その本を読んでみたい。エリオットにプロポーズされた時みたいなお話が本当にあるのね。私、本当に物語の主人公になれたのかしら? ふふ。エリオットだけの聖女さまになれたし」
「……僕は、その本に描かれていないお話も知っているけどね。魔王の『魔の力』を、優しさで包み込んでしまうほどの『聖なる力』を宿していた聖女さまの物語。あれは、まさに、魔を絶つ聖。真の聖女さまのおとぎ話――それは、本には描かれていないんだ」
「そうなの? じゃあ、そのお話を聞かせて。エリオットの口から聞かせてほしいな」
「分かった。だが、今度でいいかな? 身体を重ねた余韻を、もう少し楽しみたい。君とお喋りできて、君に触れる事ができて、君が僕を受け入れてくれている、そのすべてが現に繋がった事を実感したい。これからも、ずっと君と共にいられる幸せを噛み締めたい。僕だけの聖女さま、愛してる」
「はーい。私だけの魔王さま、これからも私を愛してください。あなたのもとで、私を幸せにしてね」
* * * * *
「アリス……?」
「あ……あ……あ……ああっ! む、胸が……ああ……だ、だめ……私の心が、『魔の力』を受け入れたら……胸が裂けてしまう……そうしたら、『聖なる力』が……はあ、はあ……と、止まって……愛しては、だめ……魔王を、愛しては、だめ……『魔の力』に、すべてを委ねては、だめ……はあ、はあ……あ……ああ」
「アリスっ! アリスっ! どうしたんだ……あ……胸に……『魔の力』が……ア、アリスっ! アリスっ!」
「……はあ、はあ……エリオット……魔力を通して、伝わったのね……私のすべてが、魔の者に変わろうとしていて……『魔の力』が、胸を……はあ、はあ……あ……ああ……エリオットを愛する気持ちが、強過ぎて、止められなくて……『魔の力』が……胸を貫いてでも、私を魔の者にしようとしてくる……人としての生命が――聖女としての生命が、胸を突かれる事で果てたら、『聖なる力』が放たれるから……はあ、はあ……逃げて……エリオット、逃げて……私のそばにいないで……放たれた『聖なる力』で、あなたが傷ついてしまうかもしれない……だから、私のそばにいないで……あなたを愛する気持ちを、止める事ができない私を許して……」
「……な、何を許せと言うんだっ! 嫌だ。できない……君を置いて、どこかには行けない!」
「ごめんなさい、エリオット……」
「アリス、何をするつもりだ……? ア、アリスの内の『魔の力』よ……魔王の命に従い、止まれ! 止まれっ! 止まれ……止まれ……」
「む、むりよ……はあ、はあ……も、もう……胸から、『魔の力』を抜く事は、できない……私が、魔王を愛してしまったから……ごめんなさい……エリオットとずっと一緒にいたかった……はあ、はあ……私に、まだ、『聖なる力』を使う資格があるなら、お願い……エリオットを助ける為に、力を貸して……世界の為ではなく、たった一人の愛する人を助けたいと考えてしまう……そんな心を持つ、自分勝手な私が、本当の悪魔と呼ばれる存在なの……エリオットは、世界の為だけに生きる定めのもとに生まれた聖女を救おうとした……だから、魔王だけど、悪魔と呼ばれる存在ではないの……」
「何を……や……やめ……やめ……やめろっ! 僕を……僕を、今すぐ滅ぼすんだっ! 『聖なる力』が、僅かでも残っているというのなら……魔王の滅を強く願えっ! 僕の滅を……願ってくれ……頼む……やめて……やめて、アリス……お願い……君は、これから幸せになるのだから……」
「……うん……これから幸せになる……エリオットに抱きしめてもらって、手を握ってもらって……最期の時を迎えられるなんて、私の人生は、最高に幸せなのよ……ありがとう……幸せの意味を教えてくれて……だから、私を幸せにしてくれた人を愛したまま終わりたい……ありがとう……あなたは、魔王だけど、必要な人だわ……私にとって必要な人……オスブ・イツパー・カ」
「……アリス? アリス? アリスっ! アリスっ! ……み、自らを滅ぼす為に……身の内に、『聖なる力』を放ったというのか……自分だけが、悪魔だからと……己だけを滅ぼす為に、『聖なる力』を使ったのかっ! アリスっ! アリスっ! アリスっ!」
「も、もう……『聖なる力』は、残っていないから……大丈夫……エリオット、あなたを傷つける力は、消えたから、大丈夫よ……はあ、はあ……エリオットを傷つける力が、私の中から消えて、嬉しいわ……ずっと、エリオットと一緒にいたいのは、本当……ほんとうよ……ほん……と……う……まおうのエリオットのそばに、わたしがいられる……エリオットが、ほんとうは……まおうで……わたしが、はなよめ……で……そんな……ものがたりが……いい……な……」
「アリス……アリス……アリス……どうして、こんな事を……君が消えてしまったら……魔王も消えてしまうよ……僕も消えてしまうよ……聖女さま、君が放った『聖なる力』が、魔王を消し去るんだ……目を開いて……起きて……魔王が消える様を見るんだ……世界を救った聖女に、君がなるその時は、今なのだから……返事をして……聖女さま……君は、本当に、魔王を滅ぼす為に生まれてきたんだ……もう宿命を果たしたのだから……この後は、ずっと、幸せに……幸せになって……君が、幸せを感じていない現に価値はないよ……だから、だから……起きて……こんなところで眠ってしまわないで……アリス……アリス……」
* * * * *
「……起きて……こんなところで眠ってしまわないで……アリス……アリス……」
「んん……あ……エリオット……? 私、こんなところで眠ってしまったのね。天気がよかったから、お庭の椅子に座って本を読んでいたの。うとうとしてしまったみたい。主人公が、微睡みの魔法を使われて危険だったからかしら……あっ! この本っ! 私が持っているこの本の中のお話ね! 面白くて、夢中でページをめくってしまって……きゃあ! エ、エリオット? 急に、抱きついてこないで……驚いたわ」
「驚かせた事は謝るよ。だが、今、君の身を抱きしめている事に異を唱えないでほしい。僕は……君が目ざめるのを、待っていたのだから……この僕を待たせたのだから……抱きしめさせてくれ……」
「そうね。エリオット、ごめんなさい。恋人を待たせるなんて、悪い事をしたのは私だわ。うん。このまま抱きしめていて。それで許してもらえるのだったら、抱きしめて……あ……ん」
「……よかった。唇の味も、やわらかさも、僕の知っているアリスだ。よかった。よかった……本当に、眠りからさめてくれてよかった……指一本一本の触れ心地も、まさに君だ。僕の愛する人が、目の前にいてくれる現が繋がっていてよかった……」
「私が眠っている間に、恐ろしい魔物が現れたの? 本に描かれているのは、微睡む人の夢を食べてしまう魔王。襲われた人は、夢ごと食べられて、ずっと目をさまさない。うとうとしていただけなのに、深い眠りから戻ってこられなくなる……あ。ごめん。本のお話をたくさんしてしまって……初めて読むお話じゃないから、ページの向こうの事は知っているの。恋人から贈られていたお守りの力で、目ざめの時を迎えて助かるの。魔王の目の前で眠ってしまう前に、恋人と結ばれる未来に辿り着きたいと強く願ったから、円満な終幕になるのよ。二人の愛の力が、奇跡を起こす物語。だから、何度でも夢中で読んでしまう。エリオットが私を心配してくれる様子が、主人公の恋人のそれに似ていて、ついお話をしてしまったわ」
「ねえ、アリス……」
「どうしたの? エリオット」
「――正体が、魔王であったとしても、君は、僕のお嫁さんになってくれる? ……あ。仮にという意味で……その、あの……」
「いいわよ。魔王であったとしても、エリオットのお嫁さんになってあげる」
「……アリス」
「くすっ。エリオット、本当にどうしたの? いつもなら、楽しいお喋りを繋げて、私を和ませてくれるのに――でも、嬉しいな。深刻そうな表情をしているのは、真剣にプロポーズをしようと考えているからなんでしょ?」
「……真剣だよ。僕は、アリスを永遠に愛すると決めたから。こんな僕の様子を見て、嫌いになってしまったかな……自信に満ちあふれている様で、求婚の言葉を贈れず、すまない」
「私、物語の主人公みたいなプロポーズをされるのが、子供の頃からの夢だったの。正体が魔王かもしれない人のお嫁さんになってほしいって言われるなんて、夢見た以上の求婚の儀かも……ふふ。最高のプロポーズをありがとう!」
「もしも……僕と身体を重ね続けて、魔王の花嫁になってしまったら、どうする?」
「うーん。そうね。そうしたら、魔王のエリオットにお願いして、お空の恵み――たくさんのお水が必要なところに、雨をお届けしようかな。風が流れると、作物がよく育つから、魔王の力を使ってもらおうかな。あっ! 焼かれた野だから、おいしいものばかりがとれる畑というのがあると、本で読んだ事があるの。魔王のエリオットが、炎の魔法で悪さをしようと言い出したら、それはおいしい食材の大地を作る為にしなさい、と言ってあげようかな……くすっ。なんか、楽しそうね。なってしまおうかしら、魔王の花嫁に。世界を救う為に生贄になるんだけど、魔王にあれこれ言えるなんて、物語の主人公みたいじゃない……って、この本は、魔王と人間がずっと一緒に暮らしていける事になるの!
魔王が、その力を大いに振るうのに、人間は幸せになるのよ! 素敵なエンディングだと思わない? 本当は魔王のエリオットと結ばれるのだから、きっと、私も、物語のような素敵な人生を送れるわ」
「――ここは、物語の中でも、夢の中でもない、真の現。しかし、君の為に用意された本に描かれた世界だ。アリスの願いが現となったその世界に、魔王はいてもよいと言ってくれるのかい?」
「魔王がエリオットならいいわ。愛する人が魔王なら、私は、その花嫁になる。悪さをしないように、ずっとそばにいないといけないでしょ? エリオットとずっと一緒にいられるのなら、魔王の花嫁にしてちょうだい――あら? 寝ている間に、蜘蛛さんが遊びにきたのかしら。左手の薬指に、糸が絡んでいる……あ……エ、エリオット……急に、強く引っ張らないで……あ……うん。あなたの温かい心地が好き。このまま強く抱いていて」
「君の身をたぐり寄せ、強く抱いているのは、ただの人間の男ではなく、魔王かもしれない。だが、『魔の力』は、『聖なる力』に優しく包まれているから、悪さはしない」
「エリオットが、『魔の力』を持っているとしたら、それは、私を幸せにする為の力だったんじゃない? だって、私、今、本当に幸せだから」
「アリス、君は、今でも『聖なる力』を持っているよ。ううん。今持っているのが、真の『聖なる力』。このまま、魔王の僕を、ずっと包み込んでいて。君は、これからも、僕だけの聖女さまだ」
「はい。花嫁として、そして、エリオットだけの聖女さまとして、ずっとそばにいさせてね。二人の為の未来に向かいましょう。広くて美しい空で、翼をはためかせるの。どんな色や形の翼でもいい。ただ、二人が自由な心で愛し合える歓びを感じられるような羽ばたきにしたい。エリオット、私を幸せにしてね」
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