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第一章
3.シモンの置き手紙
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覚醒したと分かった瞬間、体はひとりでに動き出していた。
厄災めがけて走る。
無数の攻撃が厄災から繰り出されるが、全てをかわす。
見える世界が変わっていた。
あれほど早く見えた厄災の動きが今では遅く感じる。
当たらない、いや当たる訳がない。
厄災の後ろに回り込み、右腕に白い炎を溜める。
白い炎は初めて扱う力だったが、手足のように操ることができた。
「おらっ!!」
白い炎を纏った右拳を厄災に叩きつける。
「グオワッ!!」
厄災は叫び声をあげながら、吹っ飛んでいった。屋敷の壁にぶつかり、壁が崩れる。
「はぁ、はぁ、はぁ…よし」
俺より一回りも二回りも大きな怪物を吹っ飛ばすことができた。
シモンはまだ俺に何も言ってこないが、この異常なまでの力。間違いなくノアの力に覚醒したと言っていいだろう。
しかしこの力、かなり体力を使う。今の攻撃で半分くらい力を使った感覚だ。一撃で倒せたようで良かった。
「シモン...、倒せました」
俺がそう言うと、シモンは崩れた壁を指した。
「油断するなと、あれ程言っただろう」
同時に右脇腹から左肩にかけて衝撃が走る。
厄災の触手が油断した俺を攻撃したのだ。
「ぐうっ!!」
身体がバキバキと音を立てる。
くそっ、まだ生きてたのか。
思いっきり殴ったのに。
厄災の攻撃をモロに受けた俺は屋敷の壁を突き破り、そのまま外の地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!!」
全身に大きな衝撃が走る。
息ができない。
とにかく、今は立たないと...。
そう思い、立ちあがろうとするが、思うように身体は動かない。
幾つか骨が折れているのだろう。
少し動くだけで身体は軋み、激痛が襲ってくる。
そんな身体を無理矢理に動かし、やっとの思いで膝をついた時には既に厄災が目の前に迫っていた。
黒い触手が大きく振りかぶられている。
まずい、避けないと。
しかし身体は言うことを聞かない。
迫り来る大きな黒い塊をただ見ていることしかできなかった。
やばい。
今度こそ死ぬ...。
そう覚悟した時。
「ここまでだな」
早くも2度目の死の覚悟をした時、先程まで見ているだけだったシモンが突然、目の前に現れた。そして迫り来る黒い触手を軽く受け止めると、もう片方の腕で払い除けるように厄災に触れた。すると、厄災は“パンッッッッ!!!”という音と共に木っ端微塵に弾け飛んだ。
まさに一瞬の出来事。
俺は何が起こったのか理解することが出来なかった。
バラバラになった厄災が雨のように俺に降り注ぐ。
「危なかったな」
そう言って、シモンは倒れる俺を覗き込むようにしゃがんだ。
「いや….、危なかったな、じゃあないでしょ…!!。はぁ、はぁ、...。死ぬかと思いましたよ!」
薄れる意識の中、なんとかシモンに言い返す。そんな俺を見てシモンはフッと笑った。
「これで仕事は終わりだ。ほら、立て。帰るぞ」
「ううっ、無理ですよ。全身バキバキです。ほら...今にも...意識が...」
狭まる視界が一気に真っ暗になった。
ーーー
「んんっ...、眩し...」
窓から刺す太陽の光で目を覚ますと、俺はベッドの上だった。
全身が痛い。
頭がくらくらする。
掠れる視界を擦ると、男が立っていた。シモンかと思ったが、シルエットが違う。丸い。中年の小太りのおっさんだ。
「えっと...」
「おお、兄ちゃん。やっと目が覚めたか」
「あなたは...?」
「宿の店主だよ。兄ちゃんの隣に泊まってた男が突然ボロボロのお前を担いで帰ってきてよ、看病するよう頼まれたんだ」
「そう...なんですか。ありがとう...ございます」
「ああ、気にすんな。金はしっかり貰ってるしな。まぁ、目覚めて良かったよ。また困ったことがあったら呼びにこいや」
そう言い残し、店主の男は部屋を出ていった。
まだぼんやりする頭で今の状況を整理する。
どうやら俺は厄災と戦った後、そのまま気絶したようだ。それで、シモンが宿まで運んでくれた。
そういえば、シモンはどこにいるのだろうか。シモンには聞きたい事が山程ある。
もう2、3日も休めば体も動くようになる。そうしたらシモンを訪ねよう。
と、思っていたが、その日の夜には身体は動くようになった。痛みもかなり引いている。
どうやら、俺は怪我の治りが早い体質のようだ。
俺はろうそくを片手にシモンの部屋へと向かった。
「シモーン!ちょっと、お話いいですかー?」
そう言いながら、シモンの部屋の扉を叩くが、返答はない。
寝ているのか?
それとも外出?
シモンが突然いなくなることは、特に珍しいことではない。彼は覚醒者として多忙な生活を送っているからだ。これまでも俺に一言もなく、出ていくことは何度もあった。
仕方ない、帰ってくるまで待つか。
自室に戻った俺は特にやることもなかったので、ノアの力をもう一度使ってみることにした。
「よし、やるか」
俺は厄災との戦いの中、ノアの力とやらに覚醒した。シモンからはっきりと言われては無いが、身体から溢れ出ていた白い炎と異常なまでの身体の強靭さは人が出せる力を超えている。流石に覚醒したと言っていいだろう。
つまり俺はシモンと同じ覚醒者ってわけだ。これからはシモンと一緒に厄災退治に行くことも増える。それなら力を使う練習をしておいた方がいい。早速やってみよう。
と、思い立ったものの、何度試しても白い炎は出てこなかった。というか、そもそも力の使い方が分からない。あの時は無我夢中で力を使ったが、どうやって身体から白い炎を出したのか全く覚えていないのだ。少し身体も動かしてみたが、あの時のような身体の軽さはなく、いたっていつも通りだ。
あれ?もしかして俺、ノアの力に覚醒してない?
それとも、一時的なものだったのか?
そんな不安を抱えながら、何度か白い炎を出そうと頑張ってみたが、結局、再び俺がノアの力を使うことは叶わなかった。
これ以上やっても、ノアの力を使える気配はない。何かコツがあるのかもしれないし、もしかすると、俺はもうノアの力を使えないのかもしれない。
まあ、どちらであれ、シモン以外に聞ける人はいない。
やはり、待つしかなさそうだ。
ーーー
1週間が経った。
まだシモンは帰ってきていない。
ここまで長く留守にすることは無かったので、少し心配だ。
シモンが宿にいないのは、おそらく厄災退治が理由だろう。厄災を触れただけで木っ端微塵にする彼がそう簡単に死ぬとは思えないが、危険度の高い仕事だ。いつ死んでもおかしくない。
もし、シモンが死んでいたらどうしようか。1人で生活する力は日々の家事で身についたが、いかんせんお金が無い。シモンのように厄災退治でお金を稼げればいいのだが、あれ以来俺はノアの力を使う事ができていない。
何だか不安になってきたな。
あの力は一体何だったのだろうか。
本当に覚醒してなかったりして。
なんて考えていると、誰かが扉を叩く音が聞こえた。
「今出ます!」
扉を開けると、宿の店主が立っていた。
「おう、元気そうだな」
「はい、おかげさまで。今日は...何のようですか?」
「何のようって...。宿代の請求に決まってるだろ」
「宿代?」
もちろん、宿代の意味が分からないわけではない。なぜ、彼が俺に請求しにきたのが分からなかったのだ。
だって、宿代は俺の分も含めて全額シモンが払っていた。俺が払ったことなんて一度もない。
俺がポカーンと口を開けていると、店主の男がハッハッハと大きな口を開けて笑った。
「冗談キツいぜ、兄ちゃん。ここは宿屋だ。泊まるにゃ金がいる。隣部屋の男から貰ってた宿代は今日の夜までだ。払えないなら今日中に出てってもらうぜ」
「えーっと、ちょっ、ちょっと待って下さい。シモンが帰ってくるまで待ってくれませんか?」
俺がそう言うと、店主の男は首を傾げた。
「シモンってのは、隣の部屋にいた男か?」
「そうですけど」
「その男はお前をここに運んできたその日に今日までの宿代を払って出てったよ。知らなかったのか?」
「え?」
嘘でしょ。
固まったままの俺を見て、店主の男は慰めるように俺の肩に手を置いた。
「ああ…、えっと、知らなかったのか。そりゃ気の毒にな。でも、宿代は宿代だ。明日もいるならキッチリ払ってもらうぜ」
そう言われても、無一文の俺に払える金はない。なんとかあと数日、出ていくまでの準備の期間が欲しいが、店主のこの様子ではどれだけ頼んでも厳しそうだ。
つまり、この状況で俺に可能な返答はただ1つ。
「今日の夜までに出ていきます...」
「そうか、なら早く支度を始めた方がいい。1秒でも過ぎたら宿代は払って貰うからな」
「はい...」
ということで、俺は宿を出る準備を始めた。
これからどうしようか考えながら、少ない荷物をまとめていると、店主の男が再び部屋を訪ねてきた。
「すまん、1つ忘れてたことがあった」
「何でしょうか?」
「これをシモンって男からお前に渡すよう言われてんだった」
店主の男はそう言うと、2枚の紙とペンダントらしき何かを俺に渡した。
「何ですか?これは」
「知らねぇよ。人の手紙を見る趣味はねぇ」
「手紙?...これか」
店主の男の言う通り、2枚のうち1枚はシモンからの手紙だった。
内容はこうだ。
~レイへ。仕事が入った。かなり長期の仕事だ。もちろん、厄災一体程度に手こずっているお前は弱過ぎて連れていけない。この手紙をお前がいつ読んでいるのかは分からないが、お前が今戸惑っていることは分かる。だが、心配するな。もう一枚の紙にお前が行くべき場所を記してある。覚醒者だと言えば、即採用してくれる良い職場だ。ある程度の宿代は払ってある。準備ができ次第、そこに向かえ。あとペンダントはお守りだ。肌身離さず身につけろ。以上~
「なんて書いてあったんだ?」
店主の男が尋ねた。
「出ていくって。あとこれはお守りだって」
小さな木片のついたペンダントを店主に見せる。
「良かったな。...まぁ、遅れてすまなかった」
店主の男は気まずそうにそう言うと、軽く頭を下げて部屋を出て行った。
「はぁ...」
大きなため息を吐きながら、出て行く準備を始める。
もっと早くこの手紙を渡してくれてたら、こんなに焦ることもなかったろうに。
まぁ、次にすべきことができて良かった。
荷物をまとめ次第、良い職場とやらを確認するとしよう。
厄災めがけて走る。
無数の攻撃が厄災から繰り出されるが、全てをかわす。
見える世界が変わっていた。
あれほど早く見えた厄災の動きが今では遅く感じる。
当たらない、いや当たる訳がない。
厄災の後ろに回り込み、右腕に白い炎を溜める。
白い炎は初めて扱う力だったが、手足のように操ることができた。
「おらっ!!」
白い炎を纏った右拳を厄災に叩きつける。
「グオワッ!!」
厄災は叫び声をあげながら、吹っ飛んでいった。屋敷の壁にぶつかり、壁が崩れる。
「はぁ、はぁ、はぁ…よし」
俺より一回りも二回りも大きな怪物を吹っ飛ばすことができた。
シモンはまだ俺に何も言ってこないが、この異常なまでの力。間違いなくノアの力に覚醒したと言っていいだろう。
しかしこの力、かなり体力を使う。今の攻撃で半分くらい力を使った感覚だ。一撃で倒せたようで良かった。
「シモン...、倒せました」
俺がそう言うと、シモンは崩れた壁を指した。
「油断するなと、あれ程言っただろう」
同時に右脇腹から左肩にかけて衝撃が走る。
厄災の触手が油断した俺を攻撃したのだ。
「ぐうっ!!」
身体がバキバキと音を立てる。
くそっ、まだ生きてたのか。
思いっきり殴ったのに。
厄災の攻撃をモロに受けた俺は屋敷の壁を突き破り、そのまま外の地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!!」
全身に大きな衝撃が走る。
息ができない。
とにかく、今は立たないと...。
そう思い、立ちあがろうとするが、思うように身体は動かない。
幾つか骨が折れているのだろう。
少し動くだけで身体は軋み、激痛が襲ってくる。
そんな身体を無理矢理に動かし、やっとの思いで膝をついた時には既に厄災が目の前に迫っていた。
黒い触手が大きく振りかぶられている。
まずい、避けないと。
しかし身体は言うことを聞かない。
迫り来る大きな黒い塊をただ見ていることしかできなかった。
やばい。
今度こそ死ぬ...。
そう覚悟した時。
「ここまでだな」
早くも2度目の死の覚悟をした時、先程まで見ているだけだったシモンが突然、目の前に現れた。そして迫り来る黒い触手を軽く受け止めると、もう片方の腕で払い除けるように厄災に触れた。すると、厄災は“パンッッッッ!!!”という音と共に木っ端微塵に弾け飛んだ。
まさに一瞬の出来事。
俺は何が起こったのか理解することが出来なかった。
バラバラになった厄災が雨のように俺に降り注ぐ。
「危なかったな」
そう言って、シモンは倒れる俺を覗き込むようにしゃがんだ。
「いや….、危なかったな、じゃあないでしょ…!!。はぁ、はぁ、...。死ぬかと思いましたよ!」
薄れる意識の中、なんとかシモンに言い返す。そんな俺を見てシモンはフッと笑った。
「これで仕事は終わりだ。ほら、立て。帰るぞ」
「ううっ、無理ですよ。全身バキバキです。ほら...今にも...意識が...」
狭まる視界が一気に真っ暗になった。
ーーー
「んんっ...、眩し...」
窓から刺す太陽の光で目を覚ますと、俺はベッドの上だった。
全身が痛い。
頭がくらくらする。
掠れる視界を擦ると、男が立っていた。シモンかと思ったが、シルエットが違う。丸い。中年の小太りのおっさんだ。
「えっと...」
「おお、兄ちゃん。やっと目が覚めたか」
「あなたは...?」
「宿の店主だよ。兄ちゃんの隣に泊まってた男が突然ボロボロのお前を担いで帰ってきてよ、看病するよう頼まれたんだ」
「そう...なんですか。ありがとう...ございます」
「ああ、気にすんな。金はしっかり貰ってるしな。まぁ、目覚めて良かったよ。また困ったことがあったら呼びにこいや」
そう言い残し、店主の男は部屋を出ていった。
まだぼんやりする頭で今の状況を整理する。
どうやら俺は厄災と戦った後、そのまま気絶したようだ。それで、シモンが宿まで運んでくれた。
そういえば、シモンはどこにいるのだろうか。シモンには聞きたい事が山程ある。
もう2、3日も休めば体も動くようになる。そうしたらシモンを訪ねよう。
と、思っていたが、その日の夜には身体は動くようになった。痛みもかなり引いている。
どうやら、俺は怪我の治りが早い体質のようだ。
俺はろうそくを片手にシモンの部屋へと向かった。
「シモーン!ちょっと、お話いいですかー?」
そう言いながら、シモンの部屋の扉を叩くが、返答はない。
寝ているのか?
それとも外出?
シモンが突然いなくなることは、特に珍しいことではない。彼は覚醒者として多忙な生活を送っているからだ。これまでも俺に一言もなく、出ていくことは何度もあった。
仕方ない、帰ってくるまで待つか。
自室に戻った俺は特にやることもなかったので、ノアの力をもう一度使ってみることにした。
「よし、やるか」
俺は厄災との戦いの中、ノアの力とやらに覚醒した。シモンからはっきりと言われては無いが、身体から溢れ出ていた白い炎と異常なまでの身体の強靭さは人が出せる力を超えている。流石に覚醒したと言っていいだろう。
つまり俺はシモンと同じ覚醒者ってわけだ。これからはシモンと一緒に厄災退治に行くことも増える。それなら力を使う練習をしておいた方がいい。早速やってみよう。
と、思い立ったものの、何度試しても白い炎は出てこなかった。というか、そもそも力の使い方が分からない。あの時は無我夢中で力を使ったが、どうやって身体から白い炎を出したのか全く覚えていないのだ。少し身体も動かしてみたが、あの時のような身体の軽さはなく、いたっていつも通りだ。
あれ?もしかして俺、ノアの力に覚醒してない?
それとも、一時的なものだったのか?
そんな不安を抱えながら、何度か白い炎を出そうと頑張ってみたが、結局、再び俺がノアの力を使うことは叶わなかった。
これ以上やっても、ノアの力を使える気配はない。何かコツがあるのかもしれないし、もしかすると、俺はもうノアの力を使えないのかもしれない。
まあ、どちらであれ、シモン以外に聞ける人はいない。
やはり、待つしかなさそうだ。
ーーー
1週間が経った。
まだシモンは帰ってきていない。
ここまで長く留守にすることは無かったので、少し心配だ。
シモンが宿にいないのは、おそらく厄災退治が理由だろう。厄災を触れただけで木っ端微塵にする彼がそう簡単に死ぬとは思えないが、危険度の高い仕事だ。いつ死んでもおかしくない。
もし、シモンが死んでいたらどうしようか。1人で生活する力は日々の家事で身についたが、いかんせんお金が無い。シモンのように厄災退治でお金を稼げればいいのだが、あれ以来俺はノアの力を使う事ができていない。
何だか不安になってきたな。
あの力は一体何だったのだろうか。
本当に覚醒してなかったりして。
なんて考えていると、誰かが扉を叩く音が聞こえた。
「今出ます!」
扉を開けると、宿の店主が立っていた。
「おう、元気そうだな」
「はい、おかげさまで。今日は...何のようですか?」
「何のようって...。宿代の請求に決まってるだろ」
「宿代?」
もちろん、宿代の意味が分からないわけではない。なぜ、彼が俺に請求しにきたのが分からなかったのだ。
だって、宿代は俺の分も含めて全額シモンが払っていた。俺が払ったことなんて一度もない。
俺がポカーンと口を開けていると、店主の男がハッハッハと大きな口を開けて笑った。
「冗談キツいぜ、兄ちゃん。ここは宿屋だ。泊まるにゃ金がいる。隣部屋の男から貰ってた宿代は今日の夜までだ。払えないなら今日中に出てってもらうぜ」
「えーっと、ちょっ、ちょっと待って下さい。シモンが帰ってくるまで待ってくれませんか?」
俺がそう言うと、店主の男は首を傾げた。
「シモンってのは、隣の部屋にいた男か?」
「そうですけど」
「その男はお前をここに運んできたその日に今日までの宿代を払って出てったよ。知らなかったのか?」
「え?」
嘘でしょ。
固まったままの俺を見て、店主の男は慰めるように俺の肩に手を置いた。
「ああ…、えっと、知らなかったのか。そりゃ気の毒にな。でも、宿代は宿代だ。明日もいるならキッチリ払ってもらうぜ」
そう言われても、無一文の俺に払える金はない。なんとかあと数日、出ていくまでの準備の期間が欲しいが、店主のこの様子ではどれだけ頼んでも厳しそうだ。
つまり、この状況で俺に可能な返答はただ1つ。
「今日の夜までに出ていきます...」
「そうか、なら早く支度を始めた方がいい。1秒でも過ぎたら宿代は払って貰うからな」
「はい...」
ということで、俺は宿を出る準備を始めた。
これからどうしようか考えながら、少ない荷物をまとめていると、店主の男が再び部屋を訪ねてきた。
「すまん、1つ忘れてたことがあった」
「何でしょうか?」
「これをシモンって男からお前に渡すよう言われてんだった」
店主の男はそう言うと、2枚の紙とペンダントらしき何かを俺に渡した。
「何ですか?これは」
「知らねぇよ。人の手紙を見る趣味はねぇ」
「手紙?...これか」
店主の男の言う通り、2枚のうち1枚はシモンからの手紙だった。
内容はこうだ。
~レイへ。仕事が入った。かなり長期の仕事だ。もちろん、厄災一体程度に手こずっているお前は弱過ぎて連れていけない。この手紙をお前がいつ読んでいるのかは分からないが、お前が今戸惑っていることは分かる。だが、心配するな。もう一枚の紙にお前が行くべき場所を記してある。覚醒者だと言えば、即採用してくれる良い職場だ。ある程度の宿代は払ってある。準備ができ次第、そこに向かえ。あとペンダントはお守りだ。肌身離さず身につけろ。以上~
「なんて書いてあったんだ?」
店主の男が尋ねた。
「出ていくって。あとこれはお守りだって」
小さな木片のついたペンダントを店主に見せる。
「良かったな。...まぁ、遅れてすまなかった」
店主の男は気まずそうにそう言うと、軽く頭を下げて部屋を出て行った。
「はぁ...」
大きなため息を吐きながら、出て行く準備を始める。
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