流行りじゃない方の、ピンク髪のヒロインに転生しました。

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第一章

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「……いつか、その話が、あるだろうとは思っていたんだ。ミアさんも断らないだろうとも思っていたしね」
「そうだったんですね」
「……うん。セオドアは優しい良い子だから……ユリアも、ずっと苦しんでいたしね。……ありがとう、ミアさん」

 小説の中のヒロインは、ハーレムエンドを目指して、ルカ君がヤンデレ化してしまっていた。
 この反応だと、本当に、ただの友達で、私に執着がないんだなあ、と思う。

 私の体液を摂取する時に、ルカ君は、必ずキスをする。
 胸を触られるだけなら、必要だからと割り切れるのに、キスをされると、勘違いしてしまいそうになるから、やめて欲しい、と思ってしまう。



◇◇◇


 
 週末になり、コーンウォリスさんのお宅に向かう。

「学園から、馬車で6時間位かかるの。お休みの日に、ごめんなさいね」
「いえ、特に予定もなかったですし、大丈夫です」
「……ルカは、何か言ってたかしら?」
「セオドアさんの事は、優しくて良い子だと。ユリアさんの事は……心配されていましたよ」
「……ありがとう。私、あなたに酷いことしたのに……」
「……コーンウォリスさんの中で、積もり積もったものが、出てしまったんじゃないですか?」
「ユリアで良いわよ。……そうね、私も、セオドアも、ルカも、ザイードだって、ずっと、神力に翻弄されて生きてきてるの。神力のおかげで、女の私でも跡を継ぐ権利があるのだけれど、そんなもの、いらないわ。……弟に何かあった時の為に、保険として私がいるの。だから、婚約者もいないのよ」

 ブライさんが言っていた、不安定な立場ってこの事だったのかな。
 
「……ザイードさんも、婚約者の方はいらっしゃらないんですか?」
「ザイードは、婚約者を探そうと思えば、いくらでもいるのよ。それに、本当なら、私が、ザイードの婚約者になるはずだったの。セオドアが元気だったらって、何度も思ったわ。……ザイードはね、普段、薬は飲んでいないの。その、そういうお仕事の方、貴族の未亡人の方が、お相手をして下さってるの。それで、……成長出来てるのよ」
「そう、だったんですか」
「でも、それだって、本当なら、私が……って言ってもしょうがない事なのだけれど」

 諦めた様に、ユリアさんが呟く。

「だから、あなたが、了承して下さって、本当に感謝しているの」
「……私は、出来ることをするだけですから」

 乙女ゲームの中って、甘いことばかりじゃないんだ。現実に、何人もの人と、恋愛出来るような状況なんて、無理矢理作るしかない。そうしたら、どこかに皺寄せがくる。
 それを、ディアナさんは、周りのみんなが幸せになれる様に頑張ったんだ。

 ――私も、ヒロインらしくないけど、ヒロインなりに、無茶苦茶な状況の中でも、みんなが少しでも幸せな道を進める様に、出来る事をしたい。

 ユリアさんの話を聞いて、そう、強く思った。


 



 湖や、草原の美しい景色が続き、丘の上にお屋敷が見えて来る。

「あそこよ。もうすぐ着くわ」

 お屋敷に到着し、ユリアさんのご両親に紹介される。

「あなたが、ミアさんね。私は、当主のセリーナ・コーンウォリスよ」
「父親の、ダグラス・コーンウォリスです」

 真っ青な髪を結い上げた、物腰の柔らかい美しい女性と、少し癖のある、ダークブラウンの髪の、背の高い優しそうな男性が、仲睦まじそうに、寄り添って立っていた。

「今日は来て下さって、本当にありがとう。……ずっと、セオドアにも、ユリアにも、辛い思いをさせてしまっていたから、ミアさんには、感謝してもしきれないわ」
「いえ……、あの、セオドアさんが元気になられるまで、伺わせて頂きますね」
「ええ、お願いしますわ」

 と、白い華奢な手で、ぎゅっと手を握られた。


 セオドアさんのいる、二階の部屋へと案内される。
 昼間だけれどカーテンが引かれ、カーテン越しの光で、うっすらと明るい。
 ベッドで、水色の髪の男の子が、メイドに身体を支えてもらいながら起き上がる。

「セオドア、久しぶりね」
「……姉さん、元気そうだね」
「こちらが、ミアさんよ」
「彼女が……」
「はじめまして。ミア・カーソンといいます」

 顔にまだ幼さが残り、少し前のルカ君よりも、随分と華奢だ。

「こんな所まで来てもらって、申し訳ないね……」
「とても綺麗な所ですね。窓から景色を見ているだけでも、楽しかったです」
「領地を褒めてもらえるのは、嬉しいな」
「……私は、隣の部屋で待ってるわね。何かあれば、いつでも呼んでね」
「分かりました」

 ユリアさんが、部屋を出て行く。

「……緊張するな。母や姉以外の女性と、二人きりになった事がなくて」
「私も、緊張しています。同じですね」
「……ミアさん、だよね。こんな事お願いしてしまって、本当に申し訳ないと思ってるんだ。けれど、姉や、家族の為にも、僕は元気にならなくちゃいけないから……」
「はい、ご家族の為にも、早く元気になりましょうね」
「…………ありがとう」

 躊躇すると、余計に緊張してしまうので、すぐにブラウスのボタンを外していく。
 前をはだけて、下着の紐を下ろすと、胸が露わになった。
 セオドアさんが、目を見張り、こくりと喉を鳴らした。

「ベッドに乗っても良いですか?」
「っ、ああ、どうぞ……」

 大きなベッドなので、乗らないと、セオドアさんに届かない。靴を脱ぎ、ベッドの上に、膝を曲げてぺたんと座る。

「あの、お願い、します」
「……触っても良いの?」
「はい」

 セオドアさんが、遠慮がちにそっと胸に触れる。

「……柔らかい」

 膝を立てて、セオドアさんに近づく。
 目の前に差し出された胸の先を、口に含む。
 そっと、舌で舐められ、ちゅっと吸いつかれた。

「ん」

 胸を軽く掴んで、胸の先を口に含み直し、じゅ、と吸いつかれる。

「あ、」

 思っていたよりも強い刺激を与えられ、思わず声が出てしまう。
 舌で転がされ、何度も吸いつかれる。

「ん、ん、」

 その度に、身体が、びくんと反応してしまう。
 セオドアさんが、は、と息を吐き、胸の先から唇を離す。

「っ、ごめん、夢中で、……痛くなかったかな?」
「は、はい。大丈夫、です」

 顔が上気していて、さっきよりも、ずっと顔色が良く見える。

「……ちゃんと飲めましたか?」
「ああ、うん、甘かった……」
「……良かった」

 ちゃんと摂取出来てる。

 ブラウスのボタンを止め、顔を上げると、セオドアさんと目が合う。

「来週、また、来ますね」
「ああ、……ありがとう。待ってる」


◇◇◇

 
 サウィン祭り当日の朝、ドレスに合わせて、花冠を乗せたくて、庭師のおじさんに断って、花を摘ませてもらう。デイジーとローズマリーのシンプルな花冠を作る。
 
 髪は緩く編み込んで、ハーフアップにして、仕上げに花冠を乗せる。
 
 眼鏡をかけるか悩んでいると、エマに、

「今日くらい、眼鏡は無くても良いんじゃない? せっかく可愛くしてるんだから、眼鏡なんてかけたら、もったいないわよ!」

 と、言われ、久しぶりに、眼鏡をかけずに過ごす事にした。
 ディアナさんに借りたドレスは、背中が少し開いているデザインだったので、コルセットを久しぶりに着ける。
 前開きの自分でつけられるタイプのもので、余り胸が強調されない様に、緩めに着けてみる。
 エンパイアラインの、ギリシャ風のドレスで、コルセットをつけて着てみると、想像していたよりも、胸が強調されてしまい、太っている様に見える……?

「エマ……、これ、おかしくない?」
「おかしくなんてないわよ! とても素敵! 本当の聖女様みたいだわ」

 おかしくないなら、良かった。

「エマも、妖精みたいね。とても可愛いわ」

 と、お互いに褒め合って、盛り上がっていると、18時を知らせる鐘が鳴る。

「もう少ししたら、点火式が始まるわね。そろそろ行きましょうか」

 外に出ると、学園の中央にある丘に、向かっている人達がちらほらと見える。一緒になって歩いて行く。
 丘の周りには、もうすでに沢山の人達が集まっていた。
 
 火魔法を扱う先生が、丘の上のかがり火に火をつけ、それぞれの寮の寮長が、松明に火をつけていく。
 松明を持って下りてきた寮長に続いて行列ができる。
 
 各寮を廻って、かがり火に火をつけ、再び丘に戻ってくる。テーブルの周りの、かがり火にも火を灯したら、パーティーの始まりだ。

 丘の周りに、テーブルが並べられ、その上に沢山のご馳走が乗っている。
 エマと、ご馳走に目を奪われ、盛り上がっていると、視線を感じて顔を上げる。
 周りを見回し、こちらを見ている、呆けた顔のルカ君と、目が合う。

 ルカ君は、青色のサーコートを着て、剣を下げていた。アーサー王……じゃなくて、円卓の騎士、かな?

 ルカ君が足早に近づいてくる。
 声をかける間もなく、気がついたらルカ君の腕の中にいた。


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