うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

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※ ララは、ロップイヤー(垂れ耳)です。



 ――まずいかもしれない。

 ララは昨晩、レオンの声を思い浮かべて自分を慰めてしまい、またやってしまうのではないかと不安に駆られ、一度達しただけでいつもの行為を終わらせた。本能にまかせれば、1日に何度も発情してしまう様なこの時期に、まずかったかもしれないと、ララは心の中で焦っていた。しかも、昨日のことを思い返して、申し訳なさから、レオンの顔をまともに見れなくなっていた。

「ララさん、もしかして体調が良くないですか?」

 レオンに、心配そうな顔で覗き込まれる。

「い、いえ! 大丈夫です。元気なんです。すみません。昨日、夜遅くまで本を読んでしまって、寝不足で、なんだかぼんやりしてしまって……」
「そうですか……、今日は、もうやめておきましょうか? ゆっくりと休まれた方が良いのではないでしょうか」
「う、そ、そうですね。こんな状態では、ちゃんとお話もできませんよね……」

 レオンに心配をかけ、会話の練習もろくにできず、余計に申し訳なくなってしまう。

「申し訳ありません。今日は、おしまいにさせてもらいますね……」

 ララ自身が楽しみにしているこの時間を、自分のせいで早く終わらせることになり、がっくりしながら広げていた昼食を片付け、立ち上がろうとした瞬間、身体がびくっと震えた。力が抜け、またベンチに座り込んでしまう。

「ララさん? どうされましたか?」

 先に立ち上がっていたレオンが驚き、心配そうにララの顔を覗き込んだ。

「っ、大丈夫です。ただの立ちくらみです。先に、行って、下さいっ」
「いえ、一緒に図書館まで戻りましょう。心配です」

 ――どうしよう。うさぎ獣人だって、バレてしまう。

 耳を、隠さなければと思い、頭を抱える様に、手で耳の辺りを押さえた。

「頭が痛みますか?……ララさん、医務室に行きましょう。歩けますか?」
「だ、大丈夫、です。しばらくすれば、治ると思いますっ」

 耳がむずむずしてきて、ぎゅっと強く手を押し当てる。

「ララさん、失礼します」
「えっ」

 いつもなら、必ず適切な距離を持ってララと接しているレオンが、躊躇なくララを抱き上げる。仕事で、こういうこともあるのだろうか。レオンの動きに迷いはなかった。今にも耳が出てしまいそうな感覚があるララは、酷く焦っていた。しかも、普段よりも敏感になっている感覚のせいで、レオンに触れられ、余計に熱っぽくなってしまう。ぎゅっと耳を押さえていた手の平に、ふわふわとした感触が当たる。

「っ」

 せめて髪の毛で隠そうと、手をゴソゴソと動かしていると、

「痛みが酷いですか?」

 勘違いしたレオンに、顔を覗き込まれる。

 ――見られた!!!

 歩みは止めないまま、顔を上げ、レオンが黙ってしまう。

「………………ララさん」

 しばらく沈黙が流れた後、レオンがようやく口を開いた。
 
「は、はい……」

 どうしよう。きっと、バレてしまった。

「頭は痛くはないですか?」
「っ、はい」
「気分は悪くないですか?」
「大丈夫、です」
「……医務室には行った方がいいでしょうか?」

 発情を抑えるためには、人に見られない場所が必要だ。医務室なら、目隠しできる場所もあるだろう。

「はい、お願いします……」
「分かりました。では、このまま医務室に向かいます」

 レオンに抱えられながら、できるだけ顔を伏せていたが、近くを通りがかる人が、足を止めているのが見える。獣化した姿を色んな人に見られていると思うと、羞恥で身体が震えてくる。なるべく見られたくなくて、レオンの胸に頭をぎゅっと押しつけてしまう。レオンが察してくれたのか、頭を抱え込む様にして抱き直してくれた。

 医務室に着き、レオンが「ベッドをお借りできますか」と聞いてくれて、仕切りのカーテンがついた場所に通される。そっとベッドに下ろされ、レオンが離れようとした瞬間、心細くなり、思わずレオンの服を掴んでしまった。

「っ」
「あ、すみませんっ」

 慌ててパッと手を離す。

「……ララさん、私は行きますね」
「はい……、すみません。ありがとう、ございました……」

 レオンが、心配そうな目線をララに送りながら、そっとカーテンの隙間から出て行く。

 気持ちの整理が全然つかないまま、発情してしまったのを、何とかしなくてはいけない状況から目を背けたくて、ぎゅっと目を瞑る。眦から勝手に涙が滲んできてしまう。でも、レオンが心配し、ここまで連れて来てくれた。午後からの仕事もある。泣いている場合ではないと、気持ちを無理矢理に切り替える。

 服の上から自分の身体に触れる。摩擦で敏感な場所がヒリヒリと痛み、うんざりとしてしまう。自分のことを大切にしたいのに、嫌いになってしまうこの時間が、ララにとっては辛いものでしかなかった。好きな人に触れられたら、幸せな時間に変わるんだろうかと、ふと思う。昨晩、レオンの声を思い浮かべ、自分を慰めた事を思い返す。あとで罪悪感に苛まれてしまったけれど、あの瞬間は、この行為が嫌ではなかったことに、ララは気づく。

「ごめんなさい」

 と、小さく呟き、レオンの声を頭の中に響かせた。

 

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