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しおりを挟む昼休憩の時間になり、ララはいつもの様に中庭へと向かう。
「……レオンさん、昨日は、本当にありがとうございました。すみません、重かったですよね?」
「いえ、全く重くなかったです。軽過ぎて、私がララさんの昼食を、いつも頂いてしまっているからかと、申し訳なくなりました」
「っ、そんな、あれは、レオンさんの分ですから!」
「そうですか。いつも、ありがとうございます」
レオンが微笑みながら言う。
ララがうさぎ獣人だということを知ったのに、何も変わらない。いつもと同じ距離感で、いつもと同じ声のトーンで、いつもと同じ様に優しく笑ってくれている。ララは、うさぎ獣人のイメージを持たせたくなくて、普段からなるべく女っぽさを出さない様に気をつけて、男性と接する様にしていた。意識し過ぎだと自分でも分かっているけれど、男性を前にすると、自分は求めていないのに、無理に触れられた感覚を思い出してしまう。女を出して、やっぱりうさぎ獣人は、と思われてしまうのも嫌だった。
レオンは元恋人とは違う。きっとララがうさぎ獣人だと分かっても、変わらず接してくれる。そう思っていたけれど、知られるのが怖かった。人の中に植え付けられた価値観は、その人自身の性質よりも、周りの環境が大きく影響する。いくらレオン自身が優しい人だったとしても、自分の意識していない所で、そういった価値観は露見してしまう。でも、レオンは変わらなかった。
「ララ、中庭で騎士様と抱き合っていて、そのまま二人でどこかに消えていったって、噂になってるわよ」
「えっ」
パウラがララの耳元に近づく。
「うさぎ獣人の姿になってたっていうのも、噂になってる」
と、周りに聞こえない様に、心配そうに、小さな声で話してくれる。パウラは、学生時代からの友人で、猫獣人だ。ララが、元恋人のことが原因で、うさぎ獣人であることを隠しているのを知っている。突然獣化してしまい、レオンに医務室まで運んでもらったこともパウラには話していた。
「……ねえ、パウラ、もし、レオンさんのお見合い相手の貴族のお嬢様が、その噂を聞いたらどう思うかな?」
「そうねえ……、なんだ恋人がいるのかよ。それで、お見合いするんじゃねーよ。恋人じゃないんだったら、遊び? えっ、さいてー、気持ち悪ーい、無理」
「ちょ、パウラ言い過ぎ。それに、多分、貴族のお嬢様そんな言い方しない」
「まあ、でも、そんな様なことを、思われるんじゃないの?」
「だよね。どうしよ……あの、真面目なレオンさんが、私のせいで、そんなこと思われるとか……」
「……でも、それは、ララのせいじゃないでしょ?」
「ううん。私が、発情しちゃったから……」
昼休憩の時間になり、ララは中庭へと向かった。今日は、レオンが先に来てベンチに座っている。ララは、いつもの様に隣には座らず、レオンの前に立った。
「ララさん」
レオンがララに気がつき、見上げる。いつもとは違う目線の高さに、少し緊張し、口を開いた。
「レオンさん……あの、お見合いの練習なんですけど……、実は、休憩の時間が変わってしまって、だから、もうこの時間に来る事ができなくなってしまったんです。交代で昼休憩を取っているのですが、私の休憩時間と代わって欲しいという方がいらっしゃって」
「そうなんですね」
レオンが、驚いた顔をする。
「はい……、すみません。こちらから、練習相手になりますと言っておきながら……」
「いえっ、そうですか。それは、どうしようもないことですし、謝らないで下さい」
「あの、今日から交代する事になって、無理を言って出てきてしまったので、もう、行きますね。突然で、ごめんなさい……これ、良かったら食べて下さいね」
いつもの様に作ってきた、紙袋に入ったレオンの分のサンドイッチを、ぎゅっとレオンの手に押しつける。
「ありがとう、ございます」
「……それと、あの、レオンさんは、優しくて、真面目で、とても素敵な方なので、きっと、お見合い大丈夫だと思います。そのままのレオンさんでお話して下さいね」
始めの頃は、こちらが教えなければと、色々と考えながら話していたけれど、だんだんと緊張もほぐれ、自然ととりとめのない話をするようになっていった。レオンも相手の女性も、お互いのことを異性として強く意識するから、まともに会話ができなくなっていたのだろう。私と話しても緊張しないという事は、女として意識していないからだろうとララは思っていた。それでもレオンは、ララと話すことで、少しは女性と会話することに慣れたはずだ。女性に対する硬さはきっとマシにはなっているだろう。レオンが緊張せずに、相手に寄り添う事ができれば、きっとお見合いはうまくいくはずだ。こんなに素敵な人なんだから。
「ララさん」
レオンの声を聞いたら、離れがたくなってしまう。
「では、失礼します!」
「っ、はい……ララさん、ありがとうございました!」
ララは振り返らず、走って図書館へと戻って行った。
◇◇◇
「……生声が聞きたい……」
「あれ、もうレオン様不足? まだ会わなくなって1週間しか経ってないじゃない」
「1週間もだよ……毎日聞いてたから、なくては無理な身体になってしまった……」
今考えると、憧れの声を、毎日間近に聞いていたなんて贅沢過ぎる。鼓膜に響く生声は、やっぱり特別素敵だったと改めて思う。
「噂なんて、どうせそのうち収まるんだし、別に、そのまま会ってても良かったんじゃない?」
「……私が、うさぎ獣人だってバレちゃったから。一緒にいてたら、そういう相手だって思われちゃうでしょう? だから、駄目だよ」
ララが、レオンに抱き上げられていたことを、ララが獣化していた事で、噂に尾鰭がついてしまっているのだと感じていた。ララの発情を発散させる相手だと、レオンが思われてしまったら、お見合いだってうまくいくものも、うまくいかなくなる。ララは、自分との噂のせいで、ずっと真面目に騎士の仕事をしてきたレオンが、悪く言われるのだけは避けたかった。そんなことになれば、自分を許せなくなる。うさぎ獣人である自分を、もっと嫌いになってしまう。
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