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しおりを挟むララは、自分を慰める時に、レオンの声が思い浮かんでしまうことに悩んでいた。自己嫌悪に陥るのが嫌で、必死に思い浮かべない様にしていたが、それはとても難しかった。うまく自分を慰められずに時間が過ぎ、寝不足になってしまう日も多かった。昨晩も、うまく達することができず、仕事中も身体が疼く様な感覚があり、仕事を終え急いで自宅へ帰ろうとしていた。
「ララ」
図書館を出たところで、身なりの良い若い男に呼び止められる。名前を呼ばれたけれど、顔を見ても誰か思い出せず、ララは焦ってしまう。
「ララ、久しぶり」
男が近づいてきて、ようやく思い出す。
「アンソニー?!」
ララが学生時代に一瞬つきあった、元恋人のアンソニーだ。卒業以来一度も会っていないので、3年ぶりになる。学生の頃と、髪型も服装も違うため、全然分からなかった。
「ああ、ララは変わらないな」
と言いながら、チラッと胸元を見られ、詰められた距離を、無意識に自分から離した。
「なんでここにいるの?!」
「うちの店から王宮に卸してるものがあって、御用伺いに時々来てるんだよ」
「……そうなんだ」
アンソニーは、毛織物を取り扱う貿易商の跡継ぎだ。羽振りが良いおうちらしく、つきあったばかりの時に高価なプレゼントをもらい、本当にもらって良いのか分からず困ったことがあった。もちろん、別れる時に返している。
「ララは、図書館で司書をしてるんだよな?」
「うん、そうだけど……」
なんで知ってるの? 誰に聞いたの? と、疑問ばかり浮かんでくる。
「……ララが、男と抱き合ってたって、噂で聞いて」
「へっ」
「本当なのか気になって、確かめにきた」
「えぇっ」
なんで? ちょっと、いや、全然意味が分からない。アンソニーとは、友達としていた話を聞いてから、すぐに、勉強に専念したいからと自分から別れを告げた。その時は、「ああ、分かった」とすぐに返事があり、やっぱり私のことなんて好きじゃなかったんだな。うさぎ獣人だったら、思春期男子の欲望に応えてくれると思って声をかけたんだ……と思っていた。
「あの噂は、本当なのか?」
「えっ、違うけど……違います。嘘です」
――ちゃんと否定して、これ以上噂が広まらない様にしなきゃ……
「違うのか、やっぱり、そうだよな。ララは、だって男嫌いだろ? だから、男と抱き合ってたって聞いたけど、信じられなかったんだよ」
「私が体調を崩して、医務室に運んでもらったの。もし誰かに聞かれたら、そう説明しておいてくれる? そして、ちょっと、ごめん、私、今日も体調があんまり良くなくて、もう帰って良いかな……」
「そうなのか? なら、送ってくよ」
「いや、いい、いいよ」
アンソニーがなんで来たのか謎過ぎるので、とりあえず帰る方向へと歩き出す。
「ララ? 家はどこだ? うちの馬車で送ってくよ」
「ううん。大丈夫」
家の場所を知られるのは、なんかまずい気がする。でも、このまま着いて来られたらどうしよう。歩きながら身体が疼く感覚が強くなってくる。どうやって振り切ろうと、回らない頭で必死に考える。このままだと、アンソニーの目の前で発情してしまう。それだけは避けたかった。帰り道にある、騎士団の宿舎の建物が見えてくる。宿舎の玄関をちらりと見ると、管理人らしき年嵩の女性の姿が見えた。ララは、すがる様な思いで宿舎の玄関へと向かった。
「ララ? どうした?」
「ごめん、ここに用事があって、じゃあ!」
「え? 騎士団の宿舎に? なんでだ?」
歩いている速度を早め、小走りになる。並んでいたアンソニーを引き離し、後ろで何か言っている声が聞こえたけれど、無視をして必死に門の中へと駆け込んだ。
宿舎の玄関の、扉の横に窓があり、そこから声をかける。
「す、すみません!」
「はーい、なんの御用かしら?」
「あ、あの、実は、男の人に追いかけられてて……少しだけ、中にいさせてもらっても良いでしょうか?」
「あら、それは大変ね! あっちから中に入ってちょうだい」
優しそうなおばさんが、ララの後ろに目をやり、扉の方を指してくれる。扉を開け中に入る瞬間、門の方をチラッと見ると、柵の隙間からこちらを覗いている、アンソニーの姿が見えた。
「大丈夫かしら? 何もされていない? 警邏の人を呼びましょうか?」
「突然、すみません……図書館で司書をしている、ララ・ミラーといいます」
「全然! 私はここの管理人のハンナよ。大変だったわね。何? 変質者? 恋人? それとも元恋人?」
「……最後の、です」
「あら、未練たらたらなのね。向こうが」
「そ、そうなんでしょうか……?」
「だって、まだ見てるわよ」
「えっ」
身体がびくっと震えてしまう。
「大丈夫。ここは騎士団の宿舎でしょう。そう簡単に入ってはこれないわ」
扉が開き、カランと音がする。
「ただいまー、あれ、ハンナさん、お客さん?」
「ええ、ちょっとね。ねえマイクさん、門の前にいた男、どんな様子だったかしら?」
「男? ああ、門の前でうろうろしてた奴? 何の用か聞いたら、びくっとしてどっかに行ったけど。あいつも誰かのお客さん?」
「ううん、違うわ。どこかに行ったなら、それでいいの」
「ん? 危ない奴? もし、そいつ戻ってきたら呼んでね。追い返すから」
「ええ、もしそうなったらお願いするわ。ありがとう」
ひらひらと手を振って、体格の良い男の人が、階段を上がっていく。
「ね、ここなら安全でしょう?」
「はい……、ありがとうございます」
少しホッとして、勧められた椅子に座らせてもらう。カランと音がして、また別の男の人が入ってくる。
「ただいまー。わ、珍しい、女の子がいる。ん? あれ、君、もしかして、レオンの彼女じゃない?」
「ひぇっ、ち、違います!!!」
「ん? レオンのことは知ってる?」
「し、知ってます……」
「だよね! レオン、呼んでくるわ!! ちょっと待ってて!」
「あ、いえ、ちが……」
説明する間も無く、男の人が、入ってきた扉からまた出て行ってしまう。
「あら、あなたレオンさんの、お知り合いだったの?」
「あ……はい」
「そう、なら良かったわ。ちょうど帰ってくる時間だったから」
ど、どうしよう……レオンさんに会うつもりは無いんだけど……それに、さっきの彼女ってどゆこと……ちゃんと、あの人に説明しなきゃ。
――あ、やばい。
耳がむず痒くなり、思わず手で押さえる。
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