うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

文字の大きさ
10 / 35

10

しおりを挟む


「ララさん? 大丈夫?」

 ハンナが、心配そうに顔を覗き込む。

「あ、だ、大丈夫なんです。ちょっと……」

 耳を押さえたのも虚しく、ふわふわの感触が手に当たってしまう。

「あら……ララさん、来客用のお部屋があるのだけど、そちらに行きましょうか」

 ハンナが、ララの耳を見て、すぐに察してくれたのかそんな風に言ってくれる。ララは、ハンナの気遣いがありがたくて涙が出そうになる。
 
「は、はい。ありがとうございます」

 扉がまた開き、カランカランと大きな音がする。複数の騎士が帰ってきたようだ。

「ただいまー。あれっ、ハンナさん、その子どうしたの?」
「女の子だ」
「えっ、しかも獣人の子だ」
「まじで? 俺、獣化してるの初めて見た!」
「おい、あんま、ジロジロ見んなよ」
「えっ、なんで? 耳、ふわふわでめっちゃ可愛い」

 止めてくれている人もいるけれど、物珍しいからか、ララを見て、若そうな騎士達が騒いでいる。獣化した姿で注目を浴びてしまい、顔が燃える様に熱くなり、変な汗が出てきてしまう。

「ちょっと!! あなた達、ジロジロ見ないの!!!」

 ハンナが若い騎士達を一喝した瞬間、扉がまた、カランッと音を立てた。
「ララさんっ」

 珍しく焦った様な、ララの大好きな、あの声が聞こえた。

「あっ、レオンさん! 良かった。ララさん、レオンさんが来られたわ」
「ララさん」

 獣化したララを見て、レオンは驚いた顔をする。レオンがララのそばに寄り、自分が着ていた上着を脱いで、頭から耳が隠れる様にかけてくれる。ララを囲んでいた若い騎士達を一瞥し、

「何を見ているんだ。失礼なのが分からないのか」

 と、静かだけれど、怒りの含んだ声で言い、若い騎士達の動きが止まった。

「す、すみません、こんな所で獣化してしまって……」
「どうしましょうか。ララさん、レオンさんに来客用の部屋に連れて行ってもらう? 私が一緒に行った方が良いかしら?」
「私が連れて行きます。ララさん、良いでしょうか?」

 レオンが、しゃがんで抱き上げようとしたので、

「あ、大丈夫です。歩けますっ」

 慌てて立ち上がろうとして、ふらついたララを、レオンが支えた。

「失礼します」
 
 レオンにもたれかかったララを、軽々と抱き上げる。

「ララさん大丈夫?」

 と、ハンナに聞かれ、真っ赤な顔でこくりと頷くララを見て、

「じゃあ、レオンさん、お願いしますね」

 ハンナが納得した様に頷いた。レオンが、若い騎士達からララを隠す様に、さっと向きを変え足早に歩いて行く。後ろの方で、

「レオンさん、かっけー」
「ひゅー!」

 と、騒いでいる声が聞こえた。

 廊下を少し歩いた所にあった扉を、ララを抱きかかえながら器用にレオンが開け、中へと入る。一人掛けの椅子と、二人掛けの椅子が、丸机を挟んで置いてあるだけの、落ち着いたしつらえの部屋だ。二人掛けの椅子に、レオンがララをそっと下ろした。

「ララさん、扉の外で、誰も近づかない様に見ていますので、落ち着くまでこの部屋で過ごして下さい」
 
 レオンが落ち着いた声でそう言い、ララから離れようとした瞬間、レオンの服を掴んでしまった。

 獣化した上に注目を浴びてしまい、パニックになりかけていたララは、レオンの声が聞こえた瞬間、心の底から安心し、もう大丈夫だと思えた。久しぶりに聞くレオンの声は、ララの心を温かく満たしてくれる。

「……私がここにいて、できることはありますか?」

 少し困惑したレオンの声が聞こえる。

「すみません……あの……」

 ララが言葉に詰まり、服を掴んでいた手を離すと、レオンが隣に座った。レオンは何も言わずに、俯いているララの顔を、心配そうに見つめる。

「……レオンさんの声、落ち着くんです。お話、してくれませんか?」
「そんなことでしたら……うまく、話せるか分かりませんが」

 レオンが、真剣な顔で黙った。何を喋ろうか、考えてくれているのだろう。

「……ララさん、お元気でしたか? 私は、ララさんと昼食の時間を過ごさなくなってから、また硬いパンやチーズを齧ったり、時々食堂で食べたりしています。……ララさんと話しながら、ララさんの作ってくれたサンドイッチを頂いていたことが、贅沢な時間だったのだと改めて感じていました」
「……レオンさん」
「はい」
「……私も、自分が作ったものを、美味しいと食べてくれる人がいて、とりとめもない話ができる相手がいることが、とても贅沢なことだったんだなと、思っていました……」
「同じ様なことを、思っていたんですね」

 レオンが、目を細めて優しく笑う。
 それだけで、ララは嬉しくて、幸せな気持ちになる。

「……ララさん、身体はつらくありませんか?」

 まだ、獣化しているララの状態を気遣ってくれている。

「やはり、私は出て行った方がいいのではないでしょうか?」
 
 心配そうなレオンの声に、早くなんとかしなければと思うけれど、ララは、自分でいじり過ぎて痛みしか感じなくなったこの身体を、一人でうまく慰められる気がしなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね

迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。 愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。 「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」 兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

乙女ゲームの世界に転移したら、推しではない王子に溺愛されています

砂月美乃
恋愛
繭(まゆ)、26歳。気がついたら、乙女ゲームのヒロイン、フェリシア(17歳)になっていた。そして横には、超絶イケメン王子のリュシアンが……。推しでもないリュシアンに、ひょんなことからベタベタにに溺愛されまくることになるお話です。 「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその①、リュシアン編です。 ムーンライトノベルズさんにも投稿しています。

私に番なんて必要ありません!~番嫌いと番命の長い夜

豆丸
恋愛
 番嫌いの竜人アザレナと番命の狼獣人のルーク。二人のある夏の長い一夜のお話。設定はゆるふわです。他サイト夏の夜2022参加作品。

逆転の花嫁はヤンデレ王子に愛されすぎて困っています

蜂蜜あやね
恋愛
女神の気まぐれで落ちた花嫁を、王子は決して手放さない――。 かつて“完璧少女リリアンヌ様”と称えられたリリーは、 ある日突然、神のいたずらによって何もできない“できない子”に逆転してしまった。 剣も、誇りも、すべてを失った彼女のそばに現れたのは、 幼馴染であり、かつて彼女の背を追い続けていた王子アシュレイ。 誰よりも優しく、そして誰よりも歪んだ愛を持つ男。 かつて手が届かなかった光を、二度と失いたくないと願った王子は、 弱ったリリーを抱きしめ、囁く。 「君を守る? 違うよ。君はもう、僕のものだ。」 元完璧少女リリアンヌと幼馴染のちょっと歪んだ王子アシュレイの逆転恋愛ストーリーです

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

処理中です...