うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

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 4才まで家にいた父親の事で覚えているのは、怒鳴り声だ。まだ小さかったララは、父が怒っていなくても、大きな声を出すと反射的にびくりと身体が震えた。怯えるララをみて、父はますますイライラし、声を荒げた。父が声を荒げていた理由は、きっと色々とあったのだろう。けれど、幼いララはそんなことは分からず、ただ、大きな声で怒鳴る父が怖かった。

 父が出て行ってから、9才の時、母に恋人ができて、度々家に来るようになった。父の様に怒鳴ることはなく、穏やかな人で、ララのことも可愛がってくれていた。父親のいなかったララは、男が頭を撫でてくれるのが嬉しく、自分から撫でて欲しいと強請ることもあった。
 ある日、男が珍しく、母が帰って来る前に、家に来たことがあった。ララは母がいない分、自分がおもてなしをせねばと、お茶を出したり、学校であったことを一生懸命話したりした。母がいれば、母のそばにいる男が、ララしかいないからか、いつもより距離が近い。いつも撫でてくれる頭ではなく、手を握られ、足を触られた。その触り方が、いつもとは違う。気持ち悪い。そう思ってしまう。母の大事な人だと分かっていたから、拒絶することもできず、身体を硬くして、黙って触られるしかなかった。



◇◇◇



 ララは、ずっと恋人もおらず、一人で生きていこうと思ってはいたけれど、時折、人肌が恋しくなる時もあった。性的な繋がりではなく、頭を撫でてもらったり、手を繋いだり、ただ触れ合うだけで良い。そんな存在が欲しかった。
 レオンが出て行って、一人でこの部屋で自分を慰めることを考えると、どうしようもなくさみしくなってしまう。レオンに出て行って欲しくなくて、何か言わなきゃと焦って口を開いた。

「っ、み、耳を、撫でてくれませんか……?」

 発情した状態でレオンの声を聞き、余計に離れがたくなっていた。頭も身体もふわふわとして、なぜか、そんなことを言ってしまう。

「耳、ですか?……私が触れても、良いんでしょうか?」

 うさぎ獣人にとって、獣化した耳はとても敏感な場所で、よほど親しい人でない限り、触れることのない場所だった。うさぎを飼っていたことのあるレオンも、耳が敏感な所だというのは知っているのだろう。レオンの戸惑った声がする。

「っ、駄目ですよね、すみません、馬鹿なことを言って」

 獣化している自分に触れさせようするなんて、おかしくなっている。こんな風に、誰かに触れて欲しいと思うなんて初めてで、ララは自分で口にしながら動揺してしまう。レオンが、戸惑いながらも口を開いた。

「そうすれば、ララさんは楽になりますか? うさぎを、撫でる様に、撫でて良いんでしょうか?……それでは、失礼でしょうか?」
「っ、は、はいっ。それで、お願いします!」
「……分かりました。もし、少しでも不快だと感じたら言って下さいね」
 
 掛けてくれていた、上着をそっと外す。レオンが、手を伸ばしたのが見えて、ぎゅっと目を瞑った。遠慮がちに指先で触れられる。ララがぴくっと反応し、レオンの手が止まった。レオンの手の平に耳を軽く押しつけると、レオンの手もぴくりと反応し、毛並みに沿ってゆっくりと撫で始める。レオンの温かく大きな手で、優しく撫でられ、全身がぞわぞわと粟立ってしまう。

「これで、楽に、なりますか?」

 レオンが、撫でながら心配そうな声を出す。

「ん」

 こくんと頷きながら、思わず、声が漏れてしまう。レオンはいつもの様に、ララと節度を持った距離で座っていた。ララは、耳に触れられながら、レオンとの間にある空間をすうすうと寒く感じて、身体がぷるりと震えた。レオンにくっついたら温かいのにと思ってしまう。ふと、レオンの耳を撫でている手が止まり、離れた。頭を引き寄せられ、ぽすっとそのままレオンの胸に沈み込む。レオンの動きが一瞬止まり、再び、ぎこちない動きで耳を撫で始めた。

「……いつも、抱っこをして撫でていたのを、思い出しました。この方が、ララさんも楽でしょうか?」
「っ」
 
 ララは、頭がかーっと熱くなり、言葉が出てこなくて、こくこくと必死に頷く。ララの心臓は痛いくらいどきどきしていたけれど、レオンの胸からも、早打つ心臓の音が聞こえてくる。レオンの体温で温められ、身体が緩む。力が抜け、ララは、撫でられている感覚に集中した。

「…………んっ……ん、ん」

 声が漏れないようにと必死に我慢していたけれど、ぴくぴくと身体は震え、かすかに息も漏れてしまっている。ララは、レオンに引かれていないかと心配になったけれど、レオンは撫でる手を止めず、ひたすらに優しく触れ続けてくれている。

「……ララさん?」
  
 息がかかるほどの近さで名前を呼ばれ、ララの身体が今までよりも、大きくびくんと震えた。身体の力が抜け、いつもの脱力感に襲われる。レオンの胸に、より深く身を預けた。レオンの声で達してしまった。耳元で聞く生声の威力はすごい。

「ララさん、大丈夫でしょうか?」

 レオンに心配そうな声で聞かれる。
 
「は、い……、大丈夫、です」

 達した余韻でぼんやりとし、ずっとレオンの胸にもたれたままでいたいと思ってしまう。発情の熱が静まり、だんだんと冷静になっていく頭でふと我に返る。ばっと起き上がり、レオンの顔を見る。固まったレオンの表情を見て、思わず、

「ごめんなさいっ」 

 と、ララは深く頭を下げた。顔が上げられない。発情の熱を静めるのに、レオンの手を煩わせてしまうなんて。しかも達した瞬間を見せてしまうなんて。ドン引きされてもおかしくない。

「いえ、平常ではない状態のララさんに触れてしまい、こちらこそ申し訳ありませんでした」 

 レオンに申し訳なさそうな声で謝られてしまう。レオンには、一切非が無いこと伝えたくて、必死に首を振る。

「ご、……ごめんなさい。変なことばかりお願いしてしまって」
「……ララさんは、不快ではなかったですか?」
「は、はい、き、気持ち、良かった、です……」

 あ、今の感想は、多分いらなかった。 
 ますます、顔が上げられない。


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