うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

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「レオンさんに、セクハラしてしまった……」
「……何をしたの?」
「獣化した耳を撫でろと強要しました」
「……それは、紛れもないセクハラね」
「だ、だよね……ただでさえ、私との噂のせいで、お見合いに悪い影響があったら申し訳なさすぎるのに、さらにセクハラとか、最悪過ぎる……」

 しかも、目の前でララが達するところを見せてしまった。セクハラ以外の何ものでもない。レオンに合わせる顔がない。

「よし、あと1冊……」
「もう終業時間だし、これでおしまいにしよう」

 本の修繕をしながら、パウラと話していたら、あっという間に仕事終わりの時間になっていた。

「ララさん、オニールさんという方が来られてますけど……」

 カウンターに立っていた同僚に声をかけられる。

「誰?」
「……レ、レオンさんだよ。どうしたんだろう…?」

 昨日の今日で、どんな顔をして会えばいいのか分からなかったけれど、こんな事は初めてで、急いで帰る支度をして、図書館の玄関へと向かった。

「レオンさん! どうしたんですか?」
「ララさん、突然すみません。ハンナさんから、昨日ララさんが、変な男につけられていたとお聞きして、心配で来てしまいました」
「変な男……」

 ――あ、アンソニーのことだ。

 昨日は色々ありすぎて、すっかりアンソニーのことを忘れていた。レオンには、獣化してしまいそうになり、目の前に騎士団の宿舎があったから、中に入らせてもらったと説明していた。アンソニーのことは、なんとなくレオンにはあまり話したく無かった。

「す、すみません。昔の知り合いが、突然来てついてこられてしまって。その時に獣化しそうになって、騎士団の宿舎に入れてもらったんです……」
「そうだったんですね……今日は、ララさんを、送らせてもらっても良いでしょうか?」
「っ、いえ、大丈夫……」
「昨日来た奴が、今日来ないとも限りませんし、私が心配なので送らせて欲しいです」
「で、でも、申し訳ないです」
「ララさんには、お世話になりましたし、これくらいはさせて下さい」

 それは、自分はレオンの声が聞きたいという下心もあったからで、これは純粋な善意からくるものだから、申し訳なくていたたまれなくなってしまう。

「このまま帰れば、ハンナさんに怒られてしまいます」

 と、レオンが困り顔で言うので、思わず笑ってしまう。これ以上断るのも悪いと感じ、

「……分かりました。ありがとうございます。では、よろしくお願いします!」

 ララはぴょこんと、頭を下げた。




 レオンと一緒に図書館の玄関を出ると、階段を降りた所にアンソニーが立っていた。

「ララ!!」

 アンソニーがこちらに気づき、心なしか嬉しそうに名前を呼ばれ、隣のレオンを見て眉を顰めた。

「ア、アンソニー、なんで今日もいるの?」
「だって昨日は話の途中だったのに、ララが突然いなくなったから」

 階段を登ってきて、昨日と同じ様に距離を詰められてしまう。

「この男は? あの噂になってた男か? つき合ってないんだろう? なんでいるんだ?」
「へ、え、えっと」

 矢継ぎ早に質問され、言葉が出なくなってしまう。
 レオンが、さっとアンソニーとの間に立ってくれる。

「……ララさんが、昨日、男について来られて困っていたというので、心配でご自宅まで送って行こうとしていただけです」
「ついて来られた? 困ってた? それって、俺のことか?!」

 アンソニーが大きな声を出す。声に怒気が含まれていて、身体が勝手にびくりと震えてしまう。

「大きな声を出さないで下さい」
「はあ? あんた、ララの何なんだよ?」
「ちょっと、アンソニーやめて」
「ララもララだよ。男がいるなら、さっさとそう言えよ!! 思わせぶりな態度をして、さすがうさぎ獣人だよな!!!」

 アンソニーの言葉に、身体が固まる。前にいたレオンが身体を震わせ、拳を握り締めた。あ、だめだ。と思い、レオンの手を握って、止めた。レオンの手がおそらく怒りで震えている。ララのために怒ってくれている。

「……レオンさんは、恋人じゃありません。善意で来て下さっただけです」
「そんなわけあるかよ!! 下心がないわけないだろ!!」
「あなたとは、違います!!!」
「はあ?」
「だ、だって、アンソニーみたいに、すぐに二人きりになろうとしたり、勝手に腰や足を触ってきたり、無理矢理キ、キスしてきたりしないもの」

 少し緩んだレオンの手に、また力が篭る。
 
「それはっ、だって、つき合ってただろう? ララだって、そのつもりじゃなかったのか?」
「それは」
「俺は、ララに拒絶されてショックだったよ!!」
「だ、だって」

 怖かった。急に距離を詰められ、何も言わずに触れられるのが怖かった。そういったことに興味がなかったわけではないし、知識としては知っていたけど、怖かったのだ。

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