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しおりを挟む「……女性は、あなたもご存知でしょうが、男よりも力が弱い場合がほとんどだ。それに、性行為をした場合のリスクが女性にとっては大き過ぎる。それなのに、男に力ずくでこられてしまえば、それを拒む事はとても難しい。自分の身を守るために、女性が用心深くなるのは当然のことです」
「……レオン、さん」
「あなたが、うさぎ獣人の女性に、どの様なイメージを抱いているのかは知りませんが、勝手な思い込みで、彼女を侮辱するのは許せない」
ララはあの時、自分のことで精一杯で、アンソニーに自分のことを知ってもらう為の話もできず、自身もアンソニーのことを何も知らなかったことに気づく。
「わ、私は、アンソニーのこと、全然知らない。本当は話がしたかった。どんな人か知りたかった。自分のことも知って欲しかった……。もし触れ合うなら、それからが良かったの」
「ララ……じゃあ、始めからやりなおせないか? 俺は、ララが嫌いで別れたんじゃない。初めて好きになったんだ。忘れられないんだよ」
「だ、だって、別れようって言ったら、あっさり分かったって言ってたじゃない?」
「それは、ララが触らしてくれなくて、男自体が無理なんだろうと思ったんだよ。そんなんで、つき合えないだろう? ……今だったら、大丈夫なんじゃないのか? もう一度つき合ってくれ」
「む、無理!」
「え」
「ごめんなさい!! それは絶対に無理です!!!」
アンソニーがポカンとした顔をする。
「アンソニーが、友達と私のことを話してるのを聞いたの。私はそれを聞いて、もう恋愛はしないと思ったの」
「俺が? 友達と? どんなことを話していたんだ?」
「アンソニーはもう覚えていだろうし、私も口にはしたくない……でも、そのことがあってから、私はうさぎ獣人であることを隠す様になったの。だから、あなたとは、というか、恋愛すること自体が、今の私には難しい、です」
「…………もしかして、あの時のことか? ララが、触らしてくれなくて、それを友達に言うのが恥ずかしくて、ララのことを……酷く言ったかもしれない。だからって、ララのことを嫌いで言ったわけじゃないんだよ。分かるだろ?」
「……私もアンソニーも、まだ幼かったから、お互い自分のことで精一杯だったんだと思う。けど、あの時に感じた、自分のことを嫌だと思う気持ちが、……今も、ずっと残ってるの」
自分のことを好きになれないのに、人のことを好きになれる気がしなかった。
「……アンソニーの声を聞いたら、その時の気持ちを思い出してしまうから。アンソニーとつき合うのは、無理です。…………だから、もう、来ないで欲しい」
アンソニーが口を開こうとしたけれど、ララの目を見て、ぐっと押し黙った。
「……………………分かっ、たよ」
掠れた声でアンソニーが答え、力無く階段を降りていった。
まだ、心臓がばくばく言っている。
レオンの手を、ずっと握りしめていことに気づいて、慌ててパッと離す。
「す、すみません!」
「……私が、あの男に手を上げそうになったのを、止めて下さいましたよね。感情的になってしまい、申し訳なかったです。余計にララさんを、怖がらせるところでした」
「いえ! レオンさんが落ち着いて、ちゃんと話をして下さったから、私も勇気が出たんです。きっと、一人だと何も言えなかったと思うから」
一人だったら大きな声を出されただけで、身体がすくんでしまい、何も言えなかっただろう。レオンの落ち着いて話す声を聞いていたら、ララも自然と気持ちが落ち着き、ずっと思っていたことを、アンソニーに伝えることができた。
「……レオンさん、ありがとうございました。……アンソニーに好きだって言われて、嬉しかったんです。だから、その好意を受け入れられなかったのは、自分のせいだったのかもしれないと、思っていました」
「絶対にそんなことはない。お互いの思いがあっての行為です。一方的にして良いことでは決してありません。ララさんは、悪くない」
「……ありがとうございます。そう言って下さると、救われます」
レオンが、許せないと怒ってくれた。貶められ、笑われても、何も言えず一人で深く傷ついた、あの時の自分も救われた気がした。
レオンが、アパートの玄関まで送ってくれる。
「……あの男、ララさんに、まだ気があるようでした。もしかしたら、また来るかもしれません。ララさんさえ良ければ、明日も送らせてもらえないでしょうか?」
「い、いえ! アンソニーには、もう来ないでと伝えましたし、一応了承していたので、もう大丈夫だと思います」
「……私が、したいんです。ララさんが迷惑でなければですが……」
恋人でもなんでもない自分に、そこまでしてもらう理由がない。早めの「お礼」ということだろうか。レオンは義理堅そうだから、そういうことなのかもしれない。
「……や、やっぱり駄目です!」
そうだ、また変な噂が流れて、レオンの上司やお見合い相手の耳に入ってしまったら……と思うと、とてもお願いなんてできない。
「レオンさん、本当に大丈夫です。この時間だったら、仕事帰りの人が周りにもいてますし、今日のアンソニーの様子だと、きっともう来ないと思います」
レオンが、は、と息を吐いて顔を上げた。
「分かりました。では、失礼します」
「あ、はい。今日は、本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。レオンも会釈し、階段を降りていく。
――少し強情だっただろうか。怒らせた?
珍しく真顔だった。でも、私が甘えて良い相手じゃない。自分に言い聞かせながら、ララは、レオンの姿が見えなくなった階段の踊り場を見ながら、そっと扉を閉めた。
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