うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

文字の大きさ
14 / 35

14

しおりを挟む


「……女性は、あなたもご存知でしょうが、男よりも力が弱い場合がほとんどだ。それに、性行為をした場合のリスクが女性にとっては大き過ぎる。それなのに、男に力ずくでこられてしまえば、それを拒む事はとても難しい。自分の身を守るために、女性が用心深くなるのは当然のことです」
「……レオン、さん」
「あなたが、うさぎ獣人の女性に、どの様なイメージを抱いているのかは知りませんが、勝手な思い込みで、彼女を侮辱するのは許せない」

 ララはあの時、自分のことで精一杯で、アンソニーに自分のことを知ってもらう為の話もできず、自身もアンソニーのことを何も知らなかったことに気づく。

「わ、私は、アンソニーのこと、全然知らない。本当は話がしたかった。どんな人か知りたかった。自分のことも知って欲しかった……。もし触れ合うなら、それからが良かったの」
「ララ……じゃあ、始めからやりなおせないか? 俺は、ララが嫌いで別れたんじゃない。初めて好きになったんだ。忘れられないんだよ」
「だ、だって、別れようって言ったら、あっさり分かったって言ってたじゃない?」
「それは、ララが触らしてくれなくて、男自体が無理なんだろうと思ったんだよ。そんなんで、つき合えないだろう? ……今だったら、大丈夫なんじゃないのか? もう一度つき合ってくれ」
「む、無理!」
「え」
「ごめんなさい!! それは絶対に無理です!!!」

 アンソニーがポカンとした顔をする。

「アンソニーが、友達と私のことを話してるのを聞いたの。私はそれを聞いて、もう恋愛はしないと思ったの」
「俺が? 友達と? どんなことを話していたんだ?」
「アンソニーはもう覚えていだろうし、私も口にはしたくない……でも、そのことがあってから、私はうさぎ獣人であることを隠す様になったの。だから、あなたとは、というか、恋愛すること自体が、今の私には難しい、です」
「…………もしかして、あの時のことか? ララが、触らしてくれなくて、それを友達に言うのが恥ずかしくて、ララのことを……酷く言ったかもしれない。だからって、ララのことを嫌いで言ったわけじゃないんだよ。分かるだろ?」
「……私もアンソニーも、まだ幼かったから、お互い自分のことで精一杯だったんだと思う。けど、あの時に感じた、自分のことを嫌だと思う気持ちが、……今も、ずっと残ってるの」

 自分のことを好きになれないのに、人のことを好きになれる気がしなかった。

「……アンソニーの声を聞いたら、その時の気持ちを思い出してしまうから。アンソニーとつき合うのは、無理です。…………だから、もう、来ないで欲しい」

 アンソニーが口を開こうとしたけれど、ララの目を見て、ぐっと押し黙った。

「……………………分かっ、たよ」

 掠れた声でアンソニーが答え、力無く階段を降りていった。


 まだ、心臓がばくばく言っている。
 レオンの手を、ずっと握りしめていことに気づいて、慌ててパッと離す。

「す、すみません!」
「……私が、あの男に手を上げそうになったのを、止めて下さいましたよね。感情的になってしまい、申し訳なかったです。余計にララさんを、怖がらせるところでした」
「いえ! レオンさんが落ち着いて、ちゃんと話をして下さったから、私も勇気が出たんです。きっと、一人だと何も言えなかったと思うから」

 一人だったら大きな声を出されただけで、身体がすくんでしまい、何も言えなかっただろう。レオンの落ち着いて話す声を聞いていたら、ララも自然と気持ちが落ち着き、ずっと思っていたことを、アンソニーに伝えることができた。

「……レオンさん、ありがとうございました。……アンソニーに好きだって言われて、嬉しかったんです。だから、その好意を受け入れられなかったのは、自分のせいだったのかもしれないと、思っていました」
「絶対にそんなことはない。お互いの思いがあっての行為です。一方的にして良いことでは決してありません。ララさんは、悪くない」
「……ありがとうございます。そう言って下さると、救われます」

 レオンが、許せないと怒ってくれた。貶められ、笑われても、何も言えず一人で深く傷ついた、あの時の自分も救われた気がした。

 レオンが、アパートの玄関まで送ってくれる。
 
「……あの男、ララさんに、まだ気があるようでした。もしかしたら、また来るかもしれません。ララさんさえ良ければ、明日も送らせてもらえないでしょうか?」
「い、いえ! アンソニーには、もう来ないでと伝えましたし、一応了承していたので、もう大丈夫だと思います」
「……私が、したいんです。ララさんが迷惑でなければですが……」

 恋人でもなんでもない自分に、そこまでしてもらう理由がない。早めの「お礼」ということだろうか。レオンは義理堅そうだから、そういうことなのかもしれない。

「……や、やっぱり駄目です!」

 そうだ、また変な噂が流れて、レオンの上司やお見合い相手の耳に入ってしまったら……と思うと、とてもお願いなんてできない。

「レオンさん、本当に大丈夫です。この時間だったら、仕事帰りの人が周りにもいてますし、今日のアンソニーの様子だと、きっともう来ないと思います」

 レオンが、は、と息を吐いて顔を上げた。

「分かりました。では、失礼します」
「あ、はい。今日は、本当にありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げる。レオンも会釈し、階段を降りていく。
 
 ――少し強情だっただろうか。怒らせた?

 珍しく真顔だった。でも、私が甘えて良い相手じゃない。自分に言い聞かせながら、ララは、レオンの姿が見えなくなった階段の踊り場を見ながら、そっと扉を閉めた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね

迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。 愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。 「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」 兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

乙女ゲームの世界に転移したら、推しではない王子に溺愛されています

砂月美乃
恋愛
繭(まゆ)、26歳。気がついたら、乙女ゲームのヒロイン、フェリシア(17歳)になっていた。そして横には、超絶イケメン王子のリュシアンが……。推しでもないリュシアンに、ひょんなことからベタベタにに溺愛されまくることになるお話です。 「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその①、リュシアン編です。 ムーンライトノベルズさんにも投稿しています。

私に番なんて必要ありません!~番嫌いと番命の長い夜

豆丸
恋愛
 番嫌いの竜人アザレナと番命の狼獣人のルーク。二人のある夏の長い一夜のお話。設定はゆるふわです。他サイト夏の夜2022参加作品。

逆転の花嫁はヤンデレ王子に愛されすぎて困っています

蜂蜜あやね
恋愛
女神の気まぐれで落ちた花嫁を、王子は決して手放さない――。 かつて“完璧少女リリアンヌ様”と称えられたリリーは、 ある日突然、神のいたずらによって何もできない“できない子”に逆転してしまった。 剣も、誇りも、すべてを失った彼女のそばに現れたのは、 幼馴染であり、かつて彼女の背を追い続けていた王子アシュレイ。 誰よりも優しく、そして誰よりも歪んだ愛を持つ男。 かつて手が届かなかった光を、二度と失いたくないと願った王子は、 弱ったリリーを抱きしめ、囁く。 「君を守る? 違うよ。君はもう、僕のものだ。」 元完璧少女リリアンヌと幼馴染のちょっと歪んだ王子アシュレイの逆転恋愛ストーリーです

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

処理中です...