うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

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 アンソニーの事があってから、図書館の玄関を出る時に、一瞬アンソニーの姿が頭を過ぎり、少しどきどきしたりもしたけれど、何事もなく過ぎていった。

 そんなある日、ララは仕事を終え、いつもの帰り道を歩いていた。風が強い日で、スカートや髪の毛がはためいている。一際強い風がきた瞬間、後ろで「あっ」という声が聞こえた。向かい風を必死に受けながら歩いていると、「あの、あの」と、後ろから声がする。

「リボン! 落としましたよ!!」

 あ、自分に言われている。とようやく気づいたララは、後ろを振り返った。青色の騎士服を着た、体格の良い金髪のイケメンが、青色のリボンを手に持ち、ひらひらとなびかせながら駆け寄ってくる。

「はいどうぞ、ララさん」
「えっと、拾って下さって、ありがとうございます……どうして、名前を?」
「あっ、しまった。いや、その、この間!! 騎士団の宿舎で会いましたよね? ほら! 俺がレオンを呼びに行って」
「ああ! あの時の!」
「そうです! 俺です! ダニエルって言います!」
「あの時は、レオンさんを呼びに行って下さって、ありがとうございました」
「いや! レオンに、ララさんが来てるって言ったら、珍しく慌てて、途中の段差でつまづきかけてて笑っちゃいました」

 確かに慌てるレオンは珍しい。突然のことだったから、驚かせてしまったんだろうか。

「そうだったんですね。大丈夫でしたか? 転けませんでしたか?」
「大丈夫です。それくらいで転けないですよ!」

 金髪イケメンが屈託なく笑う。

「それなら、良かった。ダニエルさんは、王宮の外でのお仕事ですか?」

 この道は、王宮の外へ出る門に続く道だ。

「外、というか、門の辺りかな」
「では、途中まで一緒ですね」
「ああ、隣を歩いても?」
「はい! もちろん」

 二人で並んで歩き出す。

「今日は、レオンさんは?」
「レオンは、今日は護衛の仕事が夜まであるんだ。本当は、こっちに来たそうだったけど」
「こっち? 門へですか?」
「あっ、いや、うん、そうかな」

 ダニエルの歯切れが悪くなる。
 門に着き、ダニエルに挨拶をしようとすると、

「……これは、家まで送った方良いのか? いや、だめか」

 ぶつぶつと独り言を呟いている。

「あの、ダニエルさん? 私は外へ出ますので、ここで失礼しますね」
「あっ、ちょっと待って! この間、レオンが送って行った時って、ララさんの家まで送ってた?」
「あ、はい……そうですけど」
「分かった! じゃあ、俺も家まで送るね!」
「……………………どうしてですか?」
「えっ、どうしてって、だって、ララさんを送るのが、俺の今日の仕事……」
「いや、だからなんで……もしかして、ダニエルさん、レオンさんに何か頼まれました?」
「えっ、いやっ、そのっ」
「何を頼まれたんですか?」

 ダニエルさんを、ジッと上目遣いで覗き込む。

「わぁかったよ! 言う言う、言うから、そんな目で見ないで!!」

 ――そんな目って、どんな目?

「ララさん、男に付き纏われてたんだろう? それで、ララさんを送って行きたいけど、自分が行けない日があるからって、俺に頼んできたんだよ」
「……それは、今日以外の日は、レオンさんが来て下さってるということですか?」
「あ、ああ、これ、レオン秘密にしてるから、ララさん、俺がバラしたって、内緒にしといてくれる?」

 ――全然、き、気づかなかった。
 
「……ダニエルさん、レオンさんが怖いんですか?」
「へっ、いや、怖くはないけど、なんか、ララさん絡むと面倒臭そう……ていうか、普通にストーカーだよね。ララさん……引いてない? 大丈夫?」
「へっ、それは、だって、レオンさんは心配してくれて、だから……」

 ララが頑なに断ったから、レオンなりに考えて、そうしてくれたのだろう。気づかないうちに見られてたと思うと、変なことをしてなかったかと、ちょっと心配になるけれど……

「そう! そうなんだよ、レオンは、ララさんが心配過ぎて変になってるだけなの! とりあえず、レオンがストーカーじゃないって分かってくれて、ホッとしたわ」

 ダニエルが、カラッとした笑顔で言う。レオンには、2回も獣化したところを見られ、アンソニーとのこともあったからか、必要以上に心配をかけているのかもしれない。申し訳なさすぎる。

「……あの、今日までも、何もなかったですし、本当に大丈夫そうなので、レオンさんも、ダニエルさんも、もう来て頂かなくて大丈夫です」
「ララさん、それ俺から言ったら、ララさんにバレたのがバレるし、それに、俺が言っても聞かないと思う……というか、堂々と送れば良いのに、なんでこんなことしてるの?」
「それは……その、私が体調を崩した時に、レオンさんがたまたまいて、医務室まで運んで下さったんです。そのせいで、変な噂が立ってしまって……更に私といることで、また噂になれば、レオンさんの印象が悪くなっちゃいますし」
「ふーん、レオンと一緒にいる所を、人に見られたくないってこと?」
「そう、ですね」
「……なら、俺は、ララさんを普通に送って行ってもいいのかな? 大体隠れてとか、得意じゃないし」
「えっ、や、そもそも送ってもらわなくて、大丈夫です……」
「だーかーらー、それはさ、ララさんも男心をわかってやってよ。頼られたら嬉しいんですよ、男は。あ、ララさん、俺と一緒に歩くのが嫌とか?!」
「ふぁ、いえ、そんな事はありません!……分かりました。でしたら、よろしくお願いします」
「良かった! じゃあ、家まで送るねー」
「あ、はいっ、ありがとうございます!」

 ダニエルと、レオンの話などで盛り上がりながら、自宅まで送ってもらい、一人になり、ララは我に返った。

「あれ、なんか、いつのまにか家まで送ってもらってた……ダニエルさん、コミュ力すご」

 それからは、時々ダニエルが送ってくれる日があり、それ以外の日は、レオンがどこかにいるのか……? と、少しどきどきしながら帰宅していた。

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