うさぎ獣人のララさんは、推し声の騎士様に耳元で囁かれたい。

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「お見合いの話は、お断りしました」
「えっ」
「自分がララさんのことが、好きだと気づいてから、お見合い相手の方とは会えないと思い、すぐに上司に話をしました」
「……レオンさんの、お世話になっている上司の方ですよね?」
「そうですね。私の故郷が遠いので、こちらでとてもお世話になっていて、親代わりの様な存在の方です」
「そんな大切な方の紹介を、お断りしてしまって良かったんでしょうか……?」
「隊長も、私が、結婚相手を見つけられないだろうと心配してのことだったので。私に、大切な人ができたと知って、喜んでくれていました。本当の親戚になれないのだけが残念だと」

 レオンに大切な人と言われ、嬉しくてふわふわとした気持ちになってしまう。ふと、アナマリアの姿を思い出す。

「レオンさん、アナマリアさん、とても素敵な方でした。後悔していませんか?」

 半分冗談……いやほぼ本気でレオンに聞いてしまう。
 
「自分の気持ちに気づかずに、馬鹿なことばかりしたことは後悔していますが、お会いしたこともない方のことは、後悔するもしないもないですよ」
「馬鹿なことなんて」
「自覚はありますから」

 レオンが笑って言う。

「……アナマリアさんのこと、そうですよね……意地悪な質問をして、ごめんなさい」

 どこかのタイミングが違えば、レオンとアナマリアは出会っていたのだろうか。もしかしたら、幸せな結婚をしていたのかもしれない。それは、誰にも分からない。ただ、ララは、レオンと出会えたことに感謝する。



◇◇◇



「それで?」
「えっ、それで……あっ、レオンさんに耳を撫でてもらって、獣化がおさまって、帰って行ったよ」

 昼休憩の時間、パウラと食堂の端の方に席を取り、昨日のことを報告していた。
 
「ええー、それでおしまい? 大人の男女が? 想いを伝え合って? 抱き合って? それでおしまい? 信じられない。これ以上ないタイミングで、召喚させたのに。せっかくの、パウラさんのファインプレイが泣けるわ」
「パウラ、ありがとう。パウラのおかげだって」
「……まあ、ララは初めてだもんね。レオンさんは何才だっけ? よく我慢したね」
「ちょっとパウラ、レオンさんは、そんなガツガツした人じゃないから」
「えー、だってあのくらいの年の男の人で、ガツガツしてない方が、心配じゃない?」
「……そうなの?」
「そうでしょ」

 あの後、ララの家の中に入ったものの、固まって動かなくなったレオンを、ソファに座らせ、自分から強請って耳を撫でてもらった。自分の気持ちを伝え、すっきりとしたララは、緊張しながらも、優しく耳を撫でてくれるレオンにもたれ、とても幸せな時間を過ごした。でも、耳を撫でてくれたのは、自分から強請ったからで、レオンから触れてくれたのは、ララが好きだと言って、抱きしめてくれた時だけだ。

 

「今日は、手を繋ぐわ」

 パウラに宣言したことを、実行しようとして、ララは一人でドキドキしていた。
 
 仕事を終え、迎えに来てくれたレオンと、並んで歩く。

 ララの家までは、王宮の門を出て、街まで乗り合い馬車に乗る。最寄駅で降り、商店街の中を抜けた所に、ララの住んでいるアパートがあった。同じ道程を、レオンはまた王宮まで戻ることになるので、申し訳なくて、やはり送らなくて良いと断ると、

「ララさんと過ごせる、貴重な時間なので」

 と、言われ、ララは顔が真っ赤になり、何も言えなくなってしまう。

 商店街の中は人通りが多く、自然とお互いの距離が近くなる。手を繋ぐなら、そのタイミングだな。と思いながら、緊張しつつ歩いていた。考え事をしながら歩いていたので、前から走って来る男の子に気づかず、レオンに肩を持たれ引き寄せられて、ようやく気づく。

「ララさん、大丈夫ですか?」
「は、はい、すみません」
「今日は、特に人通りが多いですね。手を繋いでも良いでしょうか?」
「わ、はい!」

 ララは、棚ぼた的にレオンと手を繋げることになり、舞い上がってしまう。レオンの大きな手に包まれる様にして、手を繋ぐ。あっという間に、ララのアパートに着いてしまい、手を離す時に、残念な気持ちになった。

「ララさん、また明日」
「はい! ありがとうございました」

 レオンが階段を降りて行くのを見送り、踊り場でこちらを向き、手を振ってくれる。それだけで、嬉しくて、顔がニヤけてしてしまう。

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