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しおりを挟むレオンは、酷く狼狽えていた。
自分の胸に頭を預けているララを、どうしたらいいか分からず、手が宙を彷徨う。ララが小さく震えているのに気づき、フードが外れて露わになっている耳に、おそるおそる触れる。レオンが触れた瞬間、ララの身体がぴくりと揺れた。
昨日は、扉越しに、ララの姿を見ることすら許されず、ダニエルなら良いのかと苛立ち、酷い言葉をララに投げつけてしまった。レオンは、ララを前にすると、感情の波が大きく揺れ、自分でも予測できない様な行動をとってしまう。ララが昔の恋人に迫られたのを見て、同じ様な状況には絶対にさせたくないと思い、家まで送って行くことをさせて欲しいとララに伝えたが、あっさりと断られてしまう。それでも、ララを一人で帰らせることはできないと思い、黙ってララの後をつけることにした。あれは、冷静に考えると、ストーカーという犯罪まがいの行為だったと、ダニエルと話していて気づく。
自分はおかしい、ララのことになると、心配になり、何かできないかと行き過ぎた行動をしてしまう。それに、今まで、怒りの感情に駆られたことが、ほとんど無かったレオンは、ララのことになると、頭に血が昇ってしまい、自分が自分でないように感じることが度々あった。ララが、震えながらも元恋人にされたことを話した時、ララから、ダニエルに恋人はいるのかと聞かれた時、ララが、ダニエルと部屋で二人きりになっていた時にもだ。
「それは嫉妬だ」
ダニエルにあっさりと言われる。
「……嫉妬」
「レオン、お前、本当に気づいてなかったんだな」
ダニエルに笑われてしまう。
「どうするんだ? 隊長の姪御さんとお見合いが決まってるんだろう?」
「それは、お会いする前に断るつもりだ。隊長も、ようやく戻って来られたし、すぐに言いに行くよ。……アナマリア嬢がララさんに会いに来たらしいんだ。しかも、俺とララさんの噂を聞いてだ。ララさんは、噂が広まることを酷く気にしていたのに……また、ララさんは傷ついたかもしれない」
「アナマリア嬢! えらく可愛いお嬢さんらしいじゃないか」
「……それがどうしたんだ? 俺は、彼女に、お見合いで話す練習につき合ってもらっていたんだ。彼女は、それに喜んでつき合ってくれていた。それは、彼女の気持ちは、俺には向いていないということだろうか」
「……重症だな。それ、ララさんに聞きなよ?」
「……顔も見たくないと、言われた」
「言われてないって、扉を開けるのをだめだって」
「同じ意味じゃないのか? ダニエルは良くて、なぜ俺はだめだった?」
「レオン、顔が怖いって。落ち着け。今、お前は冷静じゃない」
「……分かってる」
酷い言葉を投げつけてしまったララに、合わせる顔がなく、ダニエルにララを送ることを頼んでしまう。ララの獣化はおさまっておらず、体調も悪そうだったと戻ってきたダニエルに聞き、心配になりララの家へ行こうとしたが、顔すら見せてくれなかった自分に会いたいだろうかと思いとどまった。
翌日になり、ララの様子が気になり、仕事帰りの時間に、図書館の前でララを待っていた。もし、嫌な顔をされたら、もう彼女の前に姿を現すのはやめようと決めていた。いつもの時間になっても、ララの姿はなく、図書館の職員にララはどうしたのか聞く。連絡もなく休んでいたと、初めてのことだから心配だ、どうしたのか知らないかと逆に聞かれてしまった。ララの友人だという女性に、心配だから見に行ってもらえないかと頼まれる。自分が行って迷惑じゃないかと聞くと、「ララが嫌がる様なら頼みません」と言われてしまう。ララにどんな顔をされるだろうかと、不安に思いながら、ララの家へと向かった。
今、彼女は、自分の胸に顔を埋めている。
扉を開けたララは、しどけない格好をしていた。突然訪れたことを謝ったが、目に入ってしまったララの姿が、今も頭から離れない。そんな格好のララに触れられ、心臓を激しく打つ音が聞こえるんじゃないかと、レオンは焦ってしまう。
「……嫌いになんか、なれません」
小さく掠れた声で、ララが呟く。
「レオンさんが、好きです」
ララの、言葉と共に吐いた息が、レオンの胸に熱を持って伝わってくる。ララが、震えながら零した言葉を、壊してしまわないように応えたくて、ララの耳に口を寄せる。
「私も、ララさんのことが、好きです」
レオンが小さいけれど、はっきりと口に出すと、ララの耳が震えた。レオンは、所在なさげにしていた自分の手で、ララの小さな身体を抱きしめた。
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