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しおりを挟むララは、どこに触れても柔らかった。レオンは、もっとララと触れ合いたいという衝動に駆られ、思わず口づけてしまう。ララが男性に対して怖さを抱いているのを思い出し、すんでのところで踏みとどまる。レオンは小さくて柔らかな彼女を、怖がらせる様なことは絶対にしたくないと思っていた。ララが、安心して自分に身体を委ねても良いと思えるまで待ちたかった。けれど、恋人となったララを前にして、いつまで自分の理性が保てるのか分からず、ララといる時の自分を信用できなかった。
「何も言わずに受け取ってくれ!!」
ある日、ダニエルから、小さな箱の様なものが入った紙袋を渡される。
「なんだ、これは?」
「……いま、レオンに一番必要な物だと思う」
紙袋の中を覗くと、薬らしきものが入っている。
「薬、か?」
「ああ、獣人専用の避妊薬。発情を抑えるのに避妊具は使えないから、避妊薬があるんだって」
「っ、ダニエル!!」
「だって、いるでしょ? ないと困るのは相手じゃないか」
「分かってるっ。でも、まだ、彼女とはそういった関係になるつもりは無い」
ダニエルが、驚愕の表情を作る。
「なんだよ。その顔は」
「だ、だって、目の前に、あんな可愛い彼女がいて、我慢できんの? ええ、何それ、なんの修行?!」
「……おそらく、彼女は、そういったことが苦手だと思う。だから、彼女から行動を起こすまで、俺からは手は出さない」
「ええ~ そりゃあララさん、自信なくすよ」
「……何を知ってる? ララさんと話してるのか? そんなプライベートな話を?」
「ちょ、レオン、顔が怖い。待て待て待て。ほら、俺、昼休憩に、良く中央の食堂に行くんだよ。その時、たまたまララさんと、ララさんの友達が話し込んでいるところを見かけてさ、ちょっと聞いてたら、なんかレオンの話っぽいし、俺もレオンの初めての恋人のことだし、心配になって、自らそこに参加したわけよ」
「……お前が入っても、ララさん達は話してくれるのか?」
「うん。普通に話すよ。色々」
「……ダニエル、初めてお前を尊敬した」
「ええっ、そこで? なんか、嬉しい様な、嬉しくない様な……」
「……ダニエルは、姉か妹がいたか?」
「ああ、姉2人に妹が1人いる。なんで?」
「やっぱりな……それで、ララさんはなんと、言っていたんだ?」
「えっ、知りたい?」
「当たり前だ!」
「……ララさんは、先に進みたそうだよ。まあ、言ってることは、なんか中学生みたいなこと言ってたりするけど。レオンとの距離を縮めることを望んでると思う」
「……それは、感じるんだ。自分から手を繋ごうとしてくれたり、家にも上げてくれる。ただ、それは、俺が安全で、無理に踏み込もうとしない相手だと思っているからなんじゃないかと……」
「ああ~、確かにそれはあるかもな」
「だろ? それ以上踏み込んで、拒絶されたらと思うと、慎重にもなる……」
「……ふふふふ、レオン君いいね~。青春だね~。あの、娼館では、逆指名されまくりの百人斬りと言われたレオンが……」
「……うるさい」
レオンは、ララが初恋だった。だからこそ、中々自分の気持ちにも気づけずにいた。
26才にもなり、そんなことは普通じゃないことは分かっていた。従士の頃はみな同じように、男同士でじゃれ合っていたのに、気がつけば恋人ができていてたり、結婚して子供がいる先輩や同僚もいる。大の男が、女性に対して憧れもあるけれど、それ以上に恐怖心を抱くなんて、騎士として情けなかった。心配した仕事仲間が、女性を紹介してくれたりもしたけれど、ろくに話すことさえできず、ますます自信を無くしていた。そんな時にララに出会ったのだ。
緊張せずに話せる女性は初めてで、そんなことにも気づかないくらい、ララとは始めから自然に話すことができた。今まで出会った女性とは、紹介という形だったこともあり、女性から値踏みされているように感じることが多く、それでレオンはますます緊張してしまっていた。ララはそんなレオンの状況を知った上で、練習相手になってくれると提案してくれたのだ。このままだと、一生独りかもしれないと思っていたレオンは、その申し出が、ただただありがたかった。
レオンは女性経験も無かった。先輩に連れられ、娼館へは何度も行ったが、好きでもない相手とそんなことはできないと言うと、「何をしに来たんだ」と怒られた。それからは、面白がった娼婦が、レオンに、好きな人ができた時に頑張りなさいと、座学で色々と教えてくれた。本番をしなくて良いからと、レオンが娼館に行くと娼婦達から人気で、先輩や同僚達は不思議がっていた。
拗らせた26才の男を、ララは選んでくれたのだ。全力で大切にしたい。絶対に嫌われたくない。
そんな思いも打ち砕かれるような出来事が起こる。
「レオンさん、う、腕を組んでも、良いですか?」
昨日は、ララから手を繋いでくれた。しかもララの小さな指を絡めてきて。嬉しかった。レオンは、仕事で女性のエスコートをすることがあり、女性と腕を組んだ経験はあった。そんなことならと、軽い気持ちで了承してしまった。
レオンは了承したことを後悔していた。ララは、小柄だが胸は大きい。普段の服装からはあまり分からないが、ララが体調を崩し、突然家に行ってしまった時に、胸元の空いた服を着ていて、一瞬だが見てしまい知ってはいた。その、柔らかな物体が、自分の腕に当たっている。ララのどこに触れても柔らかく、いつも軽い感動を覚えるが、ララの胸は信じられないくらい柔らかかった。レオンは、腕に当たる、ララの胸の柔らかさに、思考停止状態に陥っていた。記憶がないまま、ララの家の前に着いてしまう。ララの身体が離れた。
「……レオンさん、お茶を飲んでいきませんか?」
固まったままのレオンに、ララが昨日と変わらないトーンで話しかける。
「っ、はい」
ララが嬉しそうに、部屋へと案内してくれる。
「紅茶でいいでしょうか?」
「……はい」
頭の中は、さっきまで腕に感じていた、ララの感触で埋められている。ララが、カップの乗せたお盆を持ってきて、隣へ座った。
ダニエルの「レオンとの距離を縮めることを望んでると思う」という言葉を思い出す。それは、本当のことだろう。でも、この、レオンの中に湧き上がってくる、ララと深くまで繋がりたいという欲望とは、遠い隔たりがあるように感じていた。ララに触れたい。そのことばかりで、頭の中が占められていく。このままでは、彼女を傷つけてしまうかもしれない。
小さなソファに2人で座ると、自然と距離が近くなってしまう。いつもはそれを嬉しく感じていたが、今は、柔らかな彼女の身体が当たり、さっきの感触を勝手に反芻し、彼女のどこを見て何を話せば良いのか分からなくなってくる。
「レオンさん?」
ララに顔を覗かれ、反射的に立ち上がってしまった。
「どうしました?」
ララが驚いた声を出す。
「……すみません。用事を思い出したので、帰ります」
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