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しおりを挟む「えっ、それで本当に帰ったの?」
「……うん。ずっと真顔で、何か考え事をしてる様子だったんだけど……」
今日もいるダニエルが、なぜか肩を震わせている。
「……それは、効果がありすぎたんじゃない?」
「えっ、効果? 何がですか?」
「……男はさ、自分の欲望と、相手を大事にしたいという理性の狭間で、常に戦っているわけですよ」
「確かに……本命にほど、すぐ手は出さないって言うもんね」
「そう、それ! だからさ、ララさんの気持ち次第だよ。手を出して欲しいと思うなら、ララさんから、分かりやすく誘ったら良いだけだよ」
「さ、誘う……どうやって……というか、レオンさんに、引かれませんか?」
「絶対引かないって!! でも、ちょっとでも無理と思うなら、煽るようなことはやめてあげてね。もう限界だと思うから、レオンも」
ダニエルに、そう言われ、自分がどうしたいのか改めて考える。
レオンに、耳を撫でて欲しいと思う。手を繋ぎたいと思う。抱きしめてくれたのも、一瞬だったけれど、キスしてくれたのも嬉しかった。腕を組むのも、身体が密着して恥ずかしかったけれど、本当の恋人みたいで、とても嬉しかった。
キスまでは、アンソニーともしたことがある。身体にも触れられた。その時は、嬉しいというよりも、ただ怖かった。でも、レオンに対して、怖いと思ったことはなかった。レオンに触れられると、どきどきもするけど、安心する。心が満たされる。もっと触れて欲しいと思う。自分で慰める時に触れている部分を、レオンに触れられると思うと、
「うわぁ! 無理無理無理」
恥ずかし過ぎて死ぬかもしれない。世の恋人や、夫婦はそんなことを日夜しているの? すごい。ええ、想像するだけで、ひゃあってなる。どうしよう。
「ララ? 顔が異常に赤いけど、大丈夫?」
「……大丈夫じゃない……」
「そういえば、明日の午前中は、レオン非番だったなー」
「ララも、明日は休みじゃない」
「えっ、や、そ、そうだけど」
そんな、心と身体の準備が。下着は可愛いのあったっけ……うわーだめだ。色々と準備万端じゃなきゃいけない。とても見せられない。そんなことを頭の中で、ぐるぐると考えていたら、仕事が知らない間に終わっていた。こんな状態で、どんな顔をしてレオンと会えば良いのだろうか。
いつもの様に、レオンは迎えに来てくれたけれど、顔が見れなくて、いつもよりも距離を空けて歩く。レオンも、なぜかぎこちない。家までの距離が、とても長く感じた。
家の前まで来て、レオンが、
「じゃあ、失礼します。また来週ですね」
と、すぐに帰ろうとしたので、思わず服を掴んでしまう。
「あ……、あの、レオンさん」
「はい。ララさん、どうされましたか?」
レオンが優しい声で返事をしてくれる。それだけで、嬉しい。
「あ、あのっ、もし、レオンさんさえ良ければ、うちでご飯を食べて行きませんか……?」
「ご飯、ですか……? 良いんでしょうか?」
「はいっ、大したものは作れませんが……」
「……ララさんの作って下さる食事は、久しぶりですね。嬉しいです」
レオンの顔が、ようやく綻んだ。
昨晩、多めに作っておいたミートソースで、パスタを作る。サラダ用の生野菜も残っていたので、ドレッシングで和えてお皿によそう。ワインも少しあったはず。ミートソースがあって良かった。昨日の自分えらい。
「か、簡単なものですが!」
小さな丸いダイニングテーブルに、作った物を並べる。
「美味しそうです。ララさん、手際が良いですね。尊敬します」
レオンがテーブルを見て、軽く目を見張る。
「作り置いていたものが、たまたまあったので! 後は和えただけです。お口に合えば嬉しいです」
甘口の赤ワインを、グラスに注ぐ。レオンとお酒を飲むのは初めてだ。乾杯をして、ワインを一口飲む。知らない間に乾いていた喉に、甘いワインが、より甘く感じた。
「……美味しいです」
レオンの顔が、ますます綻んで、ララはほっとしていた。帰る間、あまり顔を見れなかったけれど、ふと見たレオンの表情は硬く、自分の変な緊張がレオンに伝わってしまったのかと不安になっていた。
「良かったです」
ララも、自然と笑顔になる。
「……昨日は、急に帰ってしまって、すみませんでした」
「い、いえ! お忙しいのに、お引き止めしてしまって、こちらこそ、すみません。ダニエルさんから、明日の午前中は非番だとお聞きしたのですが……今日は大丈夫でしょうか?」
「もちろん、大丈夫です。……ララさんは、その、ダニエルと仲が良いんですか?」
「仲が良い……のかな? お昼ご飯を食堂で食べているんですが、気がついたらダニエルさんがいてて、一緒にお話してるんです」
「そうですか……ダニエルには、姉妹が3人いるそうです」
「やっぱり!! 分かります。女性に囲まれているのに、慣れてますよね。気がついたら、色んなことを話してしまってて……」
「どんなお話をされてるんですか?」
「どんな……」
今日話していたことを思い出してしまい、ララの顔が赤くなる。
「……お話したくないなら、構わないのですが」
「っ、レオンさんとのことを、いつも、相談しています」
「……私のこと」
「はい。私は男性と、ちゃんとお付き合いするのが初めてなので。あ、アンソニーがいました……だけだったので、その、色々と分からないことが多くて、それで、ダニエルさんに、お話を聞いてもらっていました」
「……私も、ダニエルに、ララさんとのことを相談しています」
「そうなんですね! ふふ、ダニエルさんには、どうしてか、話してしまいますよね」
「はい。時々、羨ましくなる時があります」
今頃、ダニエルがくしゃみをしているかもしれない。
「……私は、女性とお付き合いするのが、ララさんが初めてなので、分からないことも多くて。ララさんよりも、年上なのに情けないです」
「な、情けなくなんてないです! レオンさんは、いつも私のことを考えて下さって、優しくて、かっこよくて、最高です!」
「…………ありがとう、ございます」
レオンが、ポカンとした顔をしている。あ、声も良いって言うの忘れた。力説し過ぎただろうか。だって、本当のことだから。
「……ララさんは、可愛らしくて、明るくて、周りのことをいつも気遣ってくれて、可愛くて……とても大切な、人です」
2回も可愛いって言ってくれた。大切って言ってくれた。何それ嬉しい。
お互いに褒め合って、顔が赤くなっている。
これは何の時間?!
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