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しおりを挟むそのあとは、抱き合いながらベッドの上でごろごろして、レオンには、ララのベッドはやっぱり小さそうで、はみでないようにと、二人でずっとくっついていた。レオンの飼っていたうさぎの話や、ララが働いていた食堂の賄いの話、とりとめのない話を、近い距離で、小さな声で時々笑い声を上げながら、話していた。
気がついたら寝てしまっていて、起きたら目の前に裸のレオンがいて、ララは一瞬驚いて、すぐに昨晩のことを思い出す。レオンはもう目が覚めていて、ララのことを見ていたらしい。熟睡していたから、よだれを垂らしていなかっただろうかと不安になったけれど、「可愛くて、ずっと見てしまいました」なんてことをレオンに言われ、朝から赤面する。レオンから避妊薬の話をされ、お互いにダニエルとパウラからもらったと分かり、心配性な友人達に感謝する。
レオンとくっついているのが、気持ち良くて離れ難かったけれど、午後から仕事のあるレオンのために朝ごはんを作ろうと、ベッドを出る。お風呂に入り、2人分の朝食を作る。さっとお風呂に入ったレオンが、食器を出してくれたり、紅茶を淹れてくれたりと、一緒に台所に立つ。いつも1人で食べている朝食を、2人でぽつぽつと話しながら食べ、レオンの淹れてくれた紅茶を飲んだ。
朝食の後片付けを一緒にして、レオンが家を出るまで、ソファに座って、ララは本を読んだり、レオンもララのおすすめの本を眺めたり、キスをしたり、髪を撫で合ったりして過ごしていたら、あっという間にレオンが家を出る時間になり、ゆっくりと上着を着ている。
「レオンさん、いってらっしゃい」
「……はい、行ってきます。ララさん」
レオンが、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに返してくれる。
「また、帰ってきてしまいそうです」
「はい、いつでも来て下さい」
「……ララさんは、明日はお仕事ですよね?」
「はい」
「……また、来週のお休みの前日に、泊まりに来ても良いでしょうか?」
「はい! もちろん。また、じゃあ何かご飯を作りますね」
「では、私はワインとお菓子を持ってきます」
「わあ、嬉しいです!」
「……では、また、明日ですね」
「はい……」
どちらからともなく、唇を重ね、喰むように軽く触れ、すぐに離れた。
「……こんなにも、名残惜しいことはありません」
「ふふ、私もです」
「……行きますね」
「はい」
レオンが、階段の踊り場で手を振る。ララも、手を振り返す。レオンの姿が見えなくなり、ララは、扉を閉め、取っ手を持ったまま、動かなくなる。頭の中は、レオンと過ごした時間を反芻して、大忙しだ。
ララは、ソファに座り、時折足をジタバタさせながら、昨日の夜のことを思い返していた。
◇◇◇
「う、うまくいったのね?! 良かったー!! 私達のアドバイスのせいで、変に拗れたらどうしようって、心配してたのよ? ね、ダニエルさん?」
「わたしたち……あ、ああ! そう、良かった!!」
「心配かけて、ごめんなさい」
「昨日のレオンは傑作だったよ! 仕事の間はいつもと変わらないけど、休憩時間になった瞬間、心ここにあらずで、ポーッとしてるんだよ!!」
「あら、今日のララも同じよ? カウンターに立ってても、気づいたらポーッとしてて、何度こっちに戻って来なさいと声をかけたか」
顔が真っ赤になる。
「ご、ごめん、パウラ……ダニエルさんも」
「……ううん。良かった。うまくいって」
「……ありがとう」
パウラと目を合わせ、笑い合う。
ダニエルも、横でそんな二人を見ながら、嬉しそうに微笑んでいた。
仕事帰り、いつもと同じように、レオンが迎えに来る。この間は、腕を組むとレオンがおかしくなったので、今日は恋人繋ぎにしてみる。一瞬、レオンの顔が赤くなったけど、前よりも自然に繋げた、気がする。
レオンをお茶に誘い、2人並んでソファに座る。どちらからともなく、唇を重ねた。
「ん」
レオンが身を乗り出し、後ろに押し倒される。
「っ、んっ」
パッとレオンが離れた。
「このままだと、まずい気がします」
「……どうしてですか?」
「いや、我を忘れて、ララさんに触れてしまいそうで」
「……だめですか?」
「……だめ、です」
レオンの顔が真っ赤になっている。起き上がり、レオンと向かい合わせになる。
「分かりました。じゃあ、もう今日は何もしない方が良いでしょうか……」
そう言いながら、ララはレオンの手を取り、軽く握る。
「……気がつくと、ララさんのことばかり、考えてしまって」
「私もです」
「……おかしいですよね」
「おかしいですか?」
レオンが、ぐっと言葉に詰まる。
「……もう、おかしくても良いです……」
レオンがララの手をきゅっと握り返し、肩にぽすりと頭をもたせかけた。
「……ララさん、結婚のことは、考えたことはありますか?」
け、結婚?! 恋人すらいなかった自分には、夢のまた夢のようなことだった。
「……結婚……今まで、あまり考えたことがなかったです」
ララは、正直に答える。
レオンの息が、耳元にかかる。
「……ララさん、私と結婚してくれませんか?」
耳元で、囁く様に言われてしまう。
「っ」
ぞわっと肌が粟立ち、心臓がばくばくする。
「み、耳元で言うのは、ずるいです……」
「……以前、ララさんが、私の声が好きだと言っていたので」
わざとか! あざとい!!
「……私が、初めてレオンさんのことを知ったのは、声、だったんです」
「声、ですか?」
「はい。中庭で、素振りをするレオンさんの声を聞くのが楽しみでした」
「そうですか……ララさんに言われて、この声で良かったと、初めて思いました」
「……声も、好きです。今は」
「声も」
「はい。今は、全部、好きです」
言いながら、顔が赤くなる。
レオンが顔を上げ、目を合わせる。
「……私も、ララさんの全てが、好きです」
ララは、自分ではどうしようもない部分で、自分のことが嫌いだった。自分を守るために頑なだった心が、レオンのくれた言葉や行動によって、少しずつ、解きほぐされていった。
ララの手を、レオンの手で包み込む様に握られる。
「ララさん、私と結婚していただけますか?」
「……はい。よろしくお願いします。レオンさん」
ララが笑顔で答える。
レオンの温かい手に、自分の手が包まれている。繋いだ手を、レオンが握り返してくれた。ララは、そのことが何よりも嬉しかった。
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