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次の休暇はアンジュの誕生日、つまり16歳になる日に合わせて前後で取る事になった。移動日併せて期間は7日。
アンジュへの土産とそれから誕生日のプレゼントを馬に乗せる。旅の装束を身に付け馬に跨った。
俺の馬は普通の馬では直ぐヘタるので、ザラグン種の巨体を誇る漆黒の馬だ。名は「ローザ」。俺の家名から取った。速さは然程無いが本来重い荷物を運ぶ種である為脚も太く疲れ知らずだ。
行きの領地までの間が最後の熟考の時間になる。馬を走らせながらアンジュの顔を思い描いた。
選択肢は2つ。もし、結婚するなら伯爵の領地から王都へ連れて来なければならない。アンジュはかなり男受けする容姿だ。まだ未成年だった彼女にちょっかい出した奴は後でブン殴るとして、王都で護り切れるだろうか…いや、護るけどな。闇魔法で確か護る系があった筈…。使った事が無いので領地に帰ったら魔術本を探して見てみよう。
続行なら誕生日の日付で書類を作成、提出しなければならない。
…後4日。
もう1つは…婚約解消だ。解消すればもう俺はアンジュに会えなくなる。唯の友人などとは名乗れない。
それでも自分の事は良く解っているつもりだし彼女の事も赤ん坊の時から付かず離れず知っている。アンジュには愛した人と添い遂げて欲しい…幸せになるんだ。
そう思うとズキンと胸が痛んだ。
彼女の望む通りにしてやろう。多少慣れてはいるだろうが人は常識以上の姿を畏怖するものだ。ましてや夫になる相手なら尚更…
アンジュに…確かめてみよう。俺には…それしか出来ないのだ。護る自信はあるが心までは届かない。
それは…きっと俺がアンジュの事を
誰よりも大事に思っているから……
****
領地に着いたのは次の日の夕方だった。考えながら寝ずに走り続けたので案外早くに着く事が出来た。
「帰りました」
「ええ!?今帰るって手紙受け取ったばかりよ!」
「…すいません」
母に驚かれた。3日前に出した手紙と同時に着いてしまった。
「母上お久しぶりです。お元気でしたか?何だか小さくなられましたね?」
「冗談かしら、本気かしら…顔が上にあり過ぎて判らないわ」
「本気です」
「だったら貴方が大きくなり過ぎたのよ。私は変わりません…何でこんなに育っちゃったのかしら?」
母の頭頂部に白髪が…黒髪だから目立つな…でも元気そうだ。
「お帰り、リダリオス。巨人みたいな身体に合う服が無いから急いで明日朝一で仕立て屋で作って来なさい。侍従も連れて…いや、私が一緒に行くわ!」
帰って直ぐ服の心配をされた…
「軍服を持って帰っていますから大丈「ぶな訳無いわよ!明後日には婚約式よ!!侯爵家の次期当主よ!私に恥をかかす気!!」」
小さくても侯爵夫人の母だった。
婚約式とは言っても我々両家だけだ。婚約の本書類にサインして結婚式の日取りを決める。
「母上…その…アリアンジュは…」
情報通の母ならアンジュに男が居るとか、婚約を嫌がってるとか…聞いた事ないだろうか?と聞こうとするととんでもない返事を返される。
「それと、ダリ!貴方娼館に行ったんだって?なんでこっそり行かないのよ!会う人会う人に「男色じゃ無くて良かったわね~」って言われるし。男色ってどう言う事?貴方王都で何してたの!」
俺は膝から崩れ落ちた。
****
母の誤解を解く為に5回くらい同じ事を説明し、何とか納得してもらい、漸く湯を溜めた風呂に入り一息付いた。風呂も小さくなってる…じゃ無くて俺が育ってるのか。足が収まらん。当主になる前に大きいやつに替えないとな…
持って来た服に袖を通し食堂に向かう。長い廊下を歩きながらふと、アンジュもこの夜空を眺めているだろうか、なんて考えたり…かなりナイーブになっている様だ。明後日には彼女に会わねばならない。ゴード伯爵領に訪れたのは確か5ヶ月前。少し間が空いてしまった。
彼女に会ってしまったら俺は冷静でいられるだろうか。適切な判断が出来るだろうか。好きな奴がいたら…ちゃんと身を引けるだろうか。
図体ばかりデカくなって…俺はまだ子供みたいにウジウジしているのだ。いや、子供の時の方が決断力があったくらいだ。
「虫除けで我慢しとけよ…俺は彼女に似合わない。そうだろ?」
選ばれない。その時を想定して一生懸命自分を慰める自分が空悲しかった。
食堂に着くと父と母が既に席に座っていた。久々に自領地料理に舌鼓を打つ。王都から馬車で3日。俺なら1日。広くはないが温泉が沸き暖かい領地だ。小さな銀鉱山もある。穏やかに過ごすなら良い場所だ。堅苦しい礼儀作法も家族だけなら要らない。食事をしながら団欒を楽しんだ。
次の日は朝早くから街に連れ出され、採寸後数店の衣料店のお針子総出で俺の礼服とシャツなどの普段着や下履き等作り始めた。制限時間は日暮れまでと無茶振りを課し、銀職人の元を訪れる。宝石や石を持ち込むと好きなデザインでアクセサリーを作ってくれ、酸化しない様に簡単な保護魔術を掛けてくれる。そこまで高価では無いので広く平民の間で親しまれている店だ。かく言う俺も何度かアンジュにピアスやアンクレット等プレゼントしたものだ。
今日はオパールを持って来た。大粒で光を当てるとピンク色が煌めく物を選んだ。もしかしたらこれが最後のプレゼントになるかも知れない。だから想い出の銀細工をアンジュ渡したかった。
そして日が傾く頃には俺の礼服とアンジュへの銀細工の土産と普段着、真新しい下履きを沢山手に入れた。特に礼服を頼んでいた職人達はグッタリと椅子に突っ伏している。領主の息子の突然の無理難題を聞いてくれる良い領民だ。代金は多めに色を付けておいた。
明日はとうとう決戦…じゃなくて決断の日だ。
……きっと眠れないだろうな…
****
魔術書を読んでいる間に朝が来てしまった。腹を括り礼服に着替える。刈り上げた短い赤い髪を軽く撫で付けクラバットを結んだ。黒革のロングブーツを履き込む。因みに俺の足裏サイズは34㌢だ。
飾りなどは椅子に乗った侍従に任せて特大の姿見を見る。
デカイな俺…しかも礼服を着ると更に威圧感が増す気がするんだが…今更か…
改めて少しシュンとして朝食後、侯爵夫妻は馬車に。俺は帯剣をした後コートを羽織、馬車の護衛数名を従え自分の馬でゴード伯爵領を目指した。馬車に合わせて走る事1時間。林道に差し掛かった道で凄い勢いで一頭の馬がこちらに走って来る。サッと剣を抜き様子を見ると馬の背に血に濡れた男の姿が。馬車を止め、待ち構えてみる。するとそれに気付いた男が眼前で馬を止めた。
「ハアハアハア…赤い髪…大きな身体…貴方は…リダリオス様…ですか?」
「! いかにも。俺はリダリオス・バンス・ローザンテだ。君は?」
「ゴード伯爵家の当主ランザード・マハラン・ゴード様の侍従でラントルと申します。大変です!お嬢様が…」
「何?アンジュに何かあったのか!」
「賊に…いや、隣の領地に居を構えるヤボイヌ伯爵に朝方襲撃されて…魔術剣士や魔術士までも引き連れ屋敷の防御魔術陣を打ち破りお嬢様を連れ去りました!」
「な、なんだと!なぜ…まさかちょっかい出してる貴族ってのはそいつか!」
「そうです。お嬢様を着け狙い、求婚を迫っていました。その……リダリオス様が『男色』…だから結婚など意味は無い、と…かなり強気で来られていて…」
「がぁ~~~~~またそれか!!」
「今日は侯爵様がおいでになる日だからと防御魔術陣を弱められたのです。その隙を狙われ…私はこの事を伯爵様よりリダリオス様に伝える様にと速馬に乗り参りました。リダリオス様、どうかお嬢様を…」
「…分かった。兎に角君は手当をしなさい。おい、この人を頼む。父上、俺は先に参ります。後は宜しくお願いします」
「あ!おい、リダリオスーー」
もう、何も聞こえなかった。唯、アンジュへと目指して馬を走らせる。
俺の意識はそれだけに集中していた。
「…闇よ…探索せよ」
剣を鞘に入れたまま手を当て魔力を込めながらアンジュを思い浮かべる。この剣の鞘はアンジュがくれたものだ。俺に手渡す時に一度は触っている。
あの細く白く滑らかな指を持つあの子を
俺が汚い悪害から必ず連れ戻してやる!
アンジュへの土産とそれから誕生日のプレゼントを馬に乗せる。旅の装束を身に付け馬に跨った。
俺の馬は普通の馬では直ぐヘタるので、ザラグン種の巨体を誇る漆黒の馬だ。名は「ローザ」。俺の家名から取った。速さは然程無いが本来重い荷物を運ぶ種である為脚も太く疲れ知らずだ。
行きの領地までの間が最後の熟考の時間になる。馬を走らせながらアンジュの顔を思い描いた。
選択肢は2つ。もし、結婚するなら伯爵の領地から王都へ連れて来なければならない。アンジュはかなり男受けする容姿だ。まだ未成年だった彼女にちょっかい出した奴は後でブン殴るとして、王都で護り切れるだろうか…いや、護るけどな。闇魔法で確か護る系があった筈…。使った事が無いので領地に帰ったら魔術本を探して見てみよう。
続行なら誕生日の日付で書類を作成、提出しなければならない。
…後4日。
もう1つは…婚約解消だ。解消すればもう俺はアンジュに会えなくなる。唯の友人などとは名乗れない。
それでも自分の事は良く解っているつもりだし彼女の事も赤ん坊の時から付かず離れず知っている。アンジュには愛した人と添い遂げて欲しい…幸せになるんだ。
そう思うとズキンと胸が痛んだ。
彼女の望む通りにしてやろう。多少慣れてはいるだろうが人は常識以上の姿を畏怖するものだ。ましてや夫になる相手なら尚更…
アンジュに…確かめてみよう。俺には…それしか出来ないのだ。護る自信はあるが心までは届かない。
それは…きっと俺がアンジュの事を
誰よりも大事に思っているから……
****
領地に着いたのは次の日の夕方だった。考えながら寝ずに走り続けたので案外早くに着く事が出来た。
「帰りました」
「ええ!?今帰るって手紙受け取ったばかりよ!」
「…すいません」
母に驚かれた。3日前に出した手紙と同時に着いてしまった。
「母上お久しぶりです。お元気でしたか?何だか小さくなられましたね?」
「冗談かしら、本気かしら…顔が上にあり過ぎて判らないわ」
「本気です」
「だったら貴方が大きくなり過ぎたのよ。私は変わりません…何でこんなに育っちゃったのかしら?」
母の頭頂部に白髪が…黒髪だから目立つな…でも元気そうだ。
「お帰り、リダリオス。巨人みたいな身体に合う服が無いから急いで明日朝一で仕立て屋で作って来なさい。侍従も連れて…いや、私が一緒に行くわ!」
帰って直ぐ服の心配をされた…
「軍服を持って帰っていますから大丈「ぶな訳無いわよ!明後日には婚約式よ!!侯爵家の次期当主よ!私に恥をかかす気!!」」
小さくても侯爵夫人の母だった。
婚約式とは言っても我々両家だけだ。婚約の本書類にサインして結婚式の日取りを決める。
「母上…その…アリアンジュは…」
情報通の母ならアンジュに男が居るとか、婚約を嫌がってるとか…聞いた事ないだろうか?と聞こうとするととんでもない返事を返される。
「それと、ダリ!貴方娼館に行ったんだって?なんでこっそり行かないのよ!会う人会う人に「男色じゃ無くて良かったわね~」って言われるし。男色ってどう言う事?貴方王都で何してたの!」
俺は膝から崩れ落ちた。
****
母の誤解を解く為に5回くらい同じ事を説明し、何とか納得してもらい、漸く湯を溜めた風呂に入り一息付いた。風呂も小さくなってる…じゃ無くて俺が育ってるのか。足が収まらん。当主になる前に大きいやつに替えないとな…
持って来た服に袖を通し食堂に向かう。長い廊下を歩きながらふと、アンジュもこの夜空を眺めているだろうか、なんて考えたり…かなりナイーブになっている様だ。明後日には彼女に会わねばならない。ゴード伯爵領に訪れたのは確か5ヶ月前。少し間が空いてしまった。
彼女に会ってしまったら俺は冷静でいられるだろうか。適切な判断が出来るだろうか。好きな奴がいたら…ちゃんと身を引けるだろうか。
図体ばかりデカくなって…俺はまだ子供みたいにウジウジしているのだ。いや、子供の時の方が決断力があったくらいだ。
「虫除けで我慢しとけよ…俺は彼女に似合わない。そうだろ?」
選ばれない。その時を想定して一生懸命自分を慰める自分が空悲しかった。
食堂に着くと父と母が既に席に座っていた。久々に自領地料理に舌鼓を打つ。王都から馬車で3日。俺なら1日。広くはないが温泉が沸き暖かい領地だ。小さな銀鉱山もある。穏やかに過ごすなら良い場所だ。堅苦しい礼儀作法も家族だけなら要らない。食事をしながら団欒を楽しんだ。
次の日は朝早くから街に連れ出され、採寸後数店の衣料店のお針子総出で俺の礼服とシャツなどの普段着や下履き等作り始めた。制限時間は日暮れまでと無茶振りを課し、銀職人の元を訪れる。宝石や石を持ち込むと好きなデザインでアクセサリーを作ってくれ、酸化しない様に簡単な保護魔術を掛けてくれる。そこまで高価では無いので広く平民の間で親しまれている店だ。かく言う俺も何度かアンジュにピアスやアンクレット等プレゼントしたものだ。
今日はオパールを持って来た。大粒で光を当てるとピンク色が煌めく物を選んだ。もしかしたらこれが最後のプレゼントになるかも知れない。だから想い出の銀細工をアンジュ渡したかった。
そして日が傾く頃には俺の礼服とアンジュへの銀細工の土産と普段着、真新しい下履きを沢山手に入れた。特に礼服を頼んでいた職人達はグッタリと椅子に突っ伏している。領主の息子の突然の無理難題を聞いてくれる良い領民だ。代金は多めに色を付けておいた。
明日はとうとう決戦…じゃなくて決断の日だ。
……きっと眠れないだろうな…
****
魔術書を読んでいる間に朝が来てしまった。腹を括り礼服に着替える。刈り上げた短い赤い髪を軽く撫で付けクラバットを結んだ。黒革のロングブーツを履き込む。因みに俺の足裏サイズは34㌢だ。
飾りなどは椅子に乗った侍従に任せて特大の姿見を見る。
デカイな俺…しかも礼服を着ると更に威圧感が増す気がするんだが…今更か…
改めて少しシュンとして朝食後、侯爵夫妻は馬車に。俺は帯剣をした後コートを羽織、馬車の護衛数名を従え自分の馬でゴード伯爵領を目指した。馬車に合わせて走る事1時間。林道に差し掛かった道で凄い勢いで一頭の馬がこちらに走って来る。サッと剣を抜き様子を見ると馬の背に血に濡れた男の姿が。馬車を止め、待ち構えてみる。するとそれに気付いた男が眼前で馬を止めた。
「ハアハアハア…赤い髪…大きな身体…貴方は…リダリオス様…ですか?」
「! いかにも。俺はリダリオス・バンス・ローザンテだ。君は?」
「ゴード伯爵家の当主ランザード・マハラン・ゴード様の侍従でラントルと申します。大変です!お嬢様が…」
「何?アンジュに何かあったのか!」
「賊に…いや、隣の領地に居を構えるヤボイヌ伯爵に朝方襲撃されて…魔術剣士や魔術士までも引き連れ屋敷の防御魔術陣を打ち破りお嬢様を連れ去りました!」
「な、なんだと!なぜ…まさかちょっかい出してる貴族ってのはそいつか!」
「そうです。お嬢様を着け狙い、求婚を迫っていました。その……リダリオス様が『男色』…だから結婚など意味は無い、と…かなり強気で来られていて…」
「がぁ~~~~~またそれか!!」
「今日は侯爵様がおいでになる日だからと防御魔術陣を弱められたのです。その隙を狙われ…私はこの事を伯爵様よりリダリオス様に伝える様にと速馬に乗り参りました。リダリオス様、どうかお嬢様を…」
「…分かった。兎に角君は手当をしなさい。おい、この人を頼む。父上、俺は先に参ります。後は宜しくお願いします」
「あ!おい、リダリオスーー」
もう、何も聞こえなかった。唯、アンジュへと目指して馬を走らせる。
俺の意識はそれだけに集中していた。
「…闇よ…探索せよ」
剣を鞘に入れたまま手を当て魔力を込めながらアンジュを思い浮かべる。この剣の鞘はアンジュがくれたものだ。俺に手渡す時に一度は触っている。
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