付く枝と見つ

羽上帆樽

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第6部 tsu

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 月の内部を城の回廊だと思っている内に、辺りは本当にその通りになってしまった。人は、自分が思っている方に向かうらしい。思うということが、いわばコンパスのように機能するようだ。ただし、コンパスは、大まかな方向を示すだけで、一点を示すわけではない。だから、イメージしたことが、そのまま現実になるわけでもないのだろう。

 周囲は、シロップが想像していたほど、明るい雰囲気ではなかった。灯っている明かりが少ないからだけではない。本質的に暗いようだ。埃が舞っているような感じ、あるいは、物質の一部が溶け出して、空気と同化し、物体の輪郭をぼやけさせているような感じだった。

 回廊の先には広間があり、その広間の両側に半円状の階段がある。階段は二階へ続いていたが、その先がどうなっているのかは、暗くてよく見えなかった。

「不思議な所」

 呟いた声が反響することで、空間の広さが少し分かった。しかし、分かったところで、どうということもない。むしろ、分からない方が面白いのではないか、とさえ思う。思う主体はシロップであって、デスクではないが、もしかすると、もう、両者の区別は必要ないかもしれない。

「フシギトイウノハ、モノノセイシツカ、ソレトモ、ヒトノハンダンカ、ドチラデショウカ」

「さあ、どちらでしょう」シロップは首を傾げる。長い髪が揺れた。「どちらでもあるような気がする」

 分厚い絨毯の上を一歩踏み出してみる。一歩踏み出すと、踏み出した、という感じがした。そうすると、もう一歩踏み出してみたくなる。

 シロップは、前へ前へ踏み出していく。

 しかし、前はもうない。

 左右に続く階段のどちらかを選んで、上に進まなければならない。

「右と、左と、どちらを選ぶべきかな」

「オゾウサマノキキテハ、ドチラデスカ?」

「何? お蔵?」

「マチガエマシタ。コンピューターダッテ、マチガエルノデス」

「それ、もはや、コンピューターって、いえるのかな」

「ソレデ、ドチラデスカ?」

「分からない」シロップは首を振る。「暫く思い出していなかったから、忘れてしまった」

 シロップは左の階段を上っていく。どちらを選んでも、行き着く先は変わらない。ここで、変わらないから、右は左で、左は右だ、とする、その考え方を延長した先に、科学がある。

 階段を上ると、階段を上った、あるいは、少し高い所に来た、という感じがした。ここで、その感じというのは唯一無二のもので、類型は認められるものの、その感じを得ているのは今だけだ、とする、その感じ方を延長した先に、芸術がある。

「ジュウヨウナコトデスカ?」デスクが尋ねた。

「重要なこと」シロップは答える。「でも、どちらも重要だから、特に優劣をつけるようなことでもない」
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