付く枝と見つ

彼方灯火

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第7部 shi

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 城というのは、しかし、変な場所だと、シロップは思う。何のためにこれほど大きな建物が必要なのだろう、と疑問に感じるのだ。大きければ大きいほど良いというのは、いわば小学生流の考え方で、大きければ大きいほど、デメリットも増える。たとえば、掃除をするのが大変になる。

「おそらく、新しい世界を作りたかったんだろうな」シロップは歩きながら言った。

「ドウイウイミデスカ?」

「これほど大きくて、広ければ、この建物の中を一つの世界として認識できるでしょう?」

「ナルホド」

「貴族は、もしかすると、最終的には、世界そのものの掌握を目指していたのかもしれない。だけど、その前に、世界の一部であれば確実に掌握できるということを、体感として得たかったんだと思う」

 階段を上った先には、廊下が延々と続いている。巨大な蝋燭が左右の壁に一定の間隔で並び、シロップが一歩進むに連れて、その位置に対応する蝋燭に火が灯った。背後を振り返ると、灯った火はそのままになっている。蝋燭が尽きるまで燃え続けるつもりだろうか。

 つもりというのは、誰のつもりだろう?

「それは、もちろん、私のつもり」

 前方から声がして、シロップは視線を正面に戻す。

 暗い廊下の先に誰かが立っていた。

「誰?」シロップは尋ねる。

「誰でもない」声の主は答えた。

 現れたのは、シロップと同じ姿をした人形だった。人形だから、シロップとまったく同じではない。けれど、自分って、もしかすると、人形なのではないか、という気がシロップは前々からしていたから、本当に違うかと問われれば、自信を持って答えられそうになかった。

「何をしているの?」シロップは尋ねる。

「何も」人形は答えた。近くで見ると、皮膚の所々がつぎはぎになっていて、ちょっとした拍子に目玉が落ちてしまいそうだった。「せっかく来たのだから、案内しましょう」

 人形は前に手を向ける。

 闇に吸い込まれるように、それは先へ行ってしまう。

 シロップの場合とは違って、人形が歩いても蝋燭に火は灯らなかった。だから、すぐについていかないと、見失ってしまいそうだった。それらの蝋燭は、人形の、つもり、で灯っているらしい。人形、そのもの、で灯っているのではない。しかし、その、つもり、というのは、人形の一部として捉えられる。どうやら、人形はそういうつもりのようだ。
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