付く枝と見つ

彼方灯火

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第11部 fu

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 布団の中で目を覚ました。奇妙な汗を掻いている。毛布に包まれて暑いはずなのに、汗が冷えて寒気がした。枕もとに置いてある目覚まし時計を手に取って見ると、デジタルの表示は午前三時を指していた。

 自分がどれくらい眠っていたのか、シロップは分からなかった。何時に布団に入ったのか覚えていない。すでに二十四時間以上経過している可能性もあった。

 布団から身体を起こして周囲を見渡す。部屋の中は真っ暗だった。カーテンの隙間から光が入ってくることもない。街灯が落ちているのだろうか。ただ、一つだけ、机の上に置いてあるデスクの表面が、赤く小さく点滅していた。危険信号ではなさそうだ。それほど強烈な光ではない。

 彼女が目を覚ましたのに、デスクは何も声をかけてこなかった。きっと彼も眠っているのだろう。

 起き上がると妙にふらふらした。喉の奥が痛い。粘膜が剥がれるようだ。手も、足も、指先の感覚が薄く、反対に平の部分だけ妙に空気を感じていた。歩くと変な感覚がする。まるで、凍った湖の上を歩いているようだった。一歩進んでも、進んだという感じがしない。いつか穴が開いて崩れてしまいそうな不安がある。

 階段を下りている途中で足を踏み外して、垂直方向に数メートル落下した。

 痛い、とすら感じない。

 ただ、落ちた、と感じるだけ。

 今さらながら、自分の体調が優れていないことを自覚する。何が原因だろうかと考えてみたが、何も思いつかなかった。そういう意味では、あらゆることが原因のように思える。もしかすると、デスクと話したことが原因かもしれない。恋の病というのは、こういうのを言うのだろうか。

 何を考えているのだろう?

 可笑しくて、一人で笑った。

 キッチンに入り、冷蔵庫の中からお茶が入ったボトルを取り出して、グラスに注いでそれを飲んだ。冷たい感覚は、たしかに生じた。身体の中を液体がするすると通り過ぎ、接触面の熱を微量ながら奪うのが分かる。

 外に出ようと思った。

 そうだ。

 ここにいてはいけない。

 ルンルンに会いに行かなくては……。

 靴を履いて、寝間着のまま玄関のドアを開ける。

 その向こう。

 彼女はすでにそこにいた。
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