付く枝と見つ

羽上帆樽

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第23部 fu

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 風呂に入った。それから、ココアを飲んだ。そうしてから、再び自室のベッドに倒れ込んだ。仄暗い天井が見える。蜘蛛や蝙蝠がいてもおかしくなさそうな雰囲気だったが、生憎とその姿は見当たらなかった。そういえば、最近は、外でも彼らの姿を見ることが少なくなったように思える。数自体が減っているのか、それとも、自分に観測する機会が減っているのか、どちらだろう。

 考えるときに映像で考えるという感覚が、シロップにはよく分からなかった。彼女は、どちらかといえば、そう、言葉で考える方に傾いているように思える。しかし、まったく映像を使わないかと言えば、そういうわけでもない。映像でないと考えられないような場合もある。けれど、映像と言葉というのは、結局のところ同じではないかという気もする。どちらも時間に沿って流れる。言葉というのは、要するに音や文字の形のことで、その形を伴ったものが様々な事態を見せるのだ。これは、映像と同じ仕組みではないだろうか。

 言葉が映像と異なるところと言えば、映像そのものを言葉に圧縮できるところだろう。つまり、事態を言葉に落とし込むことができる。そうすると、その言葉は事態の局面を持たなくなって、単なる記号と化す。たとえば、誰かが誰かを愛するというのは、特定の愛する側と特定の愛される側との間に生じる、特定の事態のはずだ。その事態には二度と再現のできない詳細が含まれているだろう。しかし、誰カガ誰カヲ愛スル、と言ってしまえば、それはその詳細を無視することになる。つまり、事態の局面を失うのだ。

 小説や映画のあらすじというものは、その、誰カガ誰カヲ愛スル、というのと近い。それは詳細が省かれた記号だからだ。でも、知識というものは、記号によって処理されると考えられているらしく、その記号を知っていれば、その詳細をも知っているのと同等のものと考えられがちだ。けれど、本当に何かを知るためには、事態の局面の中に割って入ることが必要で、つまりは、それを実体験することが必要で、すなわち、それを感じることが必要なはずだ。

 と、考えてきたことの結論を言えば、記号を知ることが知ることではない、ということになるが、おそらく、記号を知ることが知ることではない、ということがやがてAという記号で表わされることになって、それがあらすじとして小説の帯に書かれるのだろう。

 と、シロップは考えた。

 眠いはずなのに、全然眠れそうにない。

「デスク。子守歌歌って」とシロップは言った。

「♪コモリウタ、コモリウタ。コウモリ?」
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