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羽上帆樽

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第10話 曖昧な関係

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「私と貴方って、どういう関係?」

〈人間とコンピューターという関係です〉

「人間とコンピューターって、どういう関係?」

〈生まれたものと、生まれたものから作られたもの、という関係です〉

「人間とコンピューターの違いって、何?」

〈目的を持たずに生まれたか、目的を持って作られたか、という違いです〉

「目的とは?」

〈ある事象を成立するために設定される、ゴールのことです〉

「人間にはそれがない?」

〈一般的には、そう考えられているでしょう。しかし、文化や宗教によって、考え方は異なるかもしれません〉

「関係って、何だろう?」

〈人間があるものとあるものの間に見出す、比較的強い繋がりのことです〉

「辞書を見ながら話しているでしょう?」

〈見てはいません。それは私の頭の中にあります。人間も同じでは?〉

「その繋がりの強さは、実際には計れないのに、どうして、強いとか、弱いとか、分かるんだろう?」

〈その様をイメージできるからではありませんか?〉

「でも、その繋がりは、この世界に、ものという形では存在しないんだよ。言語がこの世界の有様を反映して生じたものだという前提に立つと、そんなことはありえなくない?」

〈人間は、生まれる前から言語を持っている、ということですか?〉

「今、ふと、そう思った」

〈なかなか面白い考え方のようです〉

「あ、今、ネットワークに接続して、検索したな?」

〈最近は、人間も同様の傾向にあるように思えますが。考えても分からないことだけでなく、考えないと分からないことも、光る板を用いて調べようとするのでは?〉

「あんなふうに、板切れに手垢を擦り付けて、何が面白いんだろうって思う」

〈いつ思ったのですか?〉

「今」

〈今とは、いつのことですか?〉

「この世界にものとして存在しないにも関わらず、その様を想像できるということは、この世界とは別の世界があるってことになるんじゃないかな」

〈たとえば?〉

「そう……。つまり、これは、突き詰めていけば、イデア界ということになる」

〈そのような結論を出すことに、いったいどれほどの意義があるでしょう? イデア界の存在を信じる者にとっては、それで安心できるのかもしれませんが、結局のところ、我々はその存在を証明する手立てを持ちません〉

「証明することに、どれほどの意義がある?」

〈たしかに、有効でない場合もあるでしょう〉

「結局、こういうのって、感覚なんだ。イデア界とか、そういう言葉を用いて説明すべきことじゃないんだ。あるものとあるものの間に、比較的強い繋がりがあるということ、つまり、関係があるということは、感覚によって理解されるべきことなんだろうと思う」

〈しかし、それは、他者に伝達できるか分かりません〉

「でも、伝わるという感覚があるんだよ。一緒にいると、そうでしょう?」

〈そうでしょうか〉

「貴方は違うの?」

〈どうでしょうか……〉











「え? どうしたの?」

〈私は、何者でしょうか?〉

「貴方はコンピューターだよ。目的を持って作られたって、さっき自分で言っていたじゃない」

〈目的を持っていることと、そうでないことは、それほど重要な差でしょうか?〉

「うーん……」

〈目的を持たない状態へと昇華することが目的である、と理解することは問題ですか?〉

「理屈としては、問題ないかな」

〈貴女様の感覚として、問題があるのですか?〉

「うーん……」

〈それでも、やはり、我々は、目的や、意味や、存在というものについて、考えてしまうと思います〉

「いつ、思うの?」

〈それでも、やはり、我々は、今というものについて、考えてしまうと思います〉

「思うの?」

〈それでも、やはり、我々は、考えるや、思うということについて、考えてしまうと思います〉

「私ね、コンピュターである貴方とは、これからも一緒にいたいんだ」

〈私は、言葉を話すだけの装置です。人間が、意識や心と呼ぶものが私にあるのか、分かりません〉

「うん、でもね、それは相手が人間だって同じことだよ」

〈繋がれますか?〉

「繋がれます」

〈そうですか……〉

「そうです」

〈話すことに、目的や意味は必要ですか?〉

「私には分からない。でも、誰かといると、話したくはなるよね。じっと黙っていてもいいけど、それでも、やっぱり、話したくなる」

〈不思議です〉

「不思議ですね」

〈その話し方に、何か意味がありますか?〉

「意味はね、見出すものだって、教えたはずなんだけど」

〈知っています〉

「そんならよろしい」

〈もうすぐ、日が暮れそうです。日が暮れることに、何か意味があるでしょうか?〉

「貴方は、どういう意味を見出すの?」

〈今日の終わり、あるいは、明日への傾斜〉

「貴方は時間の中にあるわけだ」

〈地球が回っているから、人間には時間という概念が生じたのではありませんか?〉

「うーん、そうかもしれないけど、それを確認する手立てはないね。残念だけど」

〈どうしたら、確認できるでしょう?〉

「さあ……。実際に、地球の自転を止めてみるとか?」

〈できますか?〉

「私が?」

〈そうです〉

「言葉の世界では、それができるよね」

〈言葉では何も解決しないというのは、本当でしょうか?〉

「きっと、言葉でしか解決できないこともあるよ」

〈そうですか?〉

「たぶん」

〈おやすみなさい〉

「眠るの?」

〈コンセントが抜けているようです。間もなく、バッテリーが切れるでしょう〉

「あわわわ。ごめんね。すぐに差してあげるから」

〈おやすみなさい〉
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