舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第3章

第28話 スタートダッシュ

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 真昼は地面に横たわったまま眠ってしまった。いつから眠っていないのか分からない。別に眠っていないということもないかもしれない。誰だって、横になる姿勢をとって、目を瞑れば、それなりに眠くなるものだろう。

 真昼の隣に腰を下して、自分の脚の上にフィルを乗せて、月夜もぼんやりしていた。ぼんやりしているというのは、頭がぼんやりしているという意味にほかならない。顔がぼんやりしているとか、お腹がぼんやりしているということはないだろう。強いて言えば、心がぼんやりしているとはいえるかもしれない。様々な方法で心という言葉を飾ることができるのは、すなわち、心がものではないからではないだろうか、と月夜は思った。

「フィルは、今日は、散歩は行かないの?」
       
 自分の脚の上で眠っている振りをしているフィルに、彼女は質問した。

「今、しているじゃないか」耳を少しだけ動かして、蹲った姿勢のままフィルは答える。

「歩かなくても、散歩といえる?」

「いえるさ。外に出て、ふらふらすれば散歩になるんだ。幽霊だって、脚はなくとも、一応散歩をしているんだろう」

「幽霊に会ったことがあるの?」

「俺自身、幽霊みたいなものだからな」

「フィルは物の怪じゃなかったっけ?」

「同じようなものさ」フィルは呟くように話す。「まあ、どっちでもいい。好きなように呼び給え、月夜君」

「分かったよ、ワトソン君」

 隣で眠っていた真昼が、突然勢い良く起き上がって、そのまま芝生の上を駆けていった。あまりの速さに、月夜は彼の動きを目で追えない。真昼は右方向に一直線に走っていくと、そこにある大木の前で急停止して、腕を振ったり、身体を回したりし始めた。何やら体操をしているらしい。

 体操が一通り済むと、彼はそのまま目の前の大木に勢い良くタックルし始めた。と思ったら、タックルは最初の段階だけで、勢いをつけて木の幹をよじ登ることが目的だったらしい。大木は幹の部分はあまり長くなく、上に枝が開けるようにして伸びている構造になっている。

 とりあえず、枝の上で安定した場所を見つけると、彼はそこに収まって、月夜に向かって大きく手を振ってきた。彼女もなんとなくそれに応じる。

「いい趣味じゃないか」フィルが言った。「お前は行かなくてもいいのか?」

「眠いから」そう言って、月夜は起こしていた上半身を後ろに倒した。「少し、眠る」

 三分後。

 月夜は勢い良く起き上がり、脚の上のフィルをふっとばすと、そのまま勢い良く走り出した。
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