舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第7章

第61話 座談会

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 休日になった。

 いつも通りの時間に起きて、いつも通りに勉強して、それから、いつもとは少し異なり、月夜はトーストを一枚食べた。食事をするのは一週間振りくらいだ。それでもものの食べ方を忘れているということはなかった。一度自転車に乗れるようになれば、乗り方を忘れることがないというのと同じだろうか。

 一週間前と同じように、月夜は今日も小夜の所に行くつもりだった。フィルに誘われたわけではなく、自分からそうしようと思ったのだ。そうした方が安全だと考えたからだった。色々と小夜に確認しておいた方が良いと考えたのだ。

 玄関の外に出ると、今日は日差しが強かった。ぽかぽかと温かく、如何にも春らしい陽気だ。

「散歩をするには、絶好の天気だな」

 フィルの言葉に対して、月夜は素直に一度頷いた。

 公園を通って山道を上っていき、少々靴を泥で汚しながら、二人は山の頂上に辿り着いた。そこに例の社がある。しかし、今日は前に来たときとは違って、すでにその前に小夜の姿があった。呼び出す前に現れたようだ。

「おはようございます」

 二人が来たのに気がついて、小夜が挨拶をしてくる。月夜はそれに応じて、彼女の隣に腰を下ろした。

 フィルは月夜の腕の中から抜け出して、小夜の膝の上に座った。普段はあまり堪能できない状況だから、それを最大限に活かそうと思ったのかもしれない。

「こちらでは、いい天気ですね」小夜が言った。

 彼女を見て、月夜は応える。

「そちらでは、いい天気ではないの?」

「いいえ、そんなことはありません。向こうでも天気はいいです」

「小夜は、花見をしたりするの?」

「うーん、私はあまりしませんね……。何かをしながら別のことをするというのが苦手で……。花を見ながらご飯を食べるよりも、ご飯を食べ終わってから、ゆっくり花を見るのがいいと思ってしまいます」

 その感覚は月夜にもなんとなく分かった。ただ、どちらでも良いようにも思えた。大した違いはないのではないか。

「訊きたいことがあって、ここに来た」月夜は話した。「物の怪に関すること」

「ええ、何でも訊いて下さい」

「この前、物の怪と思わしきものと遭遇した。フィルは、まだ、あれは物の怪になれていないと言っていた」

「物の怪だという自覚がない内は、そうでしょうね」

「まだ、猶予がある、ということでいい?」

「ええ、そうです」小夜は小さく笑った。「猶予がある内に、準備をして、余裕を作るのがいいでしょう」
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