76 / 255
第8章
第76話 帰宅:放課後直後
しおりを挟む
学校に残らず、家に帰ることにした。
ほかの生徒と一緒に下校するのは、高校に入学してから初めてだった。一緒といっても、特定の誰かと一緒に帰るわけではなく、周囲に複数人いる中に混ざって駅へと向かうだけだ。いつもとは違う行動だから、もう少し目新しい感じがするかもしれないと思っていたが、やってみると案外普通だというのが素直な感想だった。
バスロータリーまで来たところで、フィルと出会った。
「どうして、こんな時間にここにいるの?」
フィルを抱きかかえて月夜は尋ねる。
「なんとなく」彼は簡潔に答えた。「月夜が、今日は早く帰るかもしれない、と思ったからかな」
バスには乗らずに大通りを歩くことにした。こちらの大通りは月夜の自宅の傍にあるものよりそれっぽく、しかし、その大通りとも繋がっている。したがって、こちらは大通りの大通りという感じになる。右にも左にもずっと真っ直ぐ続いているが、どこまでその先に向かうことができるのか、月夜は知らない。
途中で今まで歩いていた大通りから、自宅から伸びる大通りに入って進んだ。左右には基本的に住宅街が広がっているが、通りに面している部分には店舗が並んでいる。近代的なコンビニエンスストアから、少々風情のある喫茶店、花屋や蕎麦屋など、多彩な顔ぶれが並んでいた。それなりの歴史のある街らしい。
午後の陽光が眩しかった。なんとなく、気怠げな色の光に見える。けれど、それで月夜が気怠げになることはなかった。それなのに、その色を気怠げと表現することができるのはどうしてだろう。
「以前、散歩でここまで来たことがある」月夜の腕の中でフィルが言った。「そのときも、今日みたいに月夜を迎えに行こうと思ったんだ。でも、やめてしまった」
「なぜ?」
「月夜に会えないと思ったからだ」
事実として、月夜がこの時間帯に帰るのは今日が初めてだ。だから、そのときフィルが学校まで来ていても、今日みたいに上手く彼女に会うことはできなかっただろう。
「それから、どうしたの?」月夜は歩きながら質問した。
「どうしたって、何がだ?」
「引き返して、帰ったの?」
「まあ、そうかな」フィルは答える。「途中で、喫茶店に寄って、ミルクを一皿分けてもらったが」
自動車が絶え間なく走り続けている。
人間は移動する。一箇所に留まらない。
そして、自分も移動している。
さらに、地球も回っている。
もともと移動している物体の上で、さらに移動している。自分が移動する様を宇宙地図に描いたら、どんな軌跡になるだろうか。
ほかの生徒と一緒に下校するのは、高校に入学してから初めてだった。一緒といっても、特定の誰かと一緒に帰るわけではなく、周囲に複数人いる中に混ざって駅へと向かうだけだ。いつもとは違う行動だから、もう少し目新しい感じがするかもしれないと思っていたが、やってみると案外普通だというのが素直な感想だった。
バスロータリーまで来たところで、フィルと出会った。
「どうして、こんな時間にここにいるの?」
フィルを抱きかかえて月夜は尋ねる。
「なんとなく」彼は簡潔に答えた。「月夜が、今日は早く帰るかもしれない、と思ったからかな」
バスには乗らずに大通りを歩くことにした。こちらの大通りは月夜の自宅の傍にあるものよりそれっぽく、しかし、その大通りとも繋がっている。したがって、こちらは大通りの大通りという感じになる。右にも左にもずっと真っ直ぐ続いているが、どこまでその先に向かうことができるのか、月夜は知らない。
途中で今まで歩いていた大通りから、自宅から伸びる大通りに入って進んだ。左右には基本的に住宅街が広がっているが、通りに面している部分には店舗が並んでいる。近代的なコンビニエンスストアから、少々風情のある喫茶店、花屋や蕎麦屋など、多彩な顔ぶれが並んでいた。それなりの歴史のある街らしい。
午後の陽光が眩しかった。なんとなく、気怠げな色の光に見える。けれど、それで月夜が気怠げになることはなかった。それなのに、その色を気怠げと表現することができるのはどうしてだろう。
「以前、散歩でここまで来たことがある」月夜の腕の中でフィルが言った。「そのときも、今日みたいに月夜を迎えに行こうと思ったんだ。でも、やめてしまった」
「なぜ?」
「月夜に会えないと思ったからだ」
事実として、月夜がこの時間帯に帰るのは今日が初めてだ。だから、そのときフィルが学校まで来ていても、今日みたいに上手く彼女に会うことはできなかっただろう。
「それから、どうしたの?」月夜は歩きながら質問した。
「どうしたって、何がだ?」
「引き返して、帰ったの?」
「まあ、そうかな」フィルは答える。「途中で、喫茶店に寄って、ミルクを一皿分けてもらったが」
自動車が絶え間なく走り続けている。
人間は移動する。一箇所に留まらない。
そして、自分も移動している。
さらに、地球も回っている。
もともと移動している物体の上で、さらに移動している。自分が移動する様を宇宙地図に描いたら、どんな軌跡になるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる