舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
226 / 255
第23章

第224話 沿い

しおりを挟む
 昼休み。

 休み時間というものは、あるようでない。しかし、昼休みは別だ。昼休みはある程度の時間が確保されているので、なんとか「休み」と呼べるように思える。授業と授業の間にある休み時間は、次の授業のための準備をするためにある。つまり、準備をしているのだから、「休み」とは呼べない。

 外気に晒された渡り廊下の上で、月夜は柵に凭れて立っていた。いつもそうだが、目の前には景色があるものの、だからといって、それを見ているとは限らない。月夜は、今は自分の手に収まっている、千切れた葉を眺めていた。葉といっても、双子葉類に見られる如何にも葉という感じの葉ではなく、茎と葉の境界が分かりにくい、細長いタイプのものだった。こうした葉を何と呼ぶのか、彼女は知らない。放課後に図書室で調べてみるのも良いかもしれない。

 茎、と思われる部分を手で持って、何度かくるくると回してみる。そうしていると、多少安定するように思えた。安定する、の主語が何かは分からないが、とりあえず、何かが安定していると分かるから、それによって、彼女の精神も安定する。

 午後だから、頭の上に太陽がある。外だから、蝉の声がよく聞こえた。少しだけ、汗ばむようにも思えたが、水分が滴となって体表面へ現れることはなかった。運動をすればそうはいかないかもしれない。この季節に汗を流していない運動部を、彼女は知らない。

 風が吹いてきて、少しだけ気持ち良く感じられた。しかし、それだけだ。けれど、それだけで良い。気持ち良く感じられることが、人間にとって何よりも利になる。反対にいえば、気持ち良く感じられる、という条件なしに行われる営みというものはない。我慢は、それをしている最中は苦しく感じられるが、終わったときには気持ち良く感じられる。我慢すること自体が気持ち良く感じられる者もいるかもしれない。

 勉強をすることは、気持ちが良いだろうか?

 おそらく、気持ちが良いだろう、と月夜は結論づけた。実際にそう感じているからだ。

 ご飯を食べることは、気持ちが良いだろうか?

 これは、間違いなく気持ちが良いだろう。

 予鈴が鳴って、月夜は現実に意識を向ける。現実とは、教室に戻って、授業を受けるという予定。ここから飛び降りて教室に向かうこともできるが、怪我をする可能性が高いから、きちんと渡り廊下の出入り口から彼女は校舎に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...