【完結】初恋は淡雪に溶ける

Ringo

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side☆メリル

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「あら、いつの間にやんだのかしら」


身も凍るような寒さの中に出れば、何かしら変化や進展が生まれるかもとふたりを送り出した。

アンジェリカに自覚はないようだが、昔から何かとエメットの姿を探して視線をさ迷わせ、姿が見えれば嬉しくて堪らないという表情を見せることにメリルは気付いている。

特にシズルへ向かう道中からはそれが顕著となり始め、到着してからは常に近い距離。

エメットの心中ではダンスパーティーが連日連夜開催されている事だろう…と予測していた。


「きっと凍えてお戻りになるわ」


暖炉に薪をくべて火を焚き、冷えているであろう手を温める為の蒸しタオルを用意する。

他の使用人達と阿吽の呼吸で動き、着々と出迎えの準備を進めていると、ふたりは帰宅した。




エメットのポケットに手を入れて。




「……お帰りなさいませ?」

「メリル、どうして疑問形なの?」


おかしな人ね…と笑いながら、片手使いのエメットに帽子やマフラーを外してもらい…名残惜しそうにポケットから手を出す。

繋いだまま。

──あら?これって予想を上回る展開じゃない?

──旦那様!!エメットがやりやがりましたよぉ!!


メリルの脳内もパーティーが開催された。

しかもアンジェリカは離れる手を見つめ、寂しそうにエメットを仰ぎ見ながら「離したくないわ」とまで呟き、それを受けたエメットは「でも外套は脱がないと」と言いつつ嬉しそうに笑って…

額に口付ける様子に、メリルのみならず他の使用人も一同茫然。


──お姉ちゃん、そこまで許していないわ!!

──でもお嬢様が幸せそうなので邪魔はしない。

──お嬢様の幸せ、コレ、絶対。


ひとり脳内会議を開いてウンウン頷く。


「メリルさん、温かいタオルはある?」

「ございますよ」


既に用意しておいたものを差し出せば受け取ったのはエメットで、アンジェリカの両手を包むようにして覆い暖炉脇のソファーへと促した。


──やだっ!!エメットが紳士を発揮してる!!


「温かいお飲み物をお持ち致しますね」

「ありがとう、メリル」


アンジェリカが零した心からの笑みに泣きそうになり、慌ててその場から離れた。

エメットが相手なら良かったのに…何度そう思ったか分からない。

だがアンジェリカは不貞を働く元婚約者を健気に慕い…優しく柔らかな心を傷付けられた。

メリルからすればアンジェリカの想いは初めからエメットに向けられていて、エメットもまたアンジェリカだけを見ていたのに。

いっそ駆け落ちでもしないかと考えた事もある。

勿論、ついて行く事が大前提だが。


「メリル、早く来て!!また雪が降り始めたわ!!」


エメットの腕に抱き着き、楽しそうに声を弾ませる様子に自然と顔が綻んでしまう。

夢にまで描いた光景がすぐそこにある。


「お嬢様、あまり窓に寄り過ぎると体を冷やしてしまいますよ」

「大丈夫よ。エメットが温かいから」

「メリルさんも雪祭りは一緒に行こう」


ふたりを“奥様”“旦那様”と呼べる日もそう遠くはないのだろう。

そう確信してメリルは目尻の涙を拭った。

早くに親を亡くし、その後唯一の肉親だった弟さえも失い路頭に迷っていた頃を思い出す…


『ねぇ、あなたひとりなの?わたしのおうちにくる?きょうはね、おじいさまがくるのよ』


太陽の光を背に立っていたアンジェリカはまるで天使のように輝き、差し出された手はとても温かかったのを覚えている。


『わたしアンジェリカ。あなたは?』


そして、その場には既にアンジェリカの側に付き添うエメットの姿があった。

あの日から変わらない、ふたりの絆。





「おめでとうございます」




小さく呟いた声はアンジェリカの明るい笑い声に消されて、窓の外に降る雪と共に溶けていった。




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