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運命の隣国 ※騎士side
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は?──と声を出しそうになり飲み込んだ自分を褒めてやりたい。一瞬何を言われているのか理解が追い付かなかった。
「婚約者がいることは話したんだがマリーベルがどうしてもと聞かなくてな…親バカと思われるだろうが、あの子は王女として作法やマナーも完璧に習得している。どこにやっても恥ずかしくない娘だ」
夜遅くに殿下と共に陛下の執務室に呼ばれて何事かと思えば、まさかの娘を娶ってくれという申し出だった。作法やマナーは完璧?婚約者のいる男に娶れと言うのは恥ではないのか?
「発言を宜しいでしょうか」
「あぁ」
為政者らしからぬ眉を下げた表情をしているあたり、娘の我が儘に困りながらもなんとかしてやりたいというところか。
「先刻お話しした通り、私には大切に思う婚約者がおります。貴族でなくなることも自身で決めたことですし、両親も納得した上で承諾してくれております。後悔は致しません。むしろ…彼女と結婚できないことの方が後悔すると断言できます」
思わず左胸のポケットに触れてしまう。道中の無事を祈り、刺繍を施してくれたハンカチがある左胸…そこに触れると、沸いていた怒りが少しだけ鎮まった気がした。
「貴族の嫡男として生きてきた其方が平民となることも心配しておった」
「相手と婚姻を望むようになった十の頃からいずれ籍は抜けるつもりで準備もしていたので、ご心配には及びません」
何が心配だ。自分の欲求を通したいが為に偽善者ぶっているだけじゃないか。
「…長年の付き合いのある相手だ。切れずとも許容できると申しておった」
「───っ!」
今度こそ抑えきれない怒りが沸いた。許容する?トリシアを愛人にすればいいと!?ふざけるな!
「愛人を認めるとは、流石王女ですね」
いかりのあまり黙り込んでいたら、それまで静かにお茶を楽しんでいた殿下が笑みを浮かべて目の前の愚かな父親に向き合った。
「陛下、私としても義妹となるマリーベル王女の恋は応援したいところですが、こればかりは認められません。オーランドと婚約者は深く愛し合っております故、仮に王女が嫁がれても肩身の狭い思いをするのは明白かと」
ホッと胸を撫で下ろした。殿下は稀に突拍子もない悪ふざけを仕掛けてくることもあるから、面白そうの一言で容認されるのではと心配していたが杞憂のようだ。
「オーランド達の仲は広く知られています。そこに突然隣国の王女が入り込むとなれば…ミレーヌ姫の評判にも影響しますよ?」
そりゃそうだ!と言ってやりたい。王太子妃の妹は人の婚約者を略奪…しかも権力を使ってだなど醜聞以外の何ものでもないのだから。
「それは…っ、確かにそうなのだがな」
賢王と聞き及んでいたのは間違いだったのだろうかと思うほど、目の前にいる国王は困り果てた様子で縋る目を俺に向けてくる。
「そこは…隣国へ赴き恋に落ちた、とでも」
今度こそ切り捨ててやろうと思った。殿下が強い嫌悪感を滲み出さなければ止まれなかったと、不敬を承知で溜め息を吐く。咎めたければ咎めればいい。いっそ殺してくれ。
「陛下、私とミレーヌ姫との婚姻にまで影響させる気ですか?」
不快感を露に、それでも笑顔を貼り付けたままの殿下の言葉の意味に愚王は顔色を悪くした。困らせるなら殿下との婚約を飛ばすと言われれば当然とも言えるだろう。
一応は政略的な意味を持つ殿下の婚姻も、元を辿ればミレーヌ王女の恋慕から始まったものだ。そう思うと、この国の王女は頭がお花畑なのか?と疑問を抱いてしまう。いや…ミレーヌ王女は博識で豪快な人柄と聞いているから、やはり末娘だからと甘やかされているだけだろうか。
「それはっ…いや、そうだな…バカな事を言って申し訳なかった。マリーベルにはしっかりと言って聞かせよう」
最初からそうしてくれ!と怒鳴りたいが、非公式とはいえ国王に頭を下げられたら飲み込むしかない。不愉快なことに変わりはないが。
「では、私達はこれで」
──────────
殿下と共に執務室を出て客間に戻れば、疲れが押し寄せてきてドサッと寝台に身を沈めた。この国の寝台は寝心地がいい。王宮のものだから当たり前かもしれないが、こんなフワフワした寝台でトリシアと過ごせたらと思ってしまう。
「トリシア…」
忍ばせていたハンカチを取り出せば、ふわりとトリシアが好む香水の香りがした。二ヶ月も香りが持つはずもないからと、荷物には香水自体も持参している。
「…会いたい」
まだ着いたばかりだというのに、余計な問題まで抱えそうになって気持ちが落ち着かない。こう言う時こそトリシアに会って抱き締めたいのに。
王女を娶れと馬鹿な事を言われ思ったよりも精神がやられていたのか、そう待たずして襲ってきた睡魔に抗うことなく目を閉じた。
瞼裏には愛しい人を思い浮かべて…
「婚約者がいることは話したんだがマリーベルがどうしてもと聞かなくてな…親バカと思われるだろうが、あの子は王女として作法やマナーも完璧に習得している。どこにやっても恥ずかしくない娘だ」
夜遅くに殿下と共に陛下の執務室に呼ばれて何事かと思えば、まさかの娘を娶ってくれという申し出だった。作法やマナーは完璧?婚約者のいる男に娶れと言うのは恥ではないのか?
「発言を宜しいでしょうか」
「あぁ」
為政者らしからぬ眉を下げた表情をしているあたり、娘の我が儘に困りながらもなんとかしてやりたいというところか。
「先刻お話しした通り、私には大切に思う婚約者がおります。貴族でなくなることも自身で決めたことですし、両親も納得した上で承諾してくれております。後悔は致しません。むしろ…彼女と結婚できないことの方が後悔すると断言できます」
思わず左胸のポケットに触れてしまう。道中の無事を祈り、刺繍を施してくれたハンカチがある左胸…そこに触れると、沸いていた怒りが少しだけ鎮まった気がした。
「貴族の嫡男として生きてきた其方が平民となることも心配しておった」
「相手と婚姻を望むようになった十の頃からいずれ籍は抜けるつもりで準備もしていたので、ご心配には及びません」
何が心配だ。自分の欲求を通したいが為に偽善者ぶっているだけじゃないか。
「…長年の付き合いのある相手だ。切れずとも許容できると申しておった」
「───っ!」
今度こそ抑えきれない怒りが沸いた。許容する?トリシアを愛人にすればいいと!?ふざけるな!
「愛人を認めるとは、流石王女ですね」
いかりのあまり黙り込んでいたら、それまで静かにお茶を楽しんでいた殿下が笑みを浮かべて目の前の愚かな父親に向き合った。
「陛下、私としても義妹となるマリーベル王女の恋は応援したいところですが、こればかりは認められません。オーランドと婚約者は深く愛し合っております故、仮に王女が嫁がれても肩身の狭い思いをするのは明白かと」
ホッと胸を撫で下ろした。殿下は稀に突拍子もない悪ふざけを仕掛けてくることもあるから、面白そうの一言で容認されるのではと心配していたが杞憂のようだ。
「オーランド達の仲は広く知られています。そこに突然隣国の王女が入り込むとなれば…ミレーヌ姫の評判にも影響しますよ?」
そりゃそうだ!と言ってやりたい。王太子妃の妹は人の婚約者を略奪…しかも権力を使ってだなど醜聞以外の何ものでもないのだから。
「それは…っ、確かにそうなのだがな」
賢王と聞き及んでいたのは間違いだったのだろうかと思うほど、目の前にいる国王は困り果てた様子で縋る目を俺に向けてくる。
「そこは…隣国へ赴き恋に落ちた、とでも」
今度こそ切り捨ててやろうと思った。殿下が強い嫌悪感を滲み出さなければ止まれなかったと、不敬を承知で溜め息を吐く。咎めたければ咎めればいい。いっそ殺してくれ。
「陛下、私とミレーヌ姫との婚姻にまで影響させる気ですか?」
不快感を露に、それでも笑顔を貼り付けたままの殿下の言葉の意味に愚王は顔色を悪くした。困らせるなら殿下との婚約を飛ばすと言われれば当然とも言えるだろう。
一応は政略的な意味を持つ殿下の婚姻も、元を辿ればミレーヌ王女の恋慕から始まったものだ。そう思うと、この国の王女は頭がお花畑なのか?と疑問を抱いてしまう。いや…ミレーヌ王女は博識で豪快な人柄と聞いているから、やはり末娘だからと甘やかされているだけだろうか。
「それはっ…いや、そうだな…バカな事を言って申し訳なかった。マリーベルにはしっかりと言って聞かせよう」
最初からそうしてくれ!と怒鳴りたいが、非公式とはいえ国王に頭を下げられたら飲み込むしかない。不愉快なことに変わりはないが。
「では、私達はこれで」
──────────
殿下と共に執務室を出て客間に戻れば、疲れが押し寄せてきてドサッと寝台に身を沈めた。この国の寝台は寝心地がいい。王宮のものだから当たり前かもしれないが、こんなフワフワした寝台でトリシアと過ごせたらと思ってしまう。
「トリシア…」
忍ばせていたハンカチを取り出せば、ふわりとトリシアが好む香水の香りがした。二ヶ月も香りが持つはずもないからと、荷物には香水自体も持参している。
「…会いたい」
まだ着いたばかりだというのに、余計な問題まで抱えそうになって気持ちが落ち着かない。こう言う時こそトリシアに会って抱き締めたいのに。
王女を娶れと馬鹿な事を言われ思ったよりも精神がやられていたのか、そう待たずして襲ってきた睡魔に抗うことなく目を閉じた。
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