【完結】妻至上主義

Ringo

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番外編(本編登場人物のその後)

《正妃と側妃》後編

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※側妃の懐妊・出産があります。
苦手な方はご退出を推奨致します。









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初夜からふた月を後宮で過ごしたランドルフが王太子宮に戻って間もなく、従医から「側妃に懐妊の兆し有り」とヴィクトリアに伝えられた。


「殿下は後宮に向かわれるとのことです」

「分かったわ。正式に懐妊となったら、リストにしていたものを手配して頂戴」

「畏まりました」


本来なら今夜はヴィクトリアと過ごす予定となっていたが、体調を崩している側妃の元に向かうとの報せに表情を変えず了承する。


「殿下は御子を抱けるのね」


ふぅ…と息を吐く様子に周囲は心情を慮るが、本人は至って真面目に安堵しているだけ。

骨の髄まで“王族の義務”が刻まれているヴィクトリアにとっては、自ら推した側妃が懐妊してくれるならそれに尽きる。


「……少し休憩しましょう」


その言葉にお茶の準備が始まり、正妃付きの筆頭侍女以外が人払いされると、暫く黙っていたヴィクトリアがポツリと零した。


「……これからも変わらないかしら」


その呟きに侍女は優しく微笑む。


「殿下は真実ヴィクトリア様を愛していらっしゃいますよ」

「……そうね」


珍しく力ない笑みを見せる様子に、侍女はヴィクトリアの好物である桃をカットして差し出した。

自らも側妃腹の王女とあって、側妃という存在や役割に理解はしているが、ランドルフと過ごすうちに育った想いはとても大きなもの。


「側妃を推したのはわたくしだし、婚儀を迎えても平気だったのに…困ったわね」


側妃と閨を共にし子を儲けた…という事実が、思いのほかヴィクトリアの心に動揺を齎していた。

だからといってニコルに負の感情があるわけではなく、あくまでも夫に対する嫉妬と寂しさを感じているだけ。


「…………わたくしにも来てくれるかしら」


何年も膨らむことのない腹を撫でる主の姿に、侍女は何も言わずただ静かに控え続けた。






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その後、側妃ニコルの懐妊は確実となり、さすがのランドルフも産み月が近付くにつれソワソワと落ち着きがなくなる。

この頃には、ヴィクトリアも自分の感情をコントロール出来るようになっていた。

心情を敏感に察したランドルフから、深く慈しむ愛情を受けたことが心の安寧を齎している。


「もうすぐですわね」

「あぁ。男は待つしか出来なくて情けない」


初産…しかもお世継ぎという事もあり、不安を抱えるニコルの為に後宮での滞在が増えたが、様子を見ながらヴィクトリアとも過ごしていた。

側妃が懐妊した事で正妃の立場を危惧する者も多く、それを払拭するには寝室を共にするのが手っ取り早い。

“王太子が愛しているのは正妃ヴィクトリア”

この大義名分さえ守られれば、身重のニコルに良からぬ矛先を向けられる心配も減る。

その大義名分はランドルフの本意でもあり、変わらずに子を儲ける努力もしていた。

仮に側妃が男児を生んだあとで正妃が男児を生んでも、継承順位はあくまでも長子。

それ故、側妃に男児が出来ると正妃とは閨事をしなくなった者もいるが、ランドルフはヴィクトリアと子を純粋に欲している。


「明日からまた暫くは後宮に向かう」

「分かったわ」


骨の髄まで王族でも、やはり愛する男が別の女性の傍に行くとなると少なからず嫉妬が湧く。


「リア…愛してるよ」


変わらぬ愛情を全身で受け止め、夜があければ側妃の元へと送り出す。

いつか、注がれた種が実を結ぶことを夢見て。






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「ランドルフ殿下にご子息が誕生致しました」


産気づいたとの報告を受けてから半日、ひとり執務を行うヴィクトリアの元に届けられた慶事。


「そう。側妃が無事に務めを果たされたこと、わたくしにとっても快報だったとお伝えして」

「畏まりました」


人払いをして残ったのは侍女ひとり。

執務を中断して淹れ直されたお茶を含み、後宮のある方向へ視線を向けた。


「……暫くは戻らないわね」

「恐らくはひと月ほどかと」


出産が近いからと後宮へ行って半月。

側妃であるニコルに思うことはないが、やはり独り寝は寂しい…と思っていた。










「ご苦労だった」


我が子との対面を終えたランドルフは、その足で産後の処置を終えたニコルの元へ向かい労った。


「ありがとうございます。無事にランドルフ様の御子を生めて良かったです」


優しく頬を撫でられてふわりと微笑んだが、その表情には出産の疲れが見て取れる。

そして、どこまでも臣下である姿勢を崩さない矜恃を愛らしく思い、気遣いながら口付けた。

すると途端に頬を染めたニコル。

もう何度も交わしているし、繰り返した閨ではもっと大胆な事をしているにも関わらず、いつまで経っても明るい内の口付けには初心うぶな反応をするのは男心を擽られてしまう。


「まずはゆっくり休んで養生してくれ。もう暫くは後宮こっちで過ごすから、何かあれば呼んでくれて構わない」

「はい」


もう1度口付けを交わすとランドルフは部屋を出て行き、後宮内に設けられている執務室へと戻っていった。






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産後から3ヶ月が経過し、首の座った子供を連れてヴィクトリアを訪ねた。

その様子を周囲は複雑な心情で見守るが、当然ながらそれを表に出すことはない。


「よく来てくれたわね。体調は大丈夫?」

「はい。ゆっくり出来ましたので、体調に問題はございません。ヴィクトリア様、その節は沢山の祝い品を頂きありがとうございました。お礼が遅れまして申し訳ございません」

「いいのよ。さぁ、掛けてちょうだい」


温かな室内には、産後のニコルを慮ったお茶と菓子が用意されている。

そこに向かい合って座ると、ヴィクトリアの視線はニコルの後ろに控える乳母へと向けられた。


「……抱かせてもらってもいいかしら?」

「もちろんです」


この日の為に、ヴィクトリアは人形を使って赤子の抱き方を教わってきた。

乳母からそっと受け取り、不慣れながらも丁寧に優しく腕に抱く様子を、ニコルを始めその場の全員が「ほぅ…」と見つめる。


「可愛い…とても小さいのね。壊してしまいそうでこわいわ」


そう言いながらも指先を小さく握られた拳に触れさせれば、パシッと捕えられて微笑む。


「……殿下によく似てる」


少しだけ不安だった。

もしかしたら忌み嫌ってしまうのではないかと。

けれど実際に会ってみれば可愛くて、愛する人によく似た面立ちと同じ色の瞳に心は温かくなる。

愛する人が子を持てたことが素直に嬉しい。


「よろしくね、フィリップ」

「あぅ」


返事とも思える声をあげた王子フィリップは、握り締めていたヴィクトリアの指をパクリと咥え、楽しげにハムハムして涎をプレゼントした。











側妃ニコルはその後男児の双子を出産し、3人の子を持つ母となった。

のちに王太子となるフィリップを含めた3人の子供をヴィクトリアも可愛がり、ニコルとの関係は良好なものを築く。






そしてフィリップの誕生から5年後、双子が生まれてからだと3年後。

ランドルフと結婚して10年が経ち、変わらずに仲睦まじく過ごしていたヴィクトリアの体調に異変が起きる。


「ご懐妊でございます」


その吉報に誰よりも喜んだのはランドルフで、10年越しに叶った夢に狂喜乱舞状態。

呆然とするヴィクトリアを抱えてクルクル回る。


「でかした!!」

「殿下、お優しくしてくだされ」


医師に叱られ渋々おろすが、腰に回した手は頑として離さない。


「執務はしなくていい。公務も可能な限りニコルに任せよう。リアはとにかく大人しくして、無事に子供を生んでくれ」

「でも…」

「リアの体調に早く気付いたのはニコルなんだ。もし懐妊なら代理で務める事は了承済みだから、何も心配しなくてもいい。その為の側妃でもあるんだから」

「……はい」


叶わないと思っていた夢がまだ薄い腹の中にいるのだと、ヴィクトリアはそっと手を添えた。

その手にランドルフのものも重なる。


「どちらでしょうか」

「願わくば娘だが、元気に生まれてくるならどちらでもいいさ」

「……そうね」











ヴィクトリアが出産したのは女の子で、ランドルフの溺愛ぶりはその後民にも広く知れ渡る。

兄であるフィリップ達にも大層可愛がられ、異母兄妹にも関わらず仲良く成長した。










のちに賢王と後世に名を馳せるランドルフ。

その隣には正妃ヴィクトリアが並び、2人と側妃ニコルの関係は最期まで良好なものを保ったと語り継がれている。











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