【完結】妻至上主義

Ringo

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番外編(本編登場人物のその後)

《赤薔薇姫》前編

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最期のあなたは傷だらけだった。


「ごめんな…もう…無理っぽい…でも…もしさ…もし…生まれ変われるなら…また一緒に過ごしたいな……お前がよく読んでた…小説みたく……だけど記憶とか…残ってねぇかも……」


いいの。
あなたが私を覚えていなくても。
私があなたを忘れないから。


「お前と……幸せに…なりたかった……」


こんどこそ。
あなたを幸せにする。
あなたの幸せが私の幸せだから。


「生まれ変わって……会いてぇなぁ……」


必ずあなたを見つけ出すわ。
そしてもう一度恋に落ちるの。






約束よ。






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通い慣れた王宮の門をくぐり、王太子宮の馬車止めに着くと彼が既に待機していた。


「アリーシャ」


優しくて少し低い声。

あなたに名前を呼ばれることが、変わらず何より心地いい。


「急に呼んでしまってごめんね」

「構わないわ、あなたに会えるもの」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


エスコートの為に差し出された手に触れると、そこから伝わる温もりに心がきゅってなる。

温かい……それだけで涙腺が緩みそう。


「今朝、あまりにも綺麗に咲き誇っていたから一緒に見たくて」


流れるように腕を組んで歩きながら、私を呼び寄せた理由を弾んだ声で話すあなた。

楽しそうな様子に私も頬が緩んでしまう。


「ありがとう、フィリップ」

「君の笑顔の為ならなんでもするよ。世界中の赤薔薇を独占したいと言うならかき集めてくる」

「そんな事したら世界中の女性から恨まれるわ」

「僕が守るから大丈夫」


頬に触れる優しいキスに熱が集まった。

きっと顔が真っ赤ね。


「大好きだよ、アリー」


私も大好きよ……ずっと昔から。






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『わたし、おうじさまとけっこんしたいわ』


3歳になった頃、そう言い出した私に父はとても難しい顔をした。

至って真面目にお願いしたのに、子供の言うことだからとまともに相手もしてくれない。

だからそれから何年も何年も…それこそ毎日、朝の挨拶ついでに言い続けたのよ。


『おはようございます、お父様。フィリップ王子殿下と婚約させてください』

『いやだ。おはよう』






漸く向かい合って話せたのはデビュタント直前。


『殿下には既に“候補”が何人もいるぞ』

『希薄な政略相手に過ぎませんわ。それもわたくしが名乗り出れば即座に解消となりましょう』


国内外に絶大な影響力を持つ公爵家、そこの娘に生まれたことを神に感謝した。


『しかし…今言う事ではないが…もしも子が出来ないとなれば、王位を継ぐ殿下はいずれ側妃を置かなければならない』

『大丈夫ですわ。わたくしはお母様の娘ですから沢山生んでみせます』


確証はなくても確信はあった。

私は何人でも彼の子を生める。


『情勢によっても側妃は娶る。同時期に子作りをするんだ…耐えられるか?』

『そうならぬよう、殿下を支え共に最善を尽くします。国交の為に子を成すよりも有益となる政策を確立致しますわ』


その為に、国内でも一等厳しいと評判の家庭教師をつけてもらった。


『もし……過ちを冒したら?』

『その時は認めざるを得ませんわね。ですが…わたくしを裏切るなどのをしたモノはちょんぎってやります』


つい『ふふふ』と笑いが零れてしまい、淑女の必需品である扇子で隠すと、父は顔色を青褪めさせて股間を押さえた。


『と…とりあえず王家に話をしておく。…それから殿下にも忠告を…さすがにちょんぎられるのは同性としてちょっと……やりかねんし……』


その後、恙無く婚約の運びとなった。







「アリーシャ?」


ついつい過去に思いを馳せていたら、隣に座る彼に顔を覗かれて心臓が止まるかと思った。

顔が整いすぎているのも考えものね。


「ごめんなさい、少し考え事を…」

「母上の我儘に付き合わせてすまない。どうにも母上はアリーの事が好きすぎる。来ているならお茶をしたい、話がしたいと…困ったもんだ」

「大丈夫よ。王妃様はもうすぐ義理の母になるんですもの。可愛がってもらえて嬉しいわ」


の両親のように殴らない。

きちんと食事をさせ、清潔を保ち、学ぶ機会を奪わない。

何より……あなたを愛している。

そして私との未来を喜んでくれているもの。


「ところでアリーシャ…」

「なぁに?」

「今日はまた随分と……」


向けられる視線の場所を、私も見た。

そして「ふふっ」と笑いが零れてしまう。


「流行のデザインなの」

「それにしたって…見えすぎ」


そう言って胸元の谷間に触れる指先は温かくて、泣きたいのか恥ずかしいのか分からなくなる。


「…あなたに会うから…少し大胆に……」

「そう…それならいいけど。君は僕だけのものだということは覚えておいて」


グイッと腰を引き寄せられ、息がかかるほど顔が近付き…コツンとおでこをくっつける。


「愛してるよ、アリーシャ。君の全てを僕のものにする日が待ち遠しい」


ドキドキし過ぎて答えに詰まっていると、ふっと口角をあげた唇が重ねられた。

温もり。

ずっとずっと忘れられなかった温もり。

この人の為なら、私は命も差し出せる。






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庭園には、見事な赤薔薇が咲き誇っていた。

婚約した頃どんな花が好きか聞かれ、真っ赤な薔薇と答えたら庭園に薔薇園が作られた。


「結婚したらいつでも窓から見られるよ」


ほら、と見上げた視線の先にあるのは王太子夫妻用の部屋。


「あそこからが1番よく見える。天気がいい日はバルコニーでお茶でもしよう」

「楽しみだわ」

「ちょっと待ってて」


そう言って近くにいた庭師から鋏を受け取ると、吟味した1輪の薔薇を持って戻ってきた。


「ちゃんと棘は取ったから」


編み込まれた髪に挿し込まれて、満足気に微笑んで頷くあなたに涙が込み上げそうになる。

何もなのに…と。


『ほら、やるよ』


柄にもないと言いながら、素っ気ない態度でくれた1輪の薔薇。

バイト代で買った、可愛くラッピングされた赤い薔薇。

それから何度もプレゼントしてくれた。


『こういうの、お前好きそう』


そう言って編み込んだ髪に薔薇を挿してくれた。

その指は傷だらけで、火傷の痕や骨折の名残がいくつもあって…何度あなたの両親を殺してやりたいと思ったか分からない。


「アリーシャ」

「……はい」

「婚約の打診は公爵家からだったけど、君と婚約するのは僕の希望でもあった。強すぎる権力の集中を危惧する者もいるけど、そんなものは僕がどうとでもする」

「私も蹴散らしてやるわ」


ありがとう…と言って掬い握られる両手からは、あなたの温もりが伝わってくる。

…それが嬉しくてたまらない。


「だけど無理をしないで。君のことを悲しませるような事はしたくない…泣かせたくないんだ」


拭ってくれようとして離されかけた手をぎゅっと握り、首を傾げるあなたを見つめる。


『もう泣くな…お前に泣かれると、どうしていいか分からなくなるんだよ』


容姿も瞳の色も何もかも違う。

だけど感じる……だと。


「フィリップ・ゴールディ・リースリング」


建国者であり初代国王の名前を持つあなたとわたくしには、僅かながら同じ血が流れている。

そして遠くない未来、私達の血を受け継ぐ子が生まれてくる。

では叶えられなかった夢が叶う。


「あなたを愛してるわ。今までもこれからも…何度生まれ変わろうと愛してる」


たとえあなたが私を忘れてしまおうと、何度だって見つけるから…


「あなたを幸せにするわ」


もう二度と、凍える寒さの中で独りにさせない。

飢えに蹲るようなことも、皮膚が爛れるような痛みも、涙より多く血を流させることもしない。

あなたに降りかかる厄災の全てを、私の命にかえても蹴散らしてやるの。


「僕も幸せにするよ…今以上に」


幸せになりましょう。

あなたが笑うなら私も幸せだから。














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