146 / 476
第11章 騎士に巻き付く龍の尾の蛇
第147話 公爵にして医師
しおりを挟む
「こ、これは……?」
部屋に入った俺は目の前の光景に驚く。
中央にあるベッドの上で横たわっているのはやはりオクバだ。そのオクバが隣で立っている目元以外を緑色の服で覆った男に刃物で腹を裂かれ、内臓を直接触られている。
かなり猟奇的な現場だったが、男はオクバを殺そうとしているのではない。真剣な眼差しでオクバの容態を確認しながら作業しているのが雰囲気で分かる。この男はオクバを助けようとしているようだ。
「そこに座ってろ。もうじき終わる」
男の視線がわずかにこちらに向き、俺とオジャル伯爵をソファーに座るよう促した。
鋭い目つきに、医学の知識。この男こそが"三公爵"の一人にしてギャングレオ盗賊団の元締め、バクト公爵か。
「――よし。取れたな」
しばらくするとバクト公爵はオクバの腹の中から黒い大きな塊を取り出した。あれが腫瘍と言われるものか。
そしてバクト公爵はオクバの腹をもとのように縫い合わせて戻すと、マスクを外してこちらに言った。
「手術は成功だ。これで貴様の友人だというオークは助かった。人間なら一週間ほど安静だが、オークの生命力ならもっと早いだろう」
『成功』。その言葉を聞いたオジャル伯爵は感極まったように泣き崩れる。
「あ……あぁ……ありがとうでおじゃぁあ! ありがとうでおじゃぁああ!!」
泣き崩れるオジャル伯爵を横目に、バクト公爵は俺の方に近寄ってきた。
「貴様……ゼロラとかいう男か?」
「ああ、そうだ。初めましてだな、"元締め"のバクト公爵」
「フン……。その様子だと、この俺の事情は織り込み済みか」
俺が何者かを理解したバクト公爵はオジャル伯爵とオクバを部屋に残し、俺を別室へと案内した。
■
「ゼロラ。貴様はシシバの差し金だな?」
「そんなところだ。まさか"三公爵"の一人がギャングレオ盗賊団の元締めだったとはな」
俺とバクト公爵はお互い向かい合ってソファーに座っている。バクト公爵は背もたれに腕をかけながら話してくる。
「シシバめ、余計な真似をしおって。だが一応の礼は言ってやる」
「そいつはどうも」
"三公爵"のバクト公爵。この国の実権を握る一人ではあるが、かなり口と目つきが悪い。それでも俺が来てくれたことにはそれなりの恩義を感じてくれたようだ。
「さっきオクバにしていた"手術"……。あれがあんたの学んだ医学ってことか」
「そうだ。薬や回復魔法だけではどうにもできない、体に直接メスを入れなければ治せないものだってある。貴様はさっきの俺の手術を見てどう思う?」
最初に見たときは異常な光景だったが、バクト公爵は確かにオクバを救って見せた。
「立派なもんだと思った。この国でああいうことができる医師はあんただけだろう」
「……フン」
言葉は少なく顔も険しいままだが、バクト公爵は俺の回答に一応満足はしてくれた様子だった。
「貴様の目的は事前にコゴーダから聞いている。ガルペラ侯爵との協定だったな」
「ああ。頼めるか?」
「正式な協定を結ぶ機会は別に用意してやる。シシバが認めたほどの男を擁するガルペラ侯爵とならば、俺も協定を結ばせてもらおう」
バクト公爵はガルペラとの協定を認めてくれた。
ギャングレオ盗賊団の元締め、そして"三公爵"の一人。二つの顔を持つこの男が味方になってくれたのは心強い。
「丁度いい"手札"も手に入れたことだ。これならば武力行使をする必要もなかろう」
バクト公爵はわずかニヤつきながら答える。
この男は必要とあらば武力行使も辞さない考えを持っているが、そこも俺のことを"シシバが認めた"ということで、まずはガルペラの意志を汲んでくれるようだ。
「その"手札"ってのはなんだ?」
「オジャル伯爵だ。あいつは今年の"円卓会議"という場の議事進行を担当している」
バクト公爵が言うには、国王を含む"円卓会議"という場をオジャル伯爵を使って時期や出席者を操作し、バクト公爵とガルペラが同時に国王や他の"三公爵"と話し合える場を用意してくれるそうだ。
「貴様をガルペラ侯爵の従者として、ギャングレオ盗賊団を俺の護衛として出席させることもうまくすれば可能だ。時期はオジャル伯爵とも話して早いうちに決めてやろう」
「なるほど……。あんたはそのためにオクバを助けてやったんだな」
バクト公爵は相変わらず睨むような目線を送るが、その表情はどこか曇っている。
「それもある。……だが、おそらく俺はオジャル伯爵に頼まれずとも、あのオークを助けていたかもな。あのオークの腫瘍は人工的に植え付けられたものだ。そんなものを見ているだけなどいい気がしない」
バクト公爵はこの国が医療への理解を示さなかったために、妻を失ってしまった過去がある。
それがこの国の制度を変えようとする行動の原動力になっているようだが、それとは別に"命を救う医師としての信念"のようなものを俺は感じ取った。
部屋に入った俺は目の前の光景に驚く。
中央にあるベッドの上で横たわっているのはやはりオクバだ。そのオクバが隣で立っている目元以外を緑色の服で覆った男に刃物で腹を裂かれ、内臓を直接触られている。
かなり猟奇的な現場だったが、男はオクバを殺そうとしているのではない。真剣な眼差しでオクバの容態を確認しながら作業しているのが雰囲気で分かる。この男はオクバを助けようとしているようだ。
「そこに座ってろ。もうじき終わる」
男の視線がわずかにこちらに向き、俺とオジャル伯爵をソファーに座るよう促した。
鋭い目つきに、医学の知識。この男こそが"三公爵"の一人にしてギャングレオ盗賊団の元締め、バクト公爵か。
「――よし。取れたな」
しばらくするとバクト公爵はオクバの腹の中から黒い大きな塊を取り出した。あれが腫瘍と言われるものか。
そしてバクト公爵はオクバの腹をもとのように縫い合わせて戻すと、マスクを外してこちらに言った。
「手術は成功だ。これで貴様の友人だというオークは助かった。人間なら一週間ほど安静だが、オークの生命力ならもっと早いだろう」
『成功』。その言葉を聞いたオジャル伯爵は感極まったように泣き崩れる。
「あ……あぁ……ありがとうでおじゃぁあ! ありがとうでおじゃぁああ!!」
泣き崩れるオジャル伯爵を横目に、バクト公爵は俺の方に近寄ってきた。
「貴様……ゼロラとかいう男か?」
「ああ、そうだ。初めましてだな、"元締め"のバクト公爵」
「フン……。その様子だと、この俺の事情は織り込み済みか」
俺が何者かを理解したバクト公爵はオジャル伯爵とオクバを部屋に残し、俺を別室へと案内した。
■
「ゼロラ。貴様はシシバの差し金だな?」
「そんなところだ。まさか"三公爵"の一人がギャングレオ盗賊団の元締めだったとはな」
俺とバクト公爵はお互い向かい合ってソファーに座っている。バクト公爵は背もたれに腕をかけながら話してくる。
「シシバめ、余計な真似をしおって。だが一応の礼は言ってやる」
「そいつはどうも」
"三公爵"のバクト公爵。この国の実権を握る一人ではあるが、かなり口と目つきが悪い。それでも俺が来てくれたことにはそれなりの恩義を感じてくれたようだ。
「さっきオクバにしていた"手術"……。あれがあんたの学んだ医学ってことか」
「そうだ。薬や回復魔法だけではどうにもできない、体に直接メスを入れなければ治せないものだってある。貴様はさっきの俺の手術を見てどう思う?」
最初に見たときは異常な光景だったが、バクト公爵は確かにオクバを救って見せた。
「立派なもんだと思った。この国でああいうことができる医師はあんただけだろう」
「……フン」
言葉は少なく顔も険しいままだが、バクト公爵は俺の回答に一応満足はしてくれた様子だった。
「貴様の目的は事前にコゴーダから聞いている。ガルペラ侯爵との協定だったな」
「ああ。頼めるか?」
「正式な協定を結ぶ機会は別に用意してやる。シシバが認めたほどの男を擁するガルペラ侯爵とならば、俺も協定を結ばせてもらおう」
バクト公爵はガルペラとの協定を認めてくれた。
ギャングレオ盗賊団の元締め、そして"三公爵"の一人。二つの顔を持つこの男が味方になってくれたのは心強い。
「丁度いい"手札"も手に入れたことだ。これならば武力行使をする必要もなかろう」
バクト公爵はわずかニヤつきながら答える。
この男は必要とあらば武力行使も辞さない考えを持っているが、そこも俺のことを"シシバが認めた"ということで、まずはガルペラの意志を汲んでくれるようだ。
「その"手札"ってのはなんだ?」
「オジャル伯爵だ。あいつは今年の"円卓会議"という場の議事進行を担当している」
バクト公爵が言うには、国王を含む"円卓会議"という場をオジャル伯爵を使って時期や出席者を操作し、バクト公爵とガルペラが同時に国王や他の"三公爵"と話し合える場を用意してくれるそうだ。
「貴様をガルペラ侯爵の従者として、ギャングレオ盗賊団を俺の護衛として出席させることもうまくすれば可能だ。時期はオジャル伯爵とも話して早いうちに決めてやろう」
「なるほど……。あんたはそのためにオクバを助けてやったんだな」
バクト公爵は相変わらず睨むような目線を送るが、その表情はどこか曇っている。
「それもある。……だが、おそらく俺はオジャル伯爵に頼まれずとも、あのオークを助けていたかもな。あのオークの腫瘍は人工的に植え付けられたものだ。そんなものを見ているだけなどいい気がしない」
バクト公爵はこの国が医療への理解を示さなかったために、妻を失ってしまった過去がある。
それがこの国の制度を変えようとする行動の原動力になっているようだが、それとは別に"命を救う医師としての信念"のようなものを俺は感じ取った。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる