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第20章 獅子は吠え、虎は猛る
第280話 虎を食らいて、虎となる
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まだ【伝説の魔王】が健在だった時代。ルクガイア王国領内の山奥に一つの村があった。
その村は常に雪が降り注ぎ、陽の光もまともに当たらない山岳地帯で、常に食糧難にあえいでいた。
村人達は少ない食料を必死に集め、寒さに堪えながら明日の見えない生活を続けていた。
――だが、その村の統治を任されていた貴族達の生活だけは違った。
村から離れた場所に豪華な屋敷を立て、王都から送られてくる村人用の食料を全て屋敷へと集めていた。
村の周辺に潜んでいた獣などの食料も全て自分達のものとし、その屋敷だけが贅沢の限りを尽くす生活をしていた。
「なんで同じ人間なのに……オレと貴族でこんなに差が出るんだ……?」
サイバラも当時その村に住んでいた男の一人だった。
サイバラは貴族の屋敷を見ながらずっと疑問に思っていた。
生まれた身分の差。生活の差。力の差。
あらゆる"差"というものが、生まれてからずっとこの村に住み続けていたサイバラを苦しめていた。
「どうやったらオレもあんな生活ができるんだ……?」
当時のサイバラは考えた。
この生活の差を埋め合わせるためにはどうしたらいいのか。
生まれた身分の差はどうしようもない。それで生活を変えることはできない。
だったら……自らを鍛え上げて力の差を埋め合わせるしかない。
――そして手に入れた力で領主たる貴族の屋敷を奪うしかない。
サイバラはそう考えた。
その考えに至って以降、サイバラは密かに己を鍛え続けた。
誰かに教わることはできない。ただ原始的な方法で自らの肉体を研ぎ澄まし続けた。
常に飢えと寒さに耐えながらの修練の日々だったが、いつしかサイバラは強靭な肉体を手に入れていた。
そして自らの力に確信を持ったある日――世間では勇者レイキースが【伝説の魔王】を倒したのと同じ頃。
サイバラはその野望を決行した――
■
「ひ、ひいぃ!? た、助けてくれ―― アガァ!?」
「お、おい! 誰かこいつを止めて―― ウギャア!?」
サイバラは領主である貴族の屋敷へと押し入った。
屋敷にいた使用人や兵士を一人でなぎ倒していき、どんどんと主の部屋へと進んで行った。
孤独な鍛錬の中でサイバラは自らの内に宿る雷魔法を肉体にかけ、その力を増大させる術を身に着けていた。
襲ってくる屋敷の人間を蹂躙しながら、サイバラは目的の部屋を目指す――
「パ、パンクタイガーを出せ! あの狼藉者を早く始末しろ!」
迫りくるサイバラに対し、貴族は屋敷で娯楽の一環として飼っていたパンクタイガーを差し向けた。
自身よりも巨大な魔物が目の前に現れたが、サイバラは動じることなどなかった。
動じるどころか――
「なんだぁ……この獣は? 旨そうだなぁ……!」
――パンクタイガーを自らの食料としか思っていなかった。
■
「ど、どうか……どうかお助けを……!」
「助けるだぁ? てめぇなんてオレにはどうでもいいんだよ。……さっさと飯を持ってこぉい!! てめぇの頭をこのまま潰されたくなかったらなぁ!!」
パンクタイガーを倒した後、貴族の頭を片手で掴みながらサイバラは屋敷中の食料を自らの前に差し出すように、屋敷の住人を脅し続けた。
自らが倒したパンクタイガーの肉。差し出された食料の数々。
これまでの生活では絶対に手に入れることのできなかった夢のような光景がサイバラの目の前に広がっていた。
「ダーハハハ! 最高だぁ! オレぁ……こんな生活がしたくて堪らなかったんだよぉ!!」
これまでの飢えを満たすかのようにサイバラは目の前の食料に齧り付いた。
屋敷中の食料を目の前に出され、それを次々に食していくサイバラだったが――
「……ん? おい? もう飯はねぇのか? アアぁ!?」
「ひいぃ!? す、すみません! 今この屋敷にある食料はこれで全部です! 王都からの配給もまだでして――」
サイバラは貴族の頭を掴みながら怒鳴りつけた。
サイバラはまだ満足できなかった。
もっと欲しい。もっと食べたい。もっといい生活がしたい。
そう考えたサイバラは貴族が言っていた"王都"という言葉に興味を持った。
「なぁ? 王都ってところに行けば、ここよりもっと裕福な生活ができんのかぁ?」
「え、ええ……。王都はこのルクガイア王国の中枢。こんな山奥よりもよっぽどいい生活が――」
なんとかサイバラの魔の手から逃れようと考えた貴族は、サイバラが王都へ行きたがるように答えた。
だが、その考えは浅はかだった――
「そうかぁ……。だったらもう、てめぇに用はねえわけだなぁ!!」
「え? 何――」
――グシャアア!!
貴族が全てを言い終える前に、サイバラは掴んでいた貴族の頭を壁に叩きつけて――完全に潰した。
「王都か……! 王都に行くぞぉ!! オレぁ……このどん底の生活から這い上がってやるぜぇ……!」
屋敷の主を殺したサイバラは屋敷内にある荷物を奪って準備した後、生まれ育った山を下りて王都へと向かった。
屋敷の住人にサイバラを止めようとする者はいなかった。
それほどまでにサイバラは強すぎた――
■
「うっぐ!? なんだこの光はぁ……? 眩しいし、それに暑い……!?」
異常なまでの強さを手に入れたサイバラにとって、苦難の山道を下りることは造作もなかった。
そしてサイバラは"生まれて初めて"太陽の光というものをはっきりと体感した。
これまでまともに陽の光が射さない場所での生活を続けていたサイバラにとって、太陽の光はあまりにも刺激が強く、あまりにも暑すぎるものだった。
「こうも暑いと服なんか着てらんねぇ」
サイバラは上着を脱ぎ捨てた。
暑さはなんとかやり過ごせそうだったが、陽の光から目を守る方法がサイバラにはなかった。
「驚愕驚愕。あの山道を単身で下りてくる者がいるとは……な」
手で目を抑えてまともに前を見れないサイバラの耳に、一人の男の声が入ってきた。
「誰だぁ? オレを捕まえに来た貴族の差し金かぁ?」
「警戒しないでくれたまえ。小生は卿に興味があるのだよ。まずはこれを目にかけたまえ」
そう言って男はサイバラにある物を手渡した。
サイバラは言われるがままに受け取った物を目にかけた。
「……? なんだこれはぁ? 光が抑えられたのかぁ?」
「"サングラス"というものだ。まだ時間はかかるだろうが、いずれは目が慣れるだろう。それと――」
サングラスによって少し視界が見えてきたサイバラに、男は一冊の書物を手渡した。
「これは……?」
「かつて【伝説の魔王】も愛読していた武術に関する本だ。卿程の力とその書物の内容を合わせることができれば、卿はより高みへと目指せるだろう……!」
サイバラに男の目的は分からなかったが、自らが抱く野望のためにも更なる力が手に入るのならそれでよかった。
サイバラが完全に視界が見えるようになった頃には、男の姿は消えていた――
「……なんだって構わねえ。オレぁ、オレ自身が成り上がるためにも、使えるもんは徹底的に使い潰してやるよぉ……!」
その村は常に雪が降り注ぎ、陽の光もまともに当たらない山岳地帯で、常に食糧難にあえいでいた。
村人達は少ない食料を必死に集め、寒さに堪えながら明日の見えない生活を続けていた。
――だが、その村の統治を任されていた貴族達の生活だけは違った。
村から離れた場所に豪華な屋敷を立て、王都から送られてくる村人用の食料を全て屋敷へと集めていた。
村の周辺に潜んでいた獣などの食料も全て自分達のものとし、その屋敷だけが贅沢の限りを尽くす生活をしていた。
「なんで同じ人間なのに……オレと貴族でこんなに差が出るんだ……?」
サイバラも当時その村に住んでいた男の一人だった。
サイバラは貴族の屋敷を見ながらずっと疑問に思っていた。
生まれた身分の差。生活の差。力の差。
あらゆる"差"というものが、生まれてからずっとこの村に住み続けていたサイバラを苦しめていた。
「どうやったらオレもあんな生活ができるんだ……?」
当時のサイバラは考えた。
この生活の差を埋め合わせるためにはどうしたらいいのか。
生まれた身分の差はどうしようもない。それで生活を変えることはできない。
だったら……自らを鍛え上げて力の差を埋め合わせるしかない。
――そして手に入れた力で領主たる貴族の屋敷を奪うしかない。
サイバラはそう考えた。
その考えに至って以降、サイバラは密かに己を鍛え続けた。
誰かに教わることはできない。ただ原始的な方法で自らの肉体を研ぎ澄まし続けた。
常に飢えと寒さに耐えながらの修練の日々だったが、いつしかサイバラは強靭な肉体を手に入れていた。
そして自らの力に確信を持ったある日――世間では勇者レイキースが【伝説の魔王】を倒したのと同じ頃。
サイバラはその野望を決行した――
■
「ひ、ひいぃ!? た、助けてくれ―― アガァ!?」
「お、おい! 誰かこいつを止めて―― ウギャア!?」
サイバラは領主である貴族の屋敷へと押し入った。
屋敷にいた使用人や兵士を一人でなぎ倒していき、どんどんと主の部屋へと進んで行った。
孤独な鍛錬の中でサイバラは自らの内に宿る雷魔法を肉体にかけ、その力を増大させる術を身に着けていた。
襲ってくる屋敷の人間を蹂躙しながら、サイバラは目的の部屋を目指す――
「パ、パンクタイガーを出せ! あの狼藉者を早く始末しろ!」
迫りくるサイバラに対し、貴族は屋敷で娯楽の一環として飼っていたパンクタイガーを差し向けた。
自身よりも巨大な魔物が目の前に現れたが、サイバラは動じることなどなかった。
動じるどころか――
「なんだぁ……この獣は? 旨そうだなぁ……!」
――パンクタイガーを自らの食料としか思っていなかった。
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「ど、どうか……どうかお助けを……!」
「助けるだぁ? てめぇなんてオレにはどうでもいいんだよ。……さっさと飯を持ってこぉい!! てめぇの頭をこのまま潰されたくなかったらなぁ!!」
パンクタイガーを倒した後、貴族の頭を片手で掴みながらサイバラは屋敷中の食料を自らの前に差し出すように、屋敷の住人を脅し続けた。
自らが倒したパンクタイガーの肉。差し出された食料の数々。
これまでの生活では絶対に手に入れることのできなかった夢のような光景がサイバラの目の前に広がっていた。
「ダーハハハ! 最高だぁ! オレぁ……こんな生活がしたくて堪らなかったんだよぉ!!」
これまでの飢えを満たすかのようにサイバラは目の前の食料に齧り付いた。
屋敷中の食料を目の前に出され、それを次々に食していくサイバラだったが――
「……ん? おい? もう飯はねぇのか? アアぁ!?」
「ひいぃ!? す、すみません! 今この屋敷にある食料はこれで全部です! 王都からの配給もまだでして――」
サイバラは貴族の頭を掴みながら怒鳴りつけた。
サイバラはまだ満足できなかった。
もっと欲しい。もっと食べたい。もっといい生活がしたい。
そう考えたサイバラは貴族が言っていた"王都"という言葉に興味を持った。
「なぁ? 王都ってところに行けば、ここよりもっと裕福な生活ができんのかぁ?」
「え、ええ……。王都はこのルクガイア王国の中枢。こんな山奥よりもよっぽどいい生活が――」
なんとかサイバラの魔の手から逃れようと考えた貴族は、サイバラが王都へ行きたがるように答えた。
だが、その考えは浅はかだった――
「そうかぁ……。だったらもう、てめぇに用はねえわけだなぁ!!」
「え? 何――」
――グシャアア!!
貴族が全てを言い終える前に、サイバラは掴んでいた貴族の頭を壁に叩きつけて――完全に潰した。
「王都か……! 王都に行くぞぉ!! オレぁ……このどん底の生活から這い上がってやるぜぇ……!」
屋敷の主を殺したサイバラは屋敷内にある荷物を奪って準備した後、生まれ育った山を下りて王都へと向かった。
屋敷の住人にサイバラを止めようとする者はいなかった。
それほどまでにサイバラは強すぎた――
■
「うっぐ!? なんだこの光はぁ……? 眩しいし、それに暑い……!?」
異常なまでの強さを手に入れたサイバラにとって、苦難の山道を下りることは造作もなかった。
そしてサイバラは"生まれて初めて"太陽の光というものをはっきりと体感した。
これまでまともに陽の光が射さない場所での生活を続けていたサイバラにとって、太陽の光はあまりにも刺激が強く、あまりにも暑すぎるものだった。
「こうも暑いと服なんか着てらんねぇ」
サイバラは上着を脱ぎ捨てた。
暑さはなんとかやり過ごせそうだったが、陽の光から目を守る方法がサイバラにはなかった。
「驚愕驚愕。あの山道を単身で下りてくる者がいるとは……な」
手で目を抑えてまともに前を見れないサイバラの耳に、一人の男の声が入ってきた。
「誰だぁ? オレを捕まえに来た貴族の差し金かぁ?」
「警戒しないでくれたまえ。小生は卿に興味があるのだよ。まずはこれを目にかけたまえ」
そう言って男はサイバラにある物を手渡した。
サイバラは言われるがままに受け取った物を目にかけた。
「……? なんだこれはぁ? 光が抑えられたのかぁ?」
「"サングラス"というものだ。まだ時間はかかるだろうが、いずれは目が慣れるだろう。それと――」
サングラスによって少し視界が見えてきたサイバラに、男は一冊の書物を手渡した。
「これは……?」
「かつて【伝説の魔王】も愛読していた武術に関する本だ。卿程の力とその書物の内容を合わせることができれば、卿はより高みへと目指せるだろう……!」
サイバラに男の目的は分からなかったが、自らが抱く野望のためにも更なる力が手に入るのならそれでよかった。
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