記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第24章 常なる陰が夢見た未来

第344話 悪夢と記憶の眠る城

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「ジ、ジフ兄……。ここが魔王城なんだよね? 物々しすぎて……ボク、ちょっと怖い……」
「あまり離れるな、リョウ。今はお前とマカロンの力が頼りだ」

 俺達五人は魔王城の中を進んで行く。
 魔王城の中も外と同様、かなり荒れ果てている。
 いたるところが朽ち果て、そこから溢れ出る闇、<ナイトメアハザード>――
 リョウも普段は見せない表情で怯え、兄のジフウに寄り添っている。

「ラ、ラルフル……私も怖い……。リョウさんの補助があっても、私の光魔法なんかで、本当にこんな大量の闇から身を守れるのかしら……?」
「お姉ちゃん、自信を持ってください。お姉ちゃん自身がそんなに弱気だと、光魔法の効力も落ちてしまいます。大丈夫です。いざとなったら自分やゼロラさんもいます」

 マカロンもこの異様な光景に怖気づいている。
 それでも弟のラルフルの励ましで、なんとか俺以外の四人への光魔法をかけ続ける。

「それにしても……ゼロラさん。ほ、本当に大丈夫なのですか? ゼロラさんだけ、光魔法がかかっていませんが――」
「大丈夫だ。俺のことは気にせずに、先へ進むぞ」

 一人だけ光魔法のかかっていない俺をラルフルが心配する。
 確かに体が重くはなってくるが、今はこの<ナイトメアハザード>を肌身で感じ取りたい――

「それにしても、本当にゼロラはこの<ナイトメアハザード>に強い耐性があるみたいだな」
「もしかして……ゼロラさんって、"勇者"だったりするのでしょうか?」
「案外、その可能性もあり得そうだね。それならば、この<ナイトメアハザード>に強い耐性を持っていることにも説明が付く」

 俺の様子を見て疑問を抱いたジフウの言葉に、マカロンとリョウがある可能性を考えた。




 『俺が"勇者"かもしれない』――か。

 俺の考えが正しければ、俺の正体はそんな高尚なものじゃない。



「ジフウ。玉座の間までは、まだかかりそうか?」
「ああ。とりあえずそこを目指して歩いてはいるんだがな。まあ、魔物の類も出てこないみたいだし、この<ナイトメアハザード>にさえ注意しておけばいずれ着く」

 俺達が目指す先は魔王城の最深部――かつて、【伝説の魔王】が鎮座していた玉座の間。
 一度は先代勇者パーティーの一員としてここに来たことがあるジフウの案内に従い、俺達は先へと進んで行く。





 だがそこに行く途中で、俺は気になる部屋を見つけた。

「皆、すまない。少し寄り道させてくれ」
「え? ゼロラさん――」

 皆の意見も聞かず、俺は急ぎ足でその部屋へと入っていった。
 俺の様子を見て、他の四人も部屋へと入って来てくれた。

「この部屋……今はボロボロだけど、まるで家族部屋みたいだね」
「本当ですね……。魔王城の中にこんな部屋があっただなんて……」

 俺が入った部屋の中を見て、リョウとマカロンが感想を述べていた。

 その部屋にあったのは小さな子供が使うオモチャ、家族三人が食事や寝床を共にできそうな家具の数々――



 ――そんな中にある一枚の写真を、俺は手に取った。



「これって……以前、リョウ大神官が使っていた"カメラ"で撮った"写真"というものですか? 綺麗な女性の人が写っているのが見えますが――」
「こ、これは――いや! このお方は……!?」

 俺が手に取った写真を見て、ラルフルとジフウが反応した。
 その写真には三人が写っている。

 一人は黒い髪と紫色の魔道服を着た、小さな少女。
 一人は顔を仮面で覆い、マントを身に着けた、大柄な男。
 一人は先の少女と同じ黒髪をした、ロングヘアーの綺麗な女。

 少女を中央に据え、男と女がその両隣にくるように映っている。



 そして、ジフウはこの女に見覚えがあるようだ――

「ユ、ユメ様だ! ここにいる女は、【慈愛の勇者】ユメ様だ!!」

 ――そう。この写真に写っている三人のうちの一人は、かつてのジフウの仲間で、【慈愛の勇者】こと先代勇者――ユメだ。

「こ、この仮面の男の人……! 私、覚えてます!」
「『覚えてる』……? まさか、お姉ちゃん!? この人が――」

 マカロンも写真を見てあることに気付いた。
 ラルフルも勘付いたように、マカロンならこの男の存在も分かるはずだ――



「かつての魔王軍の総大将――【伝説の魔王】――ジョウイン!!」

 ――そう。これもマカロンの言う通りだ。
 このユメの隣に移っている仮面の男こそが、【伝説の魔王】ジョウインだ。

「ジフ兄。本当に仮面の男が【伝説の魔王】なのかい?」
「おそらくだがな……。俺もユメ様と一緒にここに来た時は、玉座の間の前にいた"魔王軍四天王"の一人に足止めされて、ユメ様が一人で先へ進んだからな。その後、ユメ様は【伝説の魔王】ジョウインと結婚したとしか、聞いていなかったが――」

 ジフウも【伝説の魔王】ことジョウインと、直接の面識はなかったらしい。
 だがこの写真の内容から見て、この男こそがジョウインと見て間違いないだろう。

「それじゃあ、この真ん中に写っている女の子は誰ですか?」
「……写真の裏に何か書かれているな」

 ラルフルに尋ねられ、俺が写真をくまなく調べると、写真の裏に文字があるのが見つかった。

 そこにはこう書かれていた――





『我が愛する妻、ユメ。我が愛しき娘、ミライ。最愛なる家族三人の記録』





「……これって、【伝説の魔王】が書いたものなんですよね?」
「おそらくな……」

 マカロンを含め、この場にいる全員がこの写真の内容を理解した。

 この写真はジョウイン、ユメ。そしてその娘――ミライ。
 その三人が家族での思い出として残したものだ。
 事実ユメもミライも、楽しそうな表情で写真に写っている。

 そしてこの部屋は、そんな三人の家族が過ごした場所――

「【伝説の魔王】ジョウイン……。以前ロギウス殿下達から話を聞いた時は半信半疑でしたが、本当は家族を思いやる心を持った人だったんですね……」
「ユメ様……。あなたは本当は、幸せに暮らしていたのですね……」

 かつて当代勇者パーティーに所属していた、ラルフル。
 先代勇者パーティーに所属していた、ジフウ。
 各々思うところはあるだろうが、この写真とこの部屋が全てを物語っている――



「ん? ゼロラ殿? どうかしたのかい? 何やらボーッとしてるけど……?」

 リョウが俺に語り掛けてくるが、今の俺の耳にはよく入ってこなかった。

 この<ナイトメアハザード>を通して感じる記憶を、俺の中で必死に手繰り寄せる――
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