上 下
371 / 476
第25章 新たなる世界へ

第371話 ルクガイア沖海戦①

しおりを挟む
「サイバラさん! 出発してください!」
「ッシャァ! 任せろぉ!」

 自分はサイバラさんの操縦するボートで、ボーネス公爵の艦隊の一隻へと向かいます。
 ボートは小型ですが、"エンジン"というもののおかげでかなりのスピードが出ます。

「ラルフルぅ! しっかり掴まってろぉ! 全速力で突っ込むぜぇえ!!」

 サイバラさんは手元のレバーを引き、さらにボートを加速させます。
 このスピードなら、相手の砲撃の照準が定まる前に――



 ――バキンッ!



 ――すいません。何か今、嫌な音がしたのですが?

「あの……サイバラさん……?」
「……すまねぇ、ラルフル」

 自分が状況を確認するためサイバラさんの方を振り向くと、その手にはレバーが握られていました――



 ――ボートから外れた状態のレバーを。

「レバー……折れちまったぁ……」
「何やってるんですかぁああ!?」

 これではボートを止めることができません!
 何なのですか!? この人の馬鹿力は!?
 そもそも気合い入れてレバーを引いても、スピードは変わりませんよね!?

「だ、大丈夫だ! まだ舵の操作はできる! これで敵の船に突っ込んでやるぜぇ! シャラァアア!!」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなに気合いを入れたら、また――」



 ――バキィンッ!



 またしても嫌な音がしました。
 そして自分はサイバラさんに再度確認をとります。

「……すいません、サイバラさん。その手に持っているものは何ですか?」
「……すまねぇ、ラルフル。舵……取れちまったぁ……」
「本当に何をやってるんですかぁああ!? あなたはぁああ!?」

 これじゃ、ボートのコントロールが完全に効かないじゃないですか!?
 暴走したボートは揺れながら、敵の船に突っ込んで行きますよ!?
 第一! 敵の船に突っ込むって考え自体が無茶なんですよ!



 これ、もう自分達はおしまいじゃないでしょうか?





 ――キィィイイン!


 そんな慌てふためく自分の耳に、何かが風を切る音をたてながら、こちらへ向かってくるのが聞こえます。
 この音には聞き覚えがあります。

 自分にとって、すごく大事な人の生き写し――



「マスター・ラルフル様を発見しました。制御不能のボートに搭乗中と判断。これより、救助いたします」
「ニナーナさん!!」

 自分達の元に、ニナーナさんが砲弾の雨を抜けながら猛スピードで飛んできました!


 ガシィ!


 そしてそのまま、自分を掴んでボートから離れます。
 どうやら、自分は助かったみたいです。





 ――自分"だけ"は。



「ちょ、ちょっとぉ!? なんでオレは連れて行かねぇんだぁ!?」

 サイバラさんはボートに置いてけぼりです。
 こちらに手を振りながら呼びかけますが、ニナーナさんは完全に無視です。

「ニナーナさん!? サイバラさんも助けてあげてくださいよ!?」
「あの方は重いです。重量オーバーです」

 そうですか……。
 確かに、サイバラさんは重いです。
 心苦しいですが、置いていきましょう。

 さようなら、サイバラさん……。



「ちくしょぉおお!! こうなったら、オレ一人で敵の船にカチ込んでやらぁああ!!」

 あの人、多分大丈夫そうですけど。

「それにしてもニナーナさん。どうしてここに来てくれたのですか?」
「私の前マスター、ドクター・フロストにより、オーバーヒートは修繕されました。よって、予定より早く復帰できました」
「いえ、そういう意味でなくて……。えーと、"どんな手段を使って"、ここに来れたのですか?」
「まだ遠方になりますが、敵艦隊の後ろにある船から飛んできました」

 ルナーナさんがそう言うので、自分はその方角を見てみます。



 ボーネス公爵の艦隊よりも、さらに後方――
 そこには、ルクガイア王国の国章を帆に描いた、巨大な帆船がありました。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:2,543

最強おっさん魔人の生態 ~魔界編~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

神様夫婦のなんでも屋 ~その人生をリセットします~

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:358

異世界マッチョ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:45

処理中です...