記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第26章 追憶の番人『斎』

第384話 最初の場所、最初の因縁

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 オクバ達家族の元を後にし、俺が辿り着いたのはいつもの宿場村だ。
 辺りはもう陽が暮れ、民家の灯りも消えている。
 そして、降り注ぐ雨――

「あの時と同じか。なんとも、おあつらえ向けだな……」

 雨の中、俺は目的の場所へと向かう。
 ミライと再会するまでに寝泊まりしていた宿屋ではない。
 俺が人間として生まれ変わった時、一番最初に向かった場所――



 ガチャン



 俺は唯一灯りがともっていたイトーさんの店に入った。

「ん? 客か? こんな夜中に? 悪いがもう閉店だよ」

 そう言って、店に一人でいたイトーさんが俺に声をかけた。
 最初に会ったあの時と同じセリフで、あの時と同じカウンター越しで――

「悪いが、水を一杯だけめぐんでくれないか?」
「随分と厚かましい客なことだ」

 俺もカウンターに座りながら、あの時と同じように語る。

「お前さん、訳ありか?」

 そしてあの時と同じく、イトーさんは俺へと尋ねる。



「ああ、訳ありだ」
「そうかい。なら、その"訳"ってのはなんだい?」

 ここからはあの時と違う。
 イトーさんは俺の目を真剣に見て、俺の考えを必死に探ろうとしてくる。

 イトーさんもバクトやフロスト辺りから聞かされているのだろう。
 この俺の正体が、【伝説の魔王】ジョウインだということを――

「イトーさん。俺の正体なんだが――」
「聞いたよ。【伝説の魔王】ジョウインの生まれ変わりなんだろ? バクトから聞いた」

 予想通り、俺の正体はイトーさんの耳にも入っていた。
 ならば、俺がここに来た理由も知っているはずだ。

「俺がここに来た理由、イトーさんなら分かってるよな?」
「……ああ。俺もお前さんを待っていた。だからこうして、店で一人待ってたんだ」
「本当にイトーさんは勘が鋭いな。それで、俺の――」
「待った。その話はまず置いといてくれ」

 イトーさんは俺の話を手の平で遮り、カウンターを回り込んでこちらへと出てくる。

「ゼロラ。お前さんが何を言おうとしてるのかも、俺には分かる。だが、俺は今一度お前さんがどういう人間かを、一番わかりやすい方法で確認したい」

 そう言いながらカウンターから出てきたイトーさん――



 ――その腰には、二本の刀が携えられている。

「俺はそもそも剣客として生きてきた人間だ。どんな相手とも――ユメやロギウスとも、剣で語ってきた。そうすることでしか、語れなかったからな……」

 どこか寂し気な声を出しながら、イトーさんは腰に携えた刀の一本を抜く。

 右手に持った刀の切っ先をこちらに向け、その後端を左手で押さえる構え――
 それは俺のよく知る、ユメやロギウスと同じ剣術――<理刀流>。

「……分かった。イトーさんが望むのなら、俺は相手をする。俺もイトーさんに斬られるのなら、悔いはない」
「へへっ、一丁前の口を叩くな。お前さんだって、大人しく斬られるわけには行かないだろ?」

 イトーさんがニヤケながら言う通り、今の俺にはミライがいる。ここで終わるわけにはいかない。
 だが、イトーさんには"俺を斬るだけの理由"が存在する。

 だから――

「イトーさん。俺はあんたとは戦いたくなかった。だが、それでもあんた自身が望むのなら、俺は全力で相手をする」

 俺もイトーさんへと拳を構える。
 イトーさん自らが望むのなら、俺はそれに全力で応じる。

 イトーさんは『長いこと剣なんて握ってない』と言ってたが、その気迫が構えだけでも伝わってくる。

 理刀流宗家、イトー理刀斎――
 その技は、確実にロギウス以上。もしかしたら、ユメよりも――

 イトーさんはとにかく、俺がどういう人間かをその剣で確かめたいらしい。

「有難いな、ゼロラ。俺の剣と、お前さんの拳……。じっくり語り合おうじゃねえか……!」

 俺とイトーさんは距離を置いたまま睨み合う。
 それがお互いの間合いのギリギリ外――

 イトーさんは紛れもない、"達人の剣客"だ。
 油断して勝てる相手じゃない――



「行くぞ、ゼロラ――いや、【伝説の魔王】ジョウイン。イトー理刀斎……圧して参る!!」
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