記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第26章 追憶の番人『斎』

第385話 対決・理刀流宗家①

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 俺とイトーさんは互いに構えながら、相手の動きを伺うように店内で円を描くように歩く。
 こちらから動くのは危険だ。相手はユメとロギウスの師匠、イトー理刀斎――

 下手に動けば、一突きにされる――



「ゼイヤァアア!!」

 そんな時、とうとうイトーさんが動いた。
 切っ先をこちらに向けた構えからの、刺突!
 ユメやロギウスも使っていた、<理刀流>の主流技!

「フゥン!」


 ガキン――


 なんとか拳に<鉄の防御>をかけて、切っ先を反らす。



 だが、<理刀流>の突き技はこれで終わらない。

「<三段突き>!」
「流石に知ってるか!」

 イトーさんは刀をすぐに引き、連続で突きを放つ!
 その鋭さは、ロギウス以上! 無駄のない洗練された動きは、ユメにも引けを取らない!

 動きを読めてはいたが、俺の体にギリギリ当たるかどうかのラインで、俺はその連撃を捌く。

「やっぱり、『長いこと剣なんて握ってない』ってのは、嘘だったんじゃないか?」
「握ってなかったのは事実さ。だが、剣術そのものは俺の体に染みついてる……!」

 イトーさんは再度間合いを取りながら、俺の問いに答える。
 ユメと戦った記憶も蘇った今、俺には分かる。

 この間合いの取り方こそが、<理刀流>の真髄――
 その頂点に位置する宗家のイトーさんは、それを完全に心得ている。

 何年経とうが体から抜けきらない、達人の領域――



 ――ダッ!


 俺は意を決してイトーさんとの距離を詰める。
 この人の間合いで戦うのが危険なことは承知だ。
 それでも、かつてイトーさんの"大事な宝"を奪った俺に、余計な小細工をする資格はない。

「へへっ! そっちから来たか! 行き当たりばったりで終わるなよぉお!!」

 俺はその勢いのまま、右の拳を振りぬく。
 イトーさんは自らの体を右に緩やかに倒しながら、その拳を躱す。

「ゼヤァア!」
「ヌゥウン!」


 ガキン――


 そしてそこから放たれる、イトーさんの刀による横なぎ。
 俺はそれを左腕の<鉄の防御>で防いだつもりだったが――

「くぅ!? 血が!?」
「お前さんの<鉄の防御>、大した強度だな。だが、俺は"鉄だって斬れる"」

 俺の左腕から滲み出る鮮血。
 イトーさんの刀はわずかだが、俺の守りさえも破ってきた。

「イトーさんも<鉄の防御>を知ってたのか……」
「知ってて当然だ。そもそも、<鉄の防御>は俺が編み出した技の一つだ」
「何……!?」

 かつてガルペラの屋敷の図書室で見た本から会得した技だが、その開祖はイトーさんだったのか……。

 確かに今のイトーさんを見れば納得できる。
 <理刀流>という剣術の宗家ならば、様々な戦い方への心積もりもしていて当然だ。
 剣術だけではない。この人は、体術にも秀でている――

「元々は鉄を斬る過程で編み出した技なんだがな。守りにも応用できるようにしたのが、<鉄の防御>だ。それに……こういう技も使える」

 そう言ってイトーさんは構えを変える。
 左にあった刀を右側に構え、左腕は刀を乗せながら、自らを守るように構えている。
 おそらくイトーさんは今、左腕に<鉄の防御>をかけている。

「守りに徹した型か……。ユメも同じ技を使っていたな」
「ああ、そうさ。<理刀流>の技ならば、あの子に使えて俺に使えないものはない。あの子に剣術を教えたのは……この俺だ」

 成程。当然の話だ。
 いくらユメが勇者であっても、その技は全て師匠であるイトーさんから教わったものだろう。



 いや、"師匠"としてではなく、もっと根源的な――

「ボーッとするなよ? こっちから行くぞぉお!!」

 そんな固まっていた俺に、イトーさんの方から突進してくる!
 左腕は眼前に構えたまま! 盾を構えた突進と思っていい!


 キィインッ!


 俺はアッパーでイトーさんの左腕を払う。
 そこから発せられる、金属音――

「詰めが甘いなぁあ!!」

 イトーさんは体を捻りながら、俺の顔面へ刺突を放つ!
 俺は顔を右に傾けて躱したが、イトーさんの――いや、<理刀流>の技はここからも繋がる!

「オラァ!!」
「ちぃ!? 横なぎを読まれたか……!」

 イトーさんは刀の刃を倒し、今度は首元を狙った横なぎを放とうとしていた。
 だが、この技は俺にも読める。
 俺は横なぎへ移られる前に、その刀を左腕で大きく弾く――

「もらったぁあ!」

 イトーさんは刀を弾かれた反動で、後ろ向きに体を捻らせている。
 チャンスはここだ。俺はイトーさん目がけて上段回し蹴りを放つ――





 ――だが、イトーさんは体を一回転させて、すぐにこちらへ向き直る。
 そして構えは一番最初と同じ、<理刀流>の基本的な構えに――

「ゼイィィヤァアッ!!」


 ガキィイン!!


「ば、馬鹿な!?」

 ――そしてそのまま、刀の切っ先で俺の回し蹴りを床へと押し付けてくる!
 常識では考えられない!
 刀の切っ先という、一点だけを使った守り――

「ゼアァア!!」
「うぐぅ!?」

 そしてすぐさま放たれる、俺の鼻を削ぎに行くような切り上げ!
 寸前――本当に寸前のところで俺は体を後ろにそらして避けたが、今の一連の流れだけでも分かる!

 イトーさんの剣術の腕前は、技だけに限ればユメ以上だ――
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