空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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ウォリアール新婚旅行編

ep381 タケゾー「狂人の腹の内を探ってみたい」

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「ここならええやろ。人も通らへん裏路地やし、誰かの目を気にする必要もあらへん」
「随分と怪しげな場所に俺を招くんだな。……まさかとは思うが、本当に俺に何かする気か?」
「アホか。来賓の夫を傷つけるわけないやろ。ここなら人目も気にせずにタバコも吸えるしな。お前ならワイの素顔も知っとるからマスクも外せる」
「……こっちとしては本当にどうでもいい理由だな」

 一度隼と別れ、俺は牙島と一緒に人のいない路地裏へと場所を移す。
 周囲に誰もいないことを確認した牙島は、顔を隠していたフードやグラサンやマスクを外し、素顔で紙タバコを口に咥える。
 確かに俺も牙島の素顔は知ってるが、こうやって近くでハッキリ見るのは初めてだ。今までだとウィッチキャットのカメラ越しにしか見たことがなかった。
 顔を覆う緑の鱗は不気味だし、赤くギラつく瞳も完全に人のものではない。それでも敵意がないのは俺にも分かる。

 ――つうか、中身に関しては一応人間のままなんだな。タバコに火をつけ味わい、普通に煙を吐き出している。

「フゥー……。こないな素顔やから、日本におった時も禁煙条例関係なしにタバコを吸える場所なんてあらへんかったんや。まあ、こういう場所の方が坊主もワイに話をしやすいんとちゃうか?」
「あんたもあんたで苦労はしてんだな。……確かに俺の方もあまり人に聞かれたい話じゃない。特に隼にはな」

 牙島は一服入れながらも、俺に話を振ってくる。知っているとはいえ慣れない怪物顔にビビりそうになるが、こっちも聞いておきたい話はある。
 俺だって隼と一緒に新婚旅行気分に浸りたいが、あいつが後々苦労することを避けるためにも必要なことだ。

「今回の俺達夫婦の新婚旅行だが、そもそもはフロスト博士を始めとしたウォリアールの上層部が『隼個人を呼び出すこと』が発端だ。あんたなら何か知ってるんじゃないか?」
「ほーう、やっぱ気になるんかいな。せやけど、その話はワイができることやないで。ラルカやフェリア様かて、迂闊に口は開かへんやろ?」
「確かにな。だが、俺が見る限りどうにもこちらへの扱いが厚遇すぎる気がするんだ。さっきだってカジノでお前と同じ五艦将のベレゴマがディーラーをしてたしな」
「それは別にベレゴマはんの個人的な副業やろ? 別に偶然五艦将がディーラーしてたかて、この国ではあり得る話やで?」
「まあ、俺もこっちの国の常識には疎いからな。断定できな部分もある」

 さっきまではフクロウさんもいたから俺も迂闊に踏み込めなかったが、隼にも少し離れてもらえれば深い話もできる。
 隼はそこまで気にしていなかったし、何より気にするような人間でもない。それはそれで隼のカラッとした人間性の魅力でもあるが、俺はそこまで簡単に切り替えられない。
 何より、ウォリアールに来てからの俺達への厚遇がどうしても気になる。
 わざわざ旅費を負担してくれたこと然り、ラルカさんがカジノのためにクレジットを用意してくれたこと然り。
 俺達夫婦が来賓と言ってしまえばそれまでだが、そもそも新婚旅行という名目を受け入れてまで隼をウォリアールにやって来させた理由が、奥歯の間に何か詰まったように引っかかって仕方ない。

 ――何より、俺の推測が正しければ『来賓だから』なんて理由で片付けられない出来事が一つある。



「カジノのルーレットで、隼はジャックポットを当てたんだが……あれはもしかして、ベレゴマの仕込みじゃなかいか? ディーラーのあいつなら、それぐらいのことはできるだろう?」
「……ほーう」



 その出来事について俺が語ると、牙島は特に反論もせずにタバコを吸いながら適当な返事を返してくる。
 どことなく認めてこそいれど、公に口にはできないといったところか。少なくとも否定しない時点で、俺の推察が的外れだとは思えない。

「ベレゴマはディーラーをしてる時『俺の目は誤魔化せない』みたいなことを言って、こっちを牽制していた。確かにあいつにはイカサマを見破れるだけの能力はあるのだろう。だがそれは裏を返せば『自分も周囲にバレずにイカサマできる』ということの暗示にもならないか? その能力を使い、周囲にもバレないように隼にジャックポットを当てさせた。事実あの時、ベレゴマは支払うディーラーの側でありながら、どこか反応が薄かったからな」
「……キハハハ! 呑気な魔女ヒーローと違うて、旦那の方は周囲に目を配らせとるもんや。まあ、仮にそうやったとしても、ワイの口から『はい。その通りです』なんてセリフは出せへんな」

 俺が続けて推察した内容を述べても、牙島は適当にはぐらかすだけだ。立場もあって断定こそしないが、半ば認めていると言ってもいい。
 ベレゴマにしたって、少し前に他国の視察に動いていたぐらいだ。そんな忙しい人間が『家庭のため』とはいえ、そうそう別の立場で姿を見せるとは考えづらい。
 要するにウォリアールにとって、隼はそこまでして機嫌を取らないといけない相手という可能性が高い。

 だが、それならば理由の方は何だ? どうしてそこまでして隼を厚遇する?
 肝心な部分が見えてこないし、牙島もこれ以上は語りそうにない。
 俺としてはそこを知っておかないと安心できない。

 ――ここに至る理由が不明のままでは、また隼が危険に晒されてしまう。

「……安心せいや。ワイの口から話されへんだけで、いずれ事実はしかるべき人の口から話される。……その時のためにお前ができることなんざ、覚悟を決めとくぐらいやろ」
「それは『覚悟を決めないといけない事実が存在する』ってことじゃないか? 俺はただ、隼が被害に巻き込まれたくないだけだ……!」
「おうおう、健気な夫なこっちゃ。せやけど、もう時計の針は止まらへんで。お前らがウォリアールに来た――いや、そもそも空色の魔女が将軍艦隊ジェネラルフリートと関わってもうた時点からな」

 こっちとしては気が気でないのに、牙島は飄々とした態度を崩さない。
 吸い終えたタバコを携帯灰皿にしまうと、話を終わらせて立ち去ろうとする。

「とりあえず、坊主も気になる『ウォリアールに関わる事実』っちゅうのは、決して悪い話やない。それ自体は遅かれ早かれ、あの魔女も知っとかなアカンことやからな」
「……本当に焦らしてくれるな。あんた達の隠し事は隼を傷つけない内容だと言い切れるのか?」
「傷つくかどうかは本人次第や。まあ、今は新婚旅行を楽しんどれや。深く考えてもしゃーないっちゃ、しゃーない」

 再び顔を隠して立ち去る牙島の背中を見送ることしかできず、俺は一人路地裏で立ち尽くしてしまう。
 ここまで焦らされても答えが出てこないとなると、ウォリアールや将軍艦隊ジェネラルフリートは裏に想像以上の事実を隠しているとしか思えない。
 それが悪意のないものと言われても、この胸の不安は収まらない。
 一体、隼とウォリアールにどういう関係があるというのだろうか?



 ――いずれにせよ、今の俺にできることは傍にいて支えることだけか。
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